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監査における生成AI活用、成功と失敗を分ける「データ品質」

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米ガートナー(Gartner)は2026年1月27日、企業の監査部門におけるテクノロジー活用に関する最新の調査結果を発表しました。

Gartner Survey Shows Audit Departments Are Embracing AI and Data Analytics to Drive Innovation in 2026

この発表が示唆する社会的文脈は、企業のガバナンス機能が大きな転換期を迎えているという現状です。最高監査責任者(CAE)の多くが、生成AIやデータ分析の活用を最優先課題として掲げる一方で、その実現に対する自信を持てていないという「意識と実態のギャップ」が浮き彫りになりました。

リソースが制限されるなかでリスクが複雑化する現代において、監査部門がどのようにイノベーションを起こし、組織への価値提供を変えていくのか。これは単なるツール導入の話ではなく、企業のリスクマネジメントのあり方を問うテーマといえます。今回は、ガートナーの調査結果から見える監査部門の苦悩と挑戦、AI導入の現実的な壁、そしてデータ分析戦略の修正と今後の展望について取り上げたいと思います。

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「イノベーションのジレンマ」に直面する監査部門

ガートナーが2026年1月に発表した調査によると、70%以上の最高監査責任者(CAE)が、チーム内のイノベーション文化の醸成や、生成AIおよびデータ分析の活用を「重要」または「極めて重要」な優先事項としています。この背景には、組織が直面するリソースの制約と、急速に変化するリスク環境があります。従来の人的リソースに頼った監査手法では、拡大する監査範囲や複雑化するビジネスプロセスに対応しきれないという危機感が、CAEたちをテクノロジー活用へと駆り立てていると考えられます。

一方で、注目されるのは、優先順位が高い領域ほど、CAEが「対処する自信がない」と感じている点です。多くのリーダーがイノベーションの必要性を認識しつつも、具体的な戦略や実行体制の構築において不安を抱えている状況です。これは、監査部門が単に新しいツールを導入すればよいという段階を超え、組織文化やスキルセットの根本的な見直しを迫られていることを示しています。テクノロジーへの期待と、現場の実装能力との間に横たわる溝をどう埋めるかが、2026年の大きな論点となっています。

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出典:ガートナー 2026.1

生成AI導入の加速と「足元の課題」

生成AIの活用は、監査業務の効率化や高度化において大きな期待を集めています。調査では、監査機能の83%がすでにAIを試行または使用しており、さらに12%が1年以内の導入を計画しているといいます。この数字は、AIがもはや将来の技術ではなく、現時点での実務的な選択肢となっていることを示しています。報告サイクルの短縮や異常検知の高速化、リスク評価の適応力向上など、成功した組織が得ているメリットは明確です。

AIへの熱意が必ずしも成果に直結しているわけではありません。ガートナーの研究者は、AI活用の進展が「データの質の低さ」や「技術開発スキルの不足」といった根本的な問題によって制限されていると指摘しています。高度なAIモデルを導入しても、その学習や分析の基盤となるデータが整備されていなければ、期待される洞察は得られません。多くの監査部門にとって、AI活用の本質的な戦いは、華やかなツールの選定ではなく、地道なデータガバナンスの整備や、テクノロジーを使いこなす人材の育成にあることが浮き彫りになっています。

「全方位的な分析」から「価値ある一点突破」へ

これまで多くの監査部門は、データ分析の適用範囲を広げること、いわば「あらゆる場所での分析(Analytics Everywhere)」を目指して多額の投資を行ってきました。期待通りのパフォーマンス向上を実現できている組織は多くありません。データ品質の問題やリソースの分散が、成果の創出を妨げている状況です。広範囲に網をかけるアプローチは、リソースが潤沢な環境では有効かもしれませんが、制約のある現状では非効率を生む原因となりかねません。

ガートナーは、このアプローチを見直す時期に来ているとしています。推奨されるのは、ビジネスニーズと密接に関連し、測定可能な成果をもたらす「ターゲットを絞った高付加価値なアプリケーション」へのリソース集中です。やみくもに分析範囲を広げるのではなく、リスクが高く、経営への貢献度が大きい領域に分析能力を集中させる戦略への転換が求められています。これは、監査部門が「すべてをチェックする」役割から、「重要なリスクを予見し、経営に資する洞察を提供する」役割へと、その機能を再定義することと同義といえるでしょう。

今後の展望

監査部門におけるAIやデータ分析の活用は、業務効率化の手段にとどまらず、ガバナンスの質を変えるための必須条件となりつつあります。今後は、AI導入そのものを目的化せず、解決すべきリスクや経営課題から逆算してテクノロジーを適用する「課題解決型」のアプローチがより一層重要となります。データ品質の向上や専門人材の育成といった基礎体力の強化なしには、AIのポテンシャルを引き出すことは難しいでしょう。

企業には、監査部門を単なる管理機能としてではなく、データに基づいた戦略的パートナーとして位置づける意識改革が期待されます。

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