オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

生成AIが引き起こす「第2次クラウド爆発」と産業構造の地殻変動

»

シナジーリサーチグループが2026年2月5日に発表した最新の調査データは、クラウドインフラ市場における歴史的な転換点を浮き彫りにしました。2025年第4四半期の企業によるクラウド支出は、前四半期比で約120億ドル、前年同期比で290億ドルという驚異的な増加を記録しています。

GenAI Helps Drive Quarterly Cloud Revenues to $119 Billion as Growth Rate Jumped Yet Again in Q4

この数値は、市場規模が現在の半分以下であった2022年初頭以来の成長率であり、AI需要が単なる一過性のブームではなく、産業構造を根底から作り替える駆動力であることを示唆しています。生成AIがもたらした「オーバードライブ」とも呼べるこの状況は、従来のIT投資の常識を覆す規模で進行しています。

今回は、ハイパースケーラーの勢力図の変化、新興勢力である「ネオクラウド」の台頭、そして地域ごとの成長格差から見えるエネルギーとインフラの課題、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

スクリーンショット 2026-02-06 7.57.24.png

限界なき拡張、30%成長の深層

2025年通年の市場規模は4190億ドルに達し、第4四半期だけで前年比30%の成長を記録しました。成熟した巨大市場において、9四半期連続で成長率が加速し続けるという現象は、経済の教科書的な常識では説明がつかない事態といえます。これは、クラウド市場が「既存システムの置き換え」というフェーズを終え、AIによる「新たな価値創出の基盤」へと完全に移行したことを意味します。

ジョン・ディンスデール氏が指摘するように、生成AIはクラウド市場を「オーバードライブ」の状態に押し上げました。AI特化型サービスが成長の大部分を牽引している一方で、AI技術がクラウドポートフォリオ全体を底上げし、収益を全方位で押し上げています。ここから読み取れるインサイトは、AIが独立したオプションではなく、すべてのITインフラに組み込まれる「前提条件」になったということです。企業活動における計算資源(コンピュート)の消費量は、今後も指数関数的に増大し続けることが想定されます。

スクリーンショット 2026-02-06 7.58.11.png

出典:シナジーリサーチグループ 2026.5

「ビッグ3」の支配と内部の地殻変動

Amazon、Microsoft、Googleの3社による寡占状態は依然として強固であり、パブリッククラウド市場におけるシェアは合計で68%に達しています。Amazonが市場をリードする一方で、MicrosoftとGoogleが高い成長率を維持している点は注目に値します。それぞれのシェアはAmazonが28%、Microsoftが21%、Googleが14%となっており、後発2社の猛追が続いています。

ハイパースケーラーが提供する価値も大きく変化しています。従来、彼らはストレージやデータベースといった汎用的なインフラの提供者でした。現在では、AIモデルのトレーニングや推論に不可欠なGPUリソースの安定供給者としての役割が求められています。その結果、莫大な設備投資に耐えうるこれら3社への依存度が、これまで以上に高まる構造となっています。競争力の源泉が「ソフトウェアの機能」から「物理的な計算能力と電力確保」へとシフトしている状況です。

ネオクラウドの台頭、CoreWeaveが示す新時代

本調査で最も示唆に富むデータの一つが、CoreWeaveをはじめとするティア2プロバイダーの躍進です。わずか2年前には実質的なスタートラインに立っていたCoreWeaveが、現在では四半期で15億ドル以上の収益を上げ、トップ10プロバイダーの一角を占めるに至りました。OpenAI、Oracle、Crusoe、Nebiusといったプレイヤーも高い成長率を記録しています。

これは、クラウド市場における「機能分化」を示しています。汎用的なタスクはハイパースケーラーが担い、AI開発に特化した高負荷な計算処理は、GPUネイティブなインフラを持つネオクラウドが担うという住み分けが進行しています。CoreWeaveのような企業が、従来のIT巨人を凌ぐ成長を見せている事実は、市場が「総合デパート型」から「専門店型」の価値を再評価し始めたことの現れと考えられます。AI開発に最適化されたインフラを選択することが、競争優位に直結する時代が到来しています。

地政学とエネルギーが描く成長地図

地域別の成長率を見ると、米国市場の圧倒的な規模と30%という成長率が際立っていますが、アイルランド、スウェーデン、ポーランドといった欧州諸国、そしてインド、インドネシアといったアジア諸国でも世界平均を上回る成長が見られます。米国市場の規模はAPAC地域全体をはるかに凌駕しており、テクノロジーの「米国一極集中」が加速しているようにも見えます。

アイルランドやスウェーデンでの高い成長率は、データセンターの立地条件として、電力供給の安定性や冷却効率、そしてデータ主権に関する法規制が深く関わっていると推察されます。クラウドは「雲」という比喩で語られますが、その実体は膨大な電力と物理スペースを消費する巨大な産業施設です。今後の成長地図は、AI需要だけでなく、エネルギー政策や土地利用の制約によって塗り替えられていくことが予想されます。

今後の展望

クラウド市場の急拡大は、デジタル経済の枠組みを超え、エネルギーインフラや国家戦略と密接にリンクするフェーズに入りました。2026年以降、企業は単にクラウドを利用するだけでなく、「どのクラウドを、何の目的で使うか」という戦略的な選別が重要となります。汎用業務にはハイパースケーラーを、AI開発や高度な計算処理にはネオクラウドを組み合わせる「ベスト・オブ・ブリード」型のマルチクラウド戦略が、コスト効率とパフォーマンスを両立させる鍵となるでしょう。

また、AIによる電力消費の増大は、持続可能性という観点から新たな課題を突きつけています。これに対し、省電力技術や再生可能エネルギー活用に優れたプロバイダーを選定することが、企業の社会的責任(CSR)としても求められています。

Comment(0)