« 2011年12月12日

2011年12月13日の投稿

2011年12月15日 »

広島市立大学の加治屋健司さんから「美術フォーラム21」Vol.24「特集:漫画とマンガ、そして芸術」を送っていただいた。加治屋さんはこの特集に「石子順造の知覚論的転回 -マンガ批評を中心に-」という論文を寄せている。

「マンガ批評を中心に」というところがミソで、専門の美術史・表象文化論の立場から、当時の「芸術」を巡る言説空間から、あらためて石子順造の営為を評価しようとしている。もともとマンガ批評の領域からは、石子はマンガ評論家として、60~70年代マンガ言説の立ち上がりの中で評価されてきた。が、その限界の中ではこぼれ落ちてしまう領域、石子がもともと「美術」「芸術」の概念を押し広げ、マンガや絵画やキッチュやという、多領域横断的な評価概念を追及していたことを正当に評価しようとしているのだ。

僕などには美術史のきちんとした素養も訓練もないので、これは本当にありがたい仕事である。また、マンガ、漫画という言葉の領域が閉じていった時代を越えて、ようやくその「閉じた」内側と外側を問う時代になった今、マンガ論、マンガ言説史においても、これは重要な論文になると思う。個人的にも、石子さんが正当に評価されることは嬉しい。

石子と鶴見俊輔は、当時の知識人として多くの文化領域を、上位文化だけでなく下位文化まで貫いて語ろうとしていた。そのために概念の拡張が必要で、鶴見の場合はそれが「限界芸術」論になった。彼らだけでなく、多くの知識人が同じ問い直しの文脈の中にいた。ただ、若いマンガ青年たちは、そのことを斬って捨てるかのようにして、「戦後マンガ」を自明の領域として自在に語り始めていった。僕もその一人だ。その行き違いによって、今は見えなくなった多くの問題が残されているといえる。

» 続きを読む

natsume

« 2011年12月12日

2011年12月13日の投稿

2011年12月15日 »

» このブログのTOP

» オルタナティブ・ブログTOP



プロフィール

夏目 房之介

夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

詳しいプロフィール

Special

- PR -
最近のコメント
最近のトラックバック
カレンダー
2013年5月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
natsume
Special オルタナトーク

仕事が嫌になった時、どう立ち直ったのですか?

カテゴリー
エンタープライズ・ピックアップ

news094.gif 顧客に“ワォ!”という体験を提供――ザッポスに学ぶ企業文化の確立
単に商品を届けるだけでなく、サービスを通じて“ワォ!”という驚きの体験を届けることを目指している。ザッポスのWebサイトには、顧客からの感謝と賞賛があふれており、きわめて高い顧客満足を実現している。(12/17)

news094.gif ちょっとした対話が成長を助ける――上司と部下が話すとき互いに学び合う
上司や先輩の背中を見て、仕事を学べ――。このように言う人がいるが、実際どのようにして学べばいいのだろうか。よく分からない人に、3つの事例を紹介しよう。(12/11)

news094.gif 悩んだときの、自己啓発書の触れ方
「自己啓発書は説教臭いから嫌い」という人もいるだろう。でも読めば元気になる本もあるので、一方的に否定するのはもったいない。今回は、悩んだときの自己啓発書の読み方を紹介しよう。(12/5)

news094.gif 考えるべきは得意なものは何かではなく、お客さまが高く評価するものは何か
自社製品と競合製品を比べた場合、自社製品が選ばれるのは価格や機能が主ではない。いかに顧客の価値を向上させることができるかが重要なポイントになる。(11/21)

news094.gif なんて素敵にフェイスブック
夏から秋にかけて行った「誠 ビジネスショートショート大賞」。吉岡編集長賞を受賞した作品が、山口陽平(応募時ペンネーム:修治)さんの「なんて素敵にフェイスブック」です。平安時代、塀に文章を書くことで交流していた貴族。「塀(へい)に嘯(うそぶ)く」ところから、それを「フェイスブック」と呼んだとか。(11/16)

news094.gif 部下を叱る2つのポイント
叱るのは難しい。上司だって人間だ、言いづらいことを言うのには勇気がいるもの。役割だと割り切り、叱ってはみたものの、部下がむっとしたら自分も嫌な気分になる。そんな時に気をつけたいポイントが2つある。(11/14)

news094.gif 第6回 幸せの創造こそ、ビジネスの使命
会社は何のために存在するのでしょうか。私の考えはシンプルです。人間のすべての営みは、幸せになるためのものです――。2012年11月発売予定の斉藤徹氏の新著「BE ソーシャル!」から、「はじめに」および、第1章「そして世界は透明になった」を6回に分けてお送りする。(11/8)

オルタナティブ・ブログは、専門スタッフにより、企画・構成されています。入力頂いた内容は、アイティメディアの他、オルタナティブ・ブログ、及び本記事執筆会社に提供されます。


サイトマップ | 利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | お問い合わせ