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夏目房之介の「で?」

東北復興支援プロジェクト『3・11を忘れないために ヒーローズ・カムバック』

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東北復興支援プロジェクト『3・11を忘れないために ヒーローズ・カムバック』刊行。
細野不二彦が2012年「スピリッツ」に発表した「ギャラリーフェイク特別版」(被災地の骨董などを主題にフジタが活躍)を嚆矢とし、細野の呼びかけに応えた作家たちのリバイバル物などを集めた作品集。必要経費をのぞく売り上げ、印税はすべて「大震災出版復興基金、岩手・宮城・福島の震災遺児育英基金に寄付される。
9・11後にアメコミ界ではコミック・ヒーロー物に変化が起こり、消防隊をヒーローにしたコミックスも出されたが(参照)、これはその日本版ともいえる。ただ面白いのは、そこにアメリカのような日本マンガのヒーロー性を問うような視線はなく、むしろそれぞれが自由に選ぶ主題やストーリーのどこかに読者が関連性をさがすような読物にしているところだ。娯楽としての読物の水準はあくまで固持している。直接的に主題化している細野、かわぐちにしても、ヒーロー像を問う意識ではない。

http://www.shogakukan.co.jp/comics/detail/_isbn_9784091853202

ゆうきまさみ「究極超人あ~る」
吉田戦車「伝染るんです。」
島本和彦「サイボーグ009」※気合の入った再現。
藤田和日郎「うしおととら」
高橋留美子「犬夜叉」
荒川弘「銀の匙」
椎名高志「GS美神 極楽大作戦」
 特別寄稿
かわぐちかいじ「俺しかいない~黒い波を乗り越えて~」※別の企画で描かれた震災時の自衛隊が主人公の作品。

参照 小田切博『戦争はいかに「マンガ」を変えるか アメリカン コミックスの変貌』NTT出版

同じ小学館から「ビッグコミック」創刊45周年記念として単行本が出ているが、そのひとつに『白戸三平』がある。
「ざしきわらし」(「ボーイズライフ」63年)
「陽忍」(「少年サンデー」63年)
「七方出」(「少年サンデー」63年)
「スガルの死」(「少年サンデー」63年)
「遠当」(「少年サンデー」65年)
「戦争」(「ボーイズライフ」63年)
「野犬」(「ビッグコミック」68年)
収録作品は、白土がメジャー化していった時期の忍法物傑作を集めた感があり、なかなかいいカラー版もあったので、できたら一作くらいそれで再録してもらいたかった。
「ボーイズライフ」「サンデー」作品が多いのに、何で「ビッコミ」45年記念なんだ、という印象を持つかもしれない。けれど、この頃の小学館は「サンデー」の少年物から「ボーイズライフ」などで思春期~青年期読者の開拓に向かおうとしていて、集大成として「ビッグコミック」で「マンガの青年化、中間小説化」に成功していった経緯がある。そして、どうやら白土三平に対して異様なほど執着していて、白土を中心に刊行された「月刊漫画ガロ」誌の買取の話があったと、長井勝一元編集長の自伝に記述がある(本当なのかどうか、小学館側はどうだったのかは、ほかに証言がないので、わからない)。新書版単行本を出し始めたときも白土がラインナップに入っており、たしか米国での海外展開のときも入っていたように思う(小学館は早い時期から米国にVIZを展開し海外志向があった)。
ここに掲載されている忍者物は何度読み返したかわからないほどで、よくできていると思う。10代の頃の僕にとっては、『忍者武芸帳』をのぞけば、むしろ白土といえばこれらの忍者短編物こそ白土三平であった。個人的には『カムイ伝』ではなく「忍法秘話シリーズ」や「イシミツ」シリーズなどが白土マンガだったのだ。

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