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10年前より後退した日本のイノベーション。現場が痛感する「人」と「組織」の限界

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2026年1月28日、帝国データバンクは企業の「イノベーション活動に関する意識調査」の結果を発表しました。第6期科学技術・イノベーション基本計画が最終年度を迎え、次期計画の策定が進むなか、政府はDFFT(信頼性のある自由なデータ流通)やデジタル行財政改革を推進しています。こうした社会的な文脈のなかで実施された本調査は、日本企業の「稼ぐ力」の源泉ともいえるイノベーションの実態について、看過できない課題を浮き彫りにしました。

調査結果によると、直近3年間でイノベーション活動を実施した企業は3割半ばにとどまり、10年前と比較して実施割合が低下していることが明らかになっています。デジタルトランスフォーメーション(DX)の声高な叫びとは裏腹に、現場での革新活動はむしろ停滞気味である状況です。

今回は、低下する実施率の背景にある構造的な要因、進展する「プロセス」と欠如する「人材」、そして多くの企業が渇望する「組織イノベーション」への転換について取り上げたいと思います。

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イノベーション実施率の低下が示唆する「二極化」の進行

過去3年間(2023~2025年)において、何らかのイノベーション活動を実施した企業は35.9%でした。これは2015年時点の39.4%と比較して3.5ポイントの低下を示しています。この数値の減少は、イノベーションに取り組む企業と、そうでない企業の選別が進んでいることを示唆しています。

企業規模別のデータを見ると、この傾向はより顕著です。大企業の実施率が47.8%と半数近くに達しているのに対し、小規模企業では26.3%にとどまっています。経営資源に余裕のある大企業がイノベーションを主導する一方で、小規模企業は人材や資金の制約から取り組みが困難な状況にあると考えられます

また、同一企業を追跡したパネルデータにおいても、10年前と現在の双方で「実施なし」と回答した企業が45.7%にのぼっています。半数近くの企業が長期間にわたりイノベーションから距離を置いている状況は、産業全体の新陳代謝を考えるうえで懸念される材料といえるでしょう。

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出典:帝国データバンク イノベーション活動に関する意識調査 2026.1

「プロセス・イノベーション」への偏重とデジタル化の功罪

実施されたイノベーションの内容を詳細に見ると、日本企業の戦略的な重心が浮かび上がります。4つのタイプ(プロダクト、プロセス、組織、マーケティング)のうち、最も実施割合が高かったのは「プロセス・イノベーション」で19.8%でした。これは、生産工程や配送方法、それらを支援する活動において新しい方法を導入する動きです

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出典:帝国データバンク イノベーション活動に関する意識調査 2026.1

その効果として最も多く挙げられたのが「業務のデジタル化が進んだ」であり、プロセス・イノベーションを実施した企業の約半数がこの効果を実感しています。業務効率化やコスト削減を目的としたデジタル化は着実に進展しているといえます。

一方で、新しい製品やサービスを市場へ導入する「プロダクト・イノベーション」や、新たな販路を開拓する「マーケティング・イノベーション」の実施率は相対的に低くなっています。効率化という「守りのイノベーション」には熱心ですが、新たな市場価値を創出する「攻めのイノベーション」においては、依然として慎重な姿勢が崩れていない状況です。

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出典:帝国データバンク イノベーション活動に関する意識調査 2026.1

最大の障壁となる「人材不足」と組織の硬直性

イノベーションを阻害する要因についての回答は、日本企業が抱える根深い課題を映し出しています。最も多くの企業が挙げた要因は「能力のある従業員の不足」で、37.5%に達しました。次いで「自社の専門部署の不足」(26.0%)が続いています

資金不足(12.2%)や技術情報の不足(19.1%)よりも、圧倒的に「ヒト」の問題がボトルネックとなっています。企業からは「社内で新しいアイデアが出てこない」といった声や、「組織再編にともなう従業員の戸惑い」といった意見が聞かれています

既存の業務プロセスをデジタル化するツールを導入しても、それを使いこなし、新たな価値へと転換できる人材がいなければ、イノベーションは完遂されません。現場からは、JISや業界団体による規制が自由な発想を阻害しているとの指摘もあり、人材の質だけでなく、人材を取り巻く環境や制度の硬直性も課題となっています。

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出典:帝国データバンク イノベーション活動に関する意識調査 2026.1

次なる焦点は「組織イノベーション」への構造転換

現状の課題を踏まえ、企業はどこへ向かおうとしているのでしょうか。今後力を入れたいイノベーション活動として、最も高い支持を集めたのが「組織イノベーション」であり、29.0%の企業が意欲を示しています

組織イノベーションとは、業務慣行や職場組織の編成、対外的な関係構築において新しい方法を導入することを指します。企業は、単なるツールの導入や製品改良だけでは限界があることを認識し始めています。意思決定の迅速化、権限委譲、あるいは外部との連携強化など、組織のOS自体をアップデートしようとする意図が読み取れます。

企業の声としても、「組織の活性化が必要で、人事・評価制度などの大幅な改定をやろうとしている」といった意見が挙がっています。プロセス(How)の改善から、組織(Who/Structure)の変革へと、関心の中心が移行しつつある点は、今後の希望となる兆候といえます。

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出典:帝国データバンク イノベーション活動に関する意識調査 2026.1

10年越しの停滞を打破するために求められる視点

10年前と比較してイノベーション実施率が低下したという事実は、従来の延長線上の取り組みでは成果が出にくくなっていることを示しています。2015年と2025年の両方でイノベーションを実施し続けている企業は20.7%、つまり5社に1社に過ぎません

継続的にイノベーションを起こしている企業からは、「コミュニケーションが活発化し業務の標準化が進んだ」といった肯定的な効果が報告されています。イノベーションを一過性のイベントではなく、企業の文化として定着させることが重要となります。

大企業と中小・小規模企業の格差が拡大するなかで、小規模企業にとっては、大規模な投資を伴わない「組織イノベーション」や、市場での立ち位置を変える「マーケティング・イノベーション」が生き残りのカギとなります。規模の大小にかかわらず、組織の柔軟性を高めることが、不確実な時代における共通の解となるでしょう。

今後の展望

調査結果が示す通り、日本企業は「プロセスのデジタル化」という第一段階を経て、今後は「組織と人材の変革」というより本質的かつ難易度の高いフェーズへ移行することが想定されます。特に「能力のある従業員の不足」が最大の阻害要因となっている現状を踏まえると、外部人材の活用やリスキリングを含めた人的資本経営の実践が、イノベーション成否の分水嶺となるでしょう。

今後は、単に新しい技術を導入するだけでなく、それを運用する「人」と「組織」のあり方を根本から見直す取り組みが不可欠となります。「組織イノベーション」への意欲が高いことは前向きな材料ですが、それを具体的な人事制度や風土改革に落とし込めるかが問われています。企業は、効率化で得た余力を、既存事業の延命ではなく、次代を担う人材の育成と組織の再構築へ大胆に再投資することが求められています。

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