2027年メモリ市場8400億ドルへ:AI進化が招く「構造的欠乏」
半導体市場調査会社のTrendForceは2026年1月22日、AIアーキテクチャの進化がメモリ市場に劇的な構造変化をもたらしているとの調査結果を発表しました。
本発表は、生成AIの急速な普及と、それに伴うデータセンターへの投資拡大という社会的な文脈のなかで行われたものです。調査では、2027年には市場規模が8,427億ドル(約120兆円規模)という未曾有のピークに達すると予測されています。ここで明らかになった課題は、単なる需要増加ではなく、AIが「学習」から「推論・エージェント型」へと進化する過程で、メモリに求められる役割が質的に変化している点です。市場規模の拡大は、企業にとってコスト増となる一方で、新たな技術革新の好機でもあります。
今回は、予測される市場の急成長、DRAMとNANDそれぞれに起きている技術的かつ構造的な変化、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

AIアーキテクチャが牽引する「スーパーサイクル」の到来
TrendForceの最新データによると、メモリ市場は新たな成長局面、いわゆる「スーパーサイクル」に突入したことが示されています。2026年の市場規模は5,516億ドル、さらに2027年には前年比53%増の8,427億ドルに達すると予測されています。この数字は、過去のシリコンサイクルの波を大きく超えるものです。
2025年初頭、地政学的な緊張やマクロ経済の不透明感が市場心理を冷やし、民生用アプリケーションの回復は遅れていました。一方で、北米のクラウドサービスプロバイダー(CSP)は2025年後半から設備投資を大幅に増額しています。AIサーバーの配備が加速し、メモリ調達が急増したことで、価格上昇の新たな波が引き起こされました。この現象は、メモリが単なる「データの保管場所」から、AIシステムの性能を決定づける「計算インフラの中核」へと価値を転換させたことを意味しています。
構造的欠乏が生むDRAM価格の高騰
この市場拡大の主役となっているのがDRAMです。データアクセス量の爆発的な増加に伴い、大規模なモデルパラメータの処理や並列処理を行うために、広帯域かつ大容量のDRAMが不可欠な状況です。TrendForceは、2026年のDRAM市場だけで4,043億ドルに達し、前年比144%増という驚異的な伸びを示すと予測しています。
従来、四半期の価格上昇率はピーク時でも35%程度でした。ただ、昨年の第4四半期にはDDR5への強い需要から53~58%の上昇を記録しています。さらに2026年第1四半期には一部のカテゴリーで価格が倍増する可能性さえ指摘されています。これは供給側の生産能力不足に加え、AIワークロードが高度化し、要求されるスペックが既存の生産ラインでは対応しきれない「質の欠乏」が起きているためと考えられます。サプライヤーは生産戦略においてDRAMの能力拡張に重点を置いていますが、需給の逼迫は当面続くと想定されます。

出典:TrendForce 2026.1
エージェント型AIとRAGが変えるNANDの価値
DRAMだけでなく、NANDフラッシュ市場にも質的な変化が起きています。NvidiaがCES 2026で言及したように、AIは「生成」から、長期的な推論や自律的な判断を行う「エージェント型システム」へと進化しています。エージェント型AIは、外部知識を検索して回答を生成するRAG(検索拡張生成)を頻繁に行う必要があり、膨大なベクトルデータベースへのアクセスが常時発生します。
この処理には、ランダムアクセス性能に優れたエンタープライズSSDが不可欠となります。これまでの「大容量保存」という役割に加え、「高速な知識検索」という新たな役割がNANDに求められています。TrendForceは、この需要変化により2026年のNAND市場規模が前年比112%増の1,473億ドルに達すると見込んでいます。AIの「脳」にあたる部分だけでなく、「記憶」にあたるストレージの高速化が、システム全体のボトルネック解消に重要となります。
サプライヤー優位の市場構造と企業の対応
メモリ市場全体を見渡すと、供給の逼迫が解消される兆しは見られず、価格決定権は完全にサプライヤー側に移行しています。TrendForceは、AIブームがハードウェア、システムアーキテクチャ、ソフトウェアの全層で進行しており、メモリがAIコンピューティングにおいて代替不可能なコンポーネントになったとしています。
CSPやエンタープライズ企業にとって、メモリ調達コストの上昇は避けられない課題です。ただ、高性能メモリの確保は競争力の源泉そのものであり、投資を惜しむことはできません。2027年まで続く価格上昇トレンドのなかで、企業は在庫戦略の見直しや、より効率的なデータ処理アーキテクチャへの移行など、抜本的な対策が必要となります。もはやメモリは市況商品(コモディティ)ではなく、戦略物資としての性質を帯びているといえます。
今後の展望
2027年に向けてメモリ市場は未曾有の活況を呈すると想定されます。AIが社会インフラとして定着するにつれ、メモリは「計算資源」の一部として再定義され続けるでしょう。企業には、単なるコストアップへの対応だけでなく、高騰するメモリ資源を最大限に活用するためのソフトウェア最適化や、新たなアーキテクチャへの適応が求められます。
また、この巨大な需要は、日本の素材・製造装置メーカーにとっても大きな商機となります。メモリの微細化や積層化技術を支えるのは、高度な製造プロセスだからです。市場の拡大を単に「調達難」と捉えるのではなく、バリューチェーン全体での付加価値向上につなげる視点が重要となるでしょう。