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夏目房之介の「で?」

夏目ゼミ講義「問題の立て方」

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夏目「批評研究」ゼミ(学部生も可)で、「問題の立て方」というレクチャーをやりました。
5年間やって、ようやくこういうレクチャーを組み立てられる余裕ができた、というか。
最後30分ほどで、3人の学生に例題で演習をしてもらいました。この方法はなかなかいいので、今後も取り入れたいですね。

2013年夏目ゼミ3限 批評研究 5月15日 第六回 メモ「問題の立て方」  夏目房之介 

論文では「問題の立て方」が問題になる  鹿島茂『勝つための論文の書き方』(文春新書)参照

★「私は○○が好き」→「だから研究したい」or「素晴らしい」 これは問題を立てたことにならない

例文 私は猫が好き 私はアニメが好き

変換1 猫はなぜ人に好かれるのか? アニメはなぜ人々に好まれるのか?

 私的な「好き」感情を論理整合的に説明することはできないし、しても「好き」の本質説明にはなりえない。そこで「私は」という主体を変換する。問題の主体を対象そのものにし、それが一般に「好き」とされる「現象」として問題化してみる。

変換2 猫はなぜ、ある種の人に好かれるのか? アニメはなぜある種の人々に好まれるのか?

 一般化された人や人々は、そのままでは一般性を証明できない。好きじゃない人も多いのが常識だから。そこで、「限定」をする。この場合、じつは問題が二つに分かれている。

 1.ある種の人々とは、どんな人々か? 2.好かれるのはなぜか?

変換3 A.猫を好む人々の共通点や特性は何か? B.彼らはなぜ猫を好むのか?

    A.アニメを好む人々の共通点や特性は何か? B.彼らはなぜアニメを好むのか?

 Aの範囲を特定し、フィールドワーク(実地調査)することも可能(たとえばペットショップや獣医、ペットエステでの取材)。また、Aの疑問はとりあえず棚に置いて、「なぜ好むか」にシフトすることも可能。アニメの場合であれば、市場データを収集し、先行研究を調べ、一般ユーザーとコアなおたく層の共通点や差異を考え、その嗜好や消費動向の違いへと問題を移行させることも可能。具体的な資料体の発見が重要である。

変換4 彼らは、どのように猫orアニメを好むのか? WhyからHowへ 

 「好む」ことを客観的な現象として取り扱うためには、その具体的な態様を収集し、比較検討し、そこに共通点や差異を見出して、リストアップする必要がある。さらに他のジャンル(ことに先行研究の成果がある領域)と比較したり、歴史的に掘り下げたりすることで、そこに変遷や固有の「しくみ」を見出す必要が生じてくる。

 ★Why(変換3まで)の問いは、直接に本質を問うており、直接答えることが難しいか、抽象論観念論にすぎない議論になりがち。じつは、多くの学生がここで「問い」を発展させられなくなる。

 WhyをHowに変換することで、本質的問いをとりあえず棚にあげ、具体的な事象から経過や態様を拾い出せる「問い」に変えることができる。「問い」の変換と研究対象(資料体)の発見検証を同時並行で。

変換5 「猫の愛玩行動とリラックス効果」 「アニメ受容の態様と特性」

 論文的な「問題」提起の文体への変換。ただし、これでは具体的な対象の絞り込みが不十分なので、

「猫カフェにおける愛玩行動とリラックス効果」 「1990年代におけるアニメ受容の態様と特性」など、場や時代の絞り込みが必要。それにともなって、他のジャンルや時代との比較検討も必要(犬、植物、60~80年代、実写映画、小説など)。これらの「問い」も検証過程で随時変更する必要も生じる。

★ただし、どの過程においても、自分固有の本質的なWhyの「問い」は忘れないこと。

例題 「花はなぜきれいなのか?」 「マンガはなぜわかりやすいのか?」 「言葉はなぜ通じるのか?」 「人にはなぜ名前がついているのか?」 「なぜ法律が必要なのか?」 「虹はなぜ七色なのか?」

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