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2026年、企業を襲う「地政学リスク」と「国内コスト増」の二重苦

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帝国データバンクは、2026年1月16日に「2026年の注目キーワードに関するアンケート」の結果を発表しました

この調査は2026年1月9日から14日にかけて実施され、1,247社の有効回答を得たものです 。調査結果が示唆しているのは、国際情勢の不安定化と国内経済の構造的なコスト増が、企業経営に同時に押し寄せている現状です。トップに挙げられた「チャイナリスク」をはじめ、上位には国際問題や物価上昇に関連するワードが並びました 。これは、海外取引の有無にかかわらず、あらゆる企業が地政学的な変動やマクロ経済の影響を直接的に受ける段階に入ったことを意味します

本稿では、企業が懸念する地政学リスクの実態、定着するインフレと賃上げ圧力への対応、そして高市政権下での政策やAIなどの技術トレンドがもたらす変化について、アンケート結果から見えてくる深層的な課題を取り上げたいと思います。

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「地政学リスク」が経営の最優先課題となる時代

2026年の企業経営において、地政学リスクは避けて通れない最大の懸念事項となっています。アンケート結果において、「チャイナリスク」が74.8%という圧倒的な割合でトップとなりました 。これは、台湾問題や日中関係の悪化、さらにはレアアースの輸出制限といった具体的な懸念が、実体経済への影響として認識されているためです 。注目されるのは、この懸念が輸出入を行う企業にとどまらず、国内需要中心の企業にも広がっている点です。サプライチェーンの寸断は、即座に国内の調達難やコスト増へと直結するからです。

加えて、2位には「アメリカ・ファースト」が63.7%でランクインしました 。トランプ関税や、ドナルドとモンロー主義を掛け合わせた造語である「ドンロー主義」などが意識されており、米中双方の動向が日本経済に与える影響への警戒感が高まっています 。企業からは「世界は米国、中国に振り回されて大きく変貌を遂げるきっかけとなる1年になる」との声も聞かれ、国際秩序の変動が経営の前提条件を根本から揺さぶっている状況です

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出典:帝国データバンク 2026.1

「コストプッシュ」の常態化と労働市場の逼迫

外部環境の不確実性と並行して、国内要因によるコスト負担の増加も深刻さを増しています。3位に「円安インフレ」(58.6%)、4位に「賃上げ圧力」(49.2%)が入り、物価と人件費の上昇が経営を圧迫し続けている現状が浮き彫りとなりました 。円安による原材料価格の上昇は企業物価を押し上げ、それが賃上げへの要求へとつながる悪循環が生じています

業界別に見ると、この傾向はより顕著になります。「運輸・倉庫」業界では、「賃上げ圧力」が64.2%と全体を15.0ポイントも上回りました これは2024年問題以降続くドライバー不足や運賃値上げへの対応が、2026年時点でも解決されていないことを示唆しています。「売り上げの減少かつ人材不足で、賃上げをしたいものの原資がない」という中小企業の切実な声もあり、価格転嫁力の格差が企業の淘汰を加速させる要因となり得ます 。また、「建設」業界では人手不足を背景に「脱・働き方改革」が34.6%と注目されており、労働規制と現場の実態との乖離が課題となっています

技術と政策が描く新たな成長と停滞の境界線

リスクへの警戒が強まる一方で、成長への期待や新技術への関心も混在しています。5位には「AIバブル」(41.8%)がランクインしました 。生成AIなどの普及が進む中で、期待とともに「バブル」という言葉が選ばれている点には、過熱感への冷静な視点あるいは実用段階での選別が始まっていることがうかがえます 。金融業界からは「AIの実装が進みフィジカルAIが注目される」といった声もあり、デジタル空間にとどまらない物理的な業務プロセスへのAI適用が進行しています

また、2026年の政治状況として「高市政権」による政策運営への注目が集まっています 6位の「責任ある積極財政」(38.3%)や、戦略分野としての「半導体産業」(36.6%)、「サイバーセキュリティ」(35.9%)などが上位に入り、政府主導の産業政策がビジネスチャンスとして捉えられています 。経済安全保障の観点からも、重要物資の国産化や供給網の強靭化に関連する分野は、官民一体となった投資が継続すると考えられます。

気候変動と人口動態が変える消費と社会

マクロ経済や技術以外の視点として、環境変化や人口動態に関するキーワードも無視できません。小売業界を中心に注目されているのが「二季の国(夏冬二季化)」で、全体では18.4%ですが、小売業界では33.3%と高い関心を集めています 。春や秋が短くなる気候変動は、アパレルや季節商材の販売サイクルを狂わせ、在庫管理の難易度を高めます。「気候変動によってキーワード全てへの影響が想定される」との指摘もあり、ビジネスモデルの前提として気候リスクを織り込むことが求められています

さらに、「重老齢社会(後期高齢者5人に1人)」が36.2%で8位に入りました 。超高齢化社会の到来は、労働力不足を加速させるだけでなく、消費構造や医療・福祉ニーズの質的転換をもたらします。独身税(子ども・子育て支援金制度)への関心も14.5%存在し、現役世代の負担増が消費意欲に与える影響も注視が必要です 。人口減少と気候変動という不可逆的な変化に適応できるかどうかが、企業の持続可能性を左右することになります。

今後の展望

2026年は、地政学的な分断と国内の構造的なコスト増が同時に進行する、極めて舵取りの難しい1年となることが予想されます 。アンケート結果が示すように、企業の関心は「成長」よりも「リスク対応」に重心が置かれている状況です。高市政権による積極財政や経済対策への期待はあるものの、自律的な対応力が問われます

企業に求められるのは、チャイナリスクや円安インフレを「外部環境の悪化」として受動的に捉える姿勢からの脱却です。調達先の多角化によるサプライチェーンの再構築、AI活用による徹底した省力化、そして気候変動をも商機に変える柔軟な事業ポートフォリオへの転換が必要となります 外部環境に振り回されるのではなく、環境激変を前提とした強靭な経営体質へと進化できるかどうかが、この複合危機の時代を生き抜く鍵となるでしょう。

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