光電融合を大整理:NVIDIAのCPOとNTTのIOWN――どこで競争しどこで棲み分けるべきか?
SpaceXが描く宇宙AIインフラの全貌
〜財務データと技術アーキテクチャから日本企業の参入機会を読む〜
【Nasdaq上場SPCXの財務諸表と最新情報から紐解く】
半導体製造(Terafab)・衛星通信(Starlink)・宇宙輸送(Starship)を垂直統合し、軌道上にAIデータセンターを展開するSpaceXの巨大構想。開示された目論見書からEBITDAマージン63%を叩き出す財務構造と技術アーキテクチャを解剖し、日本企業がどの領域で参入余地を持つかを具体的に論じます。
- 第1部:3つの事業の柱と垂直統合(Intel 14A採用のD3プロセッサ、光レーザーメッシュ、183ドル/kgの物流経済学)
- 第2部:Nasdaq上場SPCXの財務諸表分析(売上186.7億ドルの内訳、Starship開発費、第一号顧客Anthropicとの150億ドル契約)
- 第3部:軌道上AIデータセンターの技術的アーキテクチャ(100万基構想「AI Sat Mini」、地上比5倍のソーラー優位性、宇宙用推論環境)
- 第4部:日本企業の参画余地(東京エレクトロン、レーザーテック、アドバンテストの製造・検査テスタ支配、GSユアサ等電池モジュール、真空排熱技術)
講師:今泉 大輔(株式会社インフラコモンズ 代表)
主催:SSK 新社会システム総合研究所
日本の「光電融合」の業界誌等の記事は、最新のものと、古いものと、先々のビジョンとが渾然一体となって語られていて、読む人を混乱させます。
ここでは現時点で決定版の記事として、NVIDIAがAIファクトリー向けに最先端の製品化を進める光電融合技術「CPO(Co-Packaged Optics)」と、NTTグループが光電融合を中核技術の一つとして含む「IOWN」とを、あえて競争関係にあるものと見なして、比較・整理してみました。両者はそれぞれ存在領域が異なり、競争する部分もあれば、補完し合う部分もあります。
以下では決定的な指摘をしています。NTTのIOWNは圧倒的に遅いということです。うかうかしていると世界の別なプレイヤーがIOWNの世界に確実に入ってきます。例えばシスコ。そしてスペースX(Starlink)。
読者はこの競争図式を頭に入れて、諸々の「光電融合」に関する経済記事や業界誌記事を読まれることをお勧めします。政府で「光電融合」を支援なさる方々も頭を整理することをお勧めします。世界は速いです。旧経産省の技術プロジェクトの二の舞にならないよう。
NVIDIAが「光電融合」をAIファクトリーの現場へ持ち込んだ
NVIDIAは2025年3月、GTC 2025において、シリコンフォトニクスとコパッケージド・オプティクス(CPO:Co-Packaged Optics)を採用した「Spectrum-X Photonics」と「Quantum-X Photonics」を発表した。
この発表の目的は明確である。数十万基、将来的には数百万基のGPUを接続するAIファクトリーにおいて、ネットワークが直面する帯域、電力、発熱、信号品質、信頼性の限界を突破することである。
NVIDIAのCPOは、スイッチASICのすぐ近くに光変換機能を配置する。従来は、スイッチASICから出た高速電気信号を基板上で数十センチメートル伝送し、筐体前面に挿入された着脱式光トランシーバーで光へ変換していた。この方式では信号速度が上がるほど損失が増え、それを補償するDSPやリタイマーの電力も増加する。
CPOでは、電気信号が劣化する前にASIC直近で光へ変換する。NVIDIAは、従来方式と比較してレーザー数を4分の1に抑え、電力効率を3.5倍、信号品質を63倍、ネットワークのレジリエンスを10倍に高めるとしている。Spectrum-X Photonicsは最大400Tb/s、Quantum-X Photonicsは144ポートの800Gb/s InfiniBandを提供し、後者は液冷を前提とした設計である。[1]
これは単なる光部品の発表ではない。NVIDIAはGPU、スイッチASIC、InfiniBand、Ethernet、NVLink、CUDA、通信ライブラリ、ラック、電源、液冷までを統合し、CPOをAIファクトリー全体の設計に組み込もうとしている。
2026年6月には、AIクラウド事業者LambdaがQuantum-X Photonics Q3450-LDのエンジニアリングサンプルを実際のラックへ設置し、検証を始めた。実機は4U、144ポート×800Gb/s、115.2Tb/sのノンブロッキング容量を持ち、48V DCバスバー給電と液冷を採用する。前面には従来のOSFPトランシーバー用ケージがなく、144個のMPO光接続と18個の交換可能な外部光源モジュールが並ぶ。[2]
NVIDIAは光電融合を、将来の研究テーマとしてではなく、GPUをより多く、より安定して稼働させるための量産インフラとして扱っているのである。
では、NTTのIOWNに競争力はあるのか
この状況を見ると、日本で長年研究されてきたIOWNはNVIDIAに追い越されたようにも見える。
しかし、IOWNとNVIDIAのCPOを単純に比較して、「どちらの光電融合技術が優れているか」と問うこと自体が適切ではない。両者は重なる部分を持ちながらも、現在の主戦場が異なるからである。
構造を単純化すれば、次のようになる。
都市・地域・データセンター間
IOWN APN
↓
データセンター内部のAIネットワーク
Spectrum-X / Quantum-X Photonics
↓
ラック・サーバー・GPU
NVLink / GPU / HBM
NVIDIAのCPOは、主としてAIファクトリー内部のスイッチングファブリックを対象とする。これに対し、IOWNのAll-Photonics Network(APN)は、データセンター、通信拠点、企業拠点などの間にエンド・ツー・エンドの光波長パスを設ける広域ネットワーク技術である。
NTTは、APNについて、端末からネットワークまで光技術を導入し、光波長による専用パスを用いることで、低消費電力、大容量、低遅延を実現する構想と説明している。[3]
つまり、NVIDIA CPOとIOWN APNは全面的な競合関係にはない。
データセンター内部をNVIDIAのCPOで高密度化し、地理的に離れた複数のAIデータセンターをIOWN APNで接続する構造は十分に成立する。むしろ電力制約によってAI計算資源が地理的に分散するほど、両者の補完関係は強くなる。
IOWNが最も競争力を持つのは「分散AIファクトリー」である
IOWNが最も明確な優位性を持つ領域は、データセンター間接続である。
AIデータセンターは膨大な電力を必要とする。今後、GPUをすべて一つの巨大施設へ集約することは、受電容量、送電網、土地、冷却水、災害リスク、データ主権などの制約によって難しくなる。
そこで計算資源を、再生可能エネルギーが豊富な地域、電力料金の安い地域、冷却条件の良い地域、データを域外へ移せない地域などへ分散配置する必要が生じる。
NTTは、英国と米国において約100km離れたデータセンターをIOWN APNで接続し、400Gb/sで1ミリ秒未満の遅延と1マイクロ秒未満の遅延変動を確認した。これにより、地理的に離れたデータセンター間での分散リアルタイムAI解析の可能性を示している。[4]
また、NTT西日本、NTT、QTnetは、約600km離れた福岡と大阪のデータセンターをIOWN APNで接続し、再生可能エネルギーの供給状況と各データセンターの電力消費に応じて、処理する拠点を動的に選択する実証を行った。実験環境での推計では、均等にワークロードを配置する場合と比較して、対象データセンターの再生可能エネルギー利用率が最大31%改善した。[5]
ここで重要なのは、IOWNの価値が単なる高速回線ではないことである。
IOWN APNは、計算処理を「電力のある場所」へ移すための基盤になり得る。将来的には、東京の企業が保有するデータを適切に管理しながら、九州、北海道、東北、あるいは海外のGPU資源を利用するといった構造も考えられる。
NVIDIAが一つのAIファクトリーを巨大化する技術を提供するなら、IOWNは複数のAIファクトリーを広域に束ねる技術になり得るのである。
ただし、ここには重要な留保がある。
100km以上離れたGPUクラスタをAPNで接続したからといって、それらを直ちに一つの同期型大規模学習クラスタとして利用できるわけではない。光ファイバー内の伝搬遅延という物理的制約は消えない。極めて頻繁な勾配同期を必要とする分散学習では、数百マイクロ秒から数ミリ秒の遅延も性能を左右する。
したがって、IOWNの初期の有力用途は、必ずしも遠隔GPUを単一の密結合クラスタとして動作させることではない。
有力なのは、ワークロードの拠点間移動、非同期・疎結合型の分散処理、推論処理、ストレージ連携、データレプリケーション、災害対策、映像AI、遠隔制御などである。IOWNの価値を過大評価しないためには、この区別が必要である。
補足コラム:なぜ「遠くのGPUをつなげば即・巨大クラスタ」にはならないのか
ここで一つ、直感に反する点を押さえておく必要がある。
光ファイバーは非常に高速であり、IOWN APNもまた低遅延・低ジッターを強みとしている。すると、遠く離れたGPUクラスタ同士も、そのまま一体の巨大AIスーパーコンピュータとして動かせるように思えてしまう。しかし現実には、そこには越えがたい物理の壁がある。最大の制約は、いうまでもなく距離そのものである。
光は速いとはいえ無限に速いわけではない。光ファイバーの中を進む信号には必ず伝搬遅延が生じる。100km級の距離になれば、往復で見ても無視できない時間差が発生する。人間の感覚では一瞬でも、GPUクラスタの世界ではこの差が重い。特に問題になるのが、同期型の分散学習である。
大規模言語モデルの訓練では、多数のGPUが同時に計算し、その結果として生じた勾配を頻繁に同期する。ここで重要なのは、通信の総量だけではない。「全員がそろうまで待つ」時間が発生することである。
たとえば、1台だけ遅れたGPUがあれば、他の多数のGPUも待たされる。これが学習ステップごとに繰り返されるため、数百マイクロ秒から数ミリ秒の差でも累積すると効いてくる。距離のある拠点間では、この"待ち時間"が学習効率を確実に蝕むのである。要するに、IOWN APNが優れていても、それだけで**「離れたGPUを魔法のように一台化できる」**わけではない、ということである。
これはIOWNの弱さではなく、むしろ正しく理解すべき性質である。回線が速いことと、密結合の同期計算に最適であることは、似ているようで別の話なのである。では、IOWNの価値はどこにあるのか。
答えは、すべてのGPUを無理に同時同期させる用途以外に広く存在する、ということである。たとえば第一に、ワークロードの拠点間移動がある。
ある時間帯は九州のデータセンターで処理し、別の時間帯は北海道側へ寄せる、といった運用である。これは電力コスト、再生可能エネルギーの利用状況、冷却条件、災害回避などに応じて柔軟に最適化できる。第二に、非同期・疎結合型の分散処理がある。
すべてのGPUが毎秒何千回も厳密同期する必要がない処理であれば、拠点をまたいだ分散は十分に現実的である。ジョブを分散して後で結果を集約するような構成、あるいはデータ前処理、検索、推論補助、エージェント処理の分担などは、むしろIOWNと相性が良い。第三に、推論処理である。
学習と比べ、推論は同期の厳しさが相対的に低い場合が多い。需要のピークに応じて複数拠点へ処理を振り分ける、データ所在地に近い場所で推論を実行する、といった構成は極めて有望である。さらに、ストレージ連携やデータレプリケーションも重要である。
大規模モデル時代は、GPUだけでなくデータそのものの置き方が競争力を左右する。複数拠点間でデータを安全に同期し、必要な場所へ迅速に供給できることは、AI基盤全体の強靭性を大きく引き上げる。加えて、災害対策、映像AI、遠隔制御といった分野でもIOWNの価値は高い。
とりわけ映像AIや制御系では、単なる平均遅延よりも、遅延のぶれが小さいこと、すなわち低ジッターであることが重要になる。ここでもIOWNの特性は活きる。したがって、IOWNを評価する際には、
「遠距離GPUクラスタを一つの密結合学習機として動かせるか」
だけで判断してはならない。むしろ本質は、
「複数のAIファクトリーを、役割分担しながら一つの計算圏として運用できるか」
にある。この視点に立てば、IOWNは"巨大GPUクラスタの代用品"ではない。
それは、AI計算資源を地理的に分散させつつ、電力、データ、可用性、コスト、主権といった現実の制約を織り込んで最適運用するための基盤である。
そこにこそ、IOWNの真の戦略価値があるのである。
IOWNは広域ネットワークだけではない
IOWNをAPNだけの構想と理解するのも正しくない。
NTTは、光の適用範囲をネットワークから装置内、ボード間、チップ間、最終的にはチップ内部へ近づける光電融合デバイスのロードマップを持っている。
NTT Innovative Devicesは、DSPとシリコンフォトニクスによる光変調器・受信器を一つのパッケージへ統合した400Gb/sコヒーレント製品をすでに展開している。データセンター相互接続向けの400ZRやOpenZR+などが対象である。[6]
さらにNTTは、第3世代の光電融合デバイスとして、データセンター内の短距離接続を対象に、CPOへ適用可能なデバイス開発を進めている。NTTの技術解説でも、第3世代デバイスについて、AI・機械学習によるデータセンターネットワークの電力増加を課題として挙げ、CPOを中心に取り組んでいると説明している。[7]
したがって、NTTはCPOと無関係な通信キャリアではない。
光半導体、シリコンフォトニクス、コヒーレントDSP、光変調器、受光器、光回路、パッケージングに関する技術資産を持っている。NTT Innovative Devicesは、これらを研究成果のままにせず、製品として販売する役割を担っている。
基礎技術の面では、IOWNは十分な競争力を持つ。
問題は、その技術がNVIDIA、Broadcom、MarvellなどのスイッチASICやAIプラットフォームに採用され、大量に生産されるかどうかである。
NVIDIAとNTTの決定的な差は「技術」より「事業構造」にある
NVIDIAとNTTの違いは、光技術の性能だけでは説明できない。
NVIDIAは、CPOを必要とする需要そのものを握っている。GPUを販売し、スイッチASICを設計し、InfiniBandとEthernetの両方を持ち、通信ライブラリを最適化し、ラック、電源、液冷まで定義している。
NVIDIAは、自社のGPUクラスタを拡張するために必要な光技術の仕様を決め、それを製品へ統合できる。
さらにNVIDIAのシリコンフォトニクス・エコシステムには、TSMC、Browave、Coherent、Corning、Fabrinet、Foxconn、Lumentum、SENKO、SPIL、住友電工、TFC Communicationなどが参加する。NVIDIAは需要と製品仕様を握り、世界の製造・光部品企業を結集している。[1]
これに対してNTTは、光通信と光電融合に関する優れた技術を持つが、AIファクトリーで標準となるGPUやスイッチASICを支配していない。
NTTの光エンジンが技術的に優秀であっても、世界のスイッチASICメーカー、クラウド事業者、サーバーメーカーに採用されなければ、AIデータセンター市場で大きな数量にはつながらない。
つまり両社の違いは次のように整理できる。
NVIDIAは、顧客需要、製品仕様、ASIC、ソフトウェア、ラック、量産サプライチェーンを垂直統合している。
NTTは、光技術、ネットワーク、データセンター、通信運用という資産を持つが、AI計算プラットフォームの中心を支配していない。
この差は極めて大きい。
製品化速度でもNVIDIAが先行している
IOWNのもう一つの課題は製品化速度である。
NTTの資料には、実証、共同検証、標準化、フォーラム、ロードマップといった言葉が多い。これらは通信インフラを世界規模で展開するうえで不可欠であるが、市場投入の速度という点では不利に働く。
一方、NVIDIAは2025年3月にCPOスイッチを発表し、翌年にはLambdaの実ラックへエンジニアリングサンプルを持ち込んだ。
LambdaとNVIDIAは、単に通信性能を測定しているのではない。ラックへの収容、48Vバスバーとの接続、液冷配管、圧力試験、光ファイバーの配線、外部レーザーの保守、設置手順まで検証している。[2]
これは、研究室でCPOを動作させる段階から、データセンター運用モデルを構築する段階へ進んだことを意味する。
NTTもAPN IOWN 1.0を2023年3月16日に商用化しており、IOWN全体が机上の構想というわけではない。[8]
それでも、AIクラスタ内部のCPOについて比較すれば、NVIDIAの方が顧客のラックへ製品を持ち込む速度で先行している。
NTTに求められるのは、技術ロードマップの早さではなく、「顧客のAIデータセンターへ何台設置されたか」「どのASICへ採用されたか」「どれだけの電力とコストを削減したか」という事業指標である。
NVIDIAはCPOを「トークン経済」で説明している
NVIDIAとLambdaの説明で特徴的なのは、CPOの価値をAI事業の経済性へ直結させている点である。
Lambdaによれば、一般的なスイッチの消費電力を約7.0kW、NVIDIAのCPOスイッチを約3.95kWとした場合、1台当たり約3.05kWを削減できる。
41,472基のGB300 NVL72級GPUクラスタでは、1,440台のCPOスイッチによって約4,392kWのネットワーク電力を削減できると試算している。これは電力換算で3,137基分のGPUに相当する余地である。[2]
もちろん、削減された電力がそのまま全量GPUへ置き換わるわけではない。ラック配置、冷却能力、受電設備、冗長性などの制約がある。Lambda自身もこの点を明記している。
それでも、CPO導入の価値を、
ネットワーク電力を削減する
↓
同じ施設の電力枠でGPUを増やす
↓
トークン生成能力を増やす
↓
AIクラウドの売上を増やす
という形で説明できることは強い。
IOWNは従来、低消費電力、大容量、低遅延、持続可能性、Well-beingといった広い社会的価値を中心に語られてきた。
これらは重要だが、AIクラウド事業者が設備投資を決める際には、それだけでは不十分である。
NTTは今後、IOWNによって、
- GPUの稼働率が何%上昇するのか
- ワークロードの移動によって電力料金が何%下がるのか
- 再生可能エネルギーの利用率が何%上がるのか
- データセンターの新設を何年回避できるのか
- トークン当たりの原価がいくら下がるのか
まで示す必要がある。
福岡―大阪間の実証で再生可能エネルギー利用率を最大31%改善したという結果は、この方向への重要な一歩である。[5]
IOWNは「光通信が速い」という説明から、「AI計算資源の経済性を改善する」という説明へ移行しなければならない。
IOWNはどこで競争し、どこで棲み分けるべきか
IOWNの戦略は三つに分けて考える必要がある。
第一の選択肢:NVIDIAと同じAIスイッチ市場で正面対決する
これは最も難しい。
NVIDIAはGPU、スイッチASIC、ネットワーク、ソフトウェア、ラックを一体化している。NTTが単独でSpectrum-XやQuantum-Xに対抗するAIファブリックを構築しても、CUDAやNCCLを含むNVIDIAの垂直統合に勝つことは容易ではない。
NTTが独自のAIスイッチを作ること自体に意味がないわけではない。通信キャリア向け、オープンネットワーク向け、特定用途向けには市場が存在する。
しかし、AIファクトリーの中核スイッチ市場でNVIDIAを正面から置き換えることを、IOWNの主要戦略にするべきではない。
第二の選択肢:NVIDIA経済圏へ光デバイスを供給する
これは十分に可能性がある。
NTT Innovative Devicesが持つシリコンフォトニクス、コヒーレントDSP、光変調器、受光器、光エンジン、パッケージング技術が、NVIDIA、Broadcom、Marvell、サーバーメーカー、光モジュールメーカーに採用されれば、IOWNの技術は世界のAIインフラへ入ることができる。
この場合、IOWNはNVIDIAに対抗するブランドではなく、NVIDIA経済圏を支える基盤技術になる。
ただし、研究性能だけでは採用されない。
必要なのは、コスト、歩留まり、量産能力、長期信頼性、標準インターフェース、先端パッケージとの統合、供給保証、複数拠点生産である。
NTTには光技術の競争力がある。今後問われるのは、それを世界のAIサプライチェーンへ組み込む事業能力である。
第三の選択肢:AIファクトリー同士を広域に接続する
これがIOWNの最も有望な戦場である。
NVIDIAのCPOは、AIファクトリー内部の高密度ネットワークを最適化する。IOWN APNは、都市、地域、国をまたいでデータセンターを接続し、計算、データ、電力を協調させる。
AIデータセンターが電力制約によって分散すればするほど、広域ネットワークの重要性は高まる。
NTTは、自ら光ファイバー網、局舎、データセンター、国際回線、法人顧客、ネットワーク運用組織を持っている。この資産は、光部品メーカーやGPUメーカーには容易に再現できない。
したがってNTTは、IOWNを「NVIDIAに対抗する光電融合技術」として売るよりも、次のように位置付けるべきである。
NVIDIAのAIファクトリーを、電力、立地、再生可能エネルギー、災害対策、データ主権をまたいで広域に束ねる分散AIインフラ
これはNVIDIAとの対立ではなく、NVIDIA経済圏の次の外縁を取りに行く戦略である。
4軸で評価するIOWNの競争力
IOWNとNVIDIA CPOを、「技術」「製品化速度」「AIデータセンターへの適合」「サプライチェーン支配力」の4軸で比較すると、次のようになる。
| 評価軸 | IOWN・NTT | NVIDIA CPO |
|---|---|---|
| 技術 | 光通信、低ジッター広域網、シリコンフォトニクス、コヒーレントDSPで強い | ASIC直結CPO、GPU・ネットワーク統合で強い |
| 製品化速度 | APNは商用化済みだが、データセンター内CPOは実証・展開途上 | 発表から実ラック検証まで極めて速い |
| AIデータセンター適合 | 分散DC、電力最適化、DC間接続で強い | GPUクラスタ内部、液冷ラック、トークン生成効率で圧倒的 |
| サプライチェーン支配力 | 光部品・通信網を持つが、AI ASIC需要を支配していない | GPU需要と仕様を握り、世界の製造企業を束ねる |
IOWNの基礎技術は弱くない。むしろ、光通信、広域ネットワーク、低遅延・低ジッター、光電融合デバイスの面では世界有数である。
弱いのは、技術をAIファクトリーの売上と結び付け、グローバルに大量導入する事業構造である。
結論――NVIDIAはAIファクトリーを作り、IOWNはAIファクトリー同士を結ぶ
IOWNは、競争力のない未来構想ではない。
APN IOWN 1.0はすでに商用化され、約100km離れたデータセンター間で1ミリ秒未満の低遅延通信が実証されている。福岡―大阪間では、再生可能エネルギーの状況に応じてワークロードを移動させる実験も行われた。NTT Innovative Devicesは、シリコンフォトニクスとDSPを統合した製品を販売し、データセンター内CPOに向けた開発も進めている。
一方、NVIDIAはGPU、ASIC、ネットワーク、ソフトウェア、液冷、ラック、製造エコシステムを統合し、CPOを顧客のラックへ持ち込んでいる。
両者を同じ「光電融合」という言葉だけで比較してはならない。
NVIDIAは、AIファクトリー内部のネットワークを光化し、同じ電力枠でより多くのGPUとトークンを生み出そうとしている。
IOWNは、地理的に離れたAIファクトリーを光で結び、計算資源を電力、立地、再生可能エネルギー、災害リスク、データ主権に応じて配置し直す可能性を持つ。
したがって、NTTが目指すべき方向は明確である。
NVIDIAとGPUラックの内部で正面衝突するのではない。
一つには、NTTの光電融合デバイスをNVIDIAやBroadcomなどのエコシステムへ供給することである。
もう一つには、NVIDIAを含む複数のAIファクトリーを広域に束ねるネットワークと運用基盤を構築することである。
言い換えれば、
NVIDIAは「AIファクトリーを作る会社」である。
IOWNは「複数のAIファクトリーを一つの計算圏にする技術」になるべきである。
この役割分担が成立するなら、NVIDIAのCPOとNTTのIOWNは、光電融合市場を奪い合うだけの関係ではない。
NVIDIAがAIファクトリーの内部を支配し、NTTがその外側に広がる分散AIインフラを支配する。
そこにこそ、IOWNが世界市場で競争力を発揮できる最も現実的な道がある。
参考資料
[1]NVIDIA, "NVIDIA Announces Spectrum-X Photonics, Co-Packaged Optics Networking Switches to Scale AI Factories to Millions of GPUs," 2025年3月18日。
[2]Lambda, "Unbox one of NVIDIA's first co-packaged optics switches with us. See why we bet on CPO early," 2026年6月1日。
[3]NTT, "IOWN Functions and Characteristics / APN."
[4]NTT, "Successful demonstration of long-distance data center connection using IOWN APN," 2024年4月12日。
[5]NTT西日本・NTT・QTnet, "Successful Demonstration of Optimized Workload Allocation Between Remote Data Centers Using IOWN APN," 2025年6月11日。
[6]NTT Innovative Devices, "Optical/Electrical Integrated Products."
[7]NTT技術ジャーナル, 「IOWNを支える光電融合デバイス――第2・第3世代デバイスの取り組み」。
[8]NTT東日本, 「APN IOWN1.0の提供開始について」, 2023年3月2日。