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20年以上断続的にこのブログを書き継いできたインフラコモンズ代表の今泉大輔です。NVIDIAのフィジカルAIの世界が日本の上場企業多数に時価総額増大の事業機会を1つだけではなく複数与えることを確信してこの名前にしました。ネタは無限にあります。何卒よろしくお願い申し上げます。

「フィジカルAI」の基本を整理!日本の製造業を変革する次世代AI革命の中身はどうなってる?

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インフラコモンズの今泉です。このブログでは、2025年3月末から「フィジカルAI」に関する投稿を書いてきています。(実は日本で一番早かったんですが...一応、最初期から冷静に分析しておりましたから。)

「フィジカルAI」カテゴリーの投稿:

以下が「フィジカルAI」カテゴリーの最初の記事です。最初からどデカい「50兆ドル市場(7500兆円市場)」の話をしています。これはNVIDIA CEOのジェンセン・フアンが2025年3月のNVIDIA国際カンファレンスGTC2025の基調講演で、まさにこの数字を出して、「フィジカルAIの市場はこれから先どんどん大きくなるよ」と強調したからです。簡単に言えば、自律的に(自分で見て感知して判断して動く)動いて意味がある"機械"は、全部フィジカルAIになります。50兆ドルは、考えてみれば、凄まじい規模です。

上場企業の株価を数倍増させるNVIDIAフィジカルAI 50兆ドル市場とは?(2025/3/31)

製造業が産業の柱である日本にとって、フィジカルAI市場では様々な出番があります。それが今年のCES2026会場で、多彩なフィジカルAIが展示されていたことで、テレビや一般の新聞でもワッと話題になりました。あまり華々しく取り上げられるものですから、「何が『フィジカルAI』なのか?」わかりにくくなっている所があると思います。

そこでCES2026の出展内容も踏まえて、新たに「フィジカルAIの基本」を整理しました。

2026
3/11 (水) 13:30-
※会場開催なし
Zoomライブ

ロボティクス&
フィジカルAIの最前線
~50兆円市場で日本の製造業が"SimReady"な製品や部品で世界シェアを獲るための技術と経営戦略~

NVIDIA CEOが宣言した「次はフィジカルAI」。50兆ドル市場の覇権を握る鍵は、仮想空間で選ばれる「SimReady」な製品づくりにある。製造業がデジタルサプライチェーンに食い込むための技術と経営戦略、そして「フィジカルAI対策室」の立ち上げ方を徹底解説。


講師:今泉 大輔(株式会社インフラコモンズ 代表)

主催:一般社団法人企業研究会


近年、生成AI(Generative AI)による知的業務の効率化が大きな話題となりました。一方で、実際の現場では人手不足や技能継承の問題が深刻化しています。そうした課題を解決する鍵として注目されているのが、AIが"身体"を手に入れて現実世界で活躍するフィジカルAI(Physical AI)です。本記事ではフィジカルAIの定義と意義、CES 2026での最前線、産業への応用可能性、そして日本の製造業が今フィジカルAIに取り組むべき理由を包括的に解説します。

フィジカルAIの定義と背景

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生成AIからフィジカルAIへ:「頭脳」から「身体」への進化

フィジカルAIとは、従来のAIの高度な判断力(いわば「頭脳」)にロボットなどの物理的な身体(ボディ)機能を統合し、現実空間で自律的に動作できるようにした技術を指します生成AIがテキストや画像などサイバー空間(デジタル領域)で知識創造・分析を行うのに対し、フィジカルAIはフィジカル空間(現実世界)での作業自動化・自律化を目的としていますたとえば生成AIは文章や画像といったデジタルコンテンツを出力しますが、フィジカルAIはロボットの動作や機械制御信号といった物理的なアクションを出力します。つまりAIの「知能」+「身体」の統合によって、画面の中だけに留まっていたAIが現実世界に飛び出していく進化といえるのです

フィジカルAIが可能にする自律化:工場設備の最適化とAIロボット

フィジカルAIにより、産業現場の自律化が飛躍的に進みます。たとえば製造業の工場では、NC工作機械、産業用ロボット、無人搬送車(AGV)、自動倉庫システムなどあらゆる設備をAIが統合的に管理し、生産効率の最適化や予知保全、品質管理を自律的に行うシステムが実現します

これまでの産業用ロボットは人間より強い腕力を持ちながらも判断力に乏しく、応用範囲が限られており熟練工の技能を代替するには至りませんでした。しかし近年のAI進化によってロボットに"判断力"が宿り始め、環境変化への対応や人との対話を通じて新たな作業を学習できるロボットが登場しています

これは従来とは次元の異なる進化であり、まさにロボットにおける革命と言えます。現場の状況を理解し、自ら学習し、複数のタスクを柔軟にこなすAIロボットが現れ始めたことで、その応用範囲は飛躍的に広がろうとしています

フィジカルAIによる自律化工場では、人が行っていた段取りや調整作業までAIが担い、生産ライン全体の最適化が可能になります。こうしたスマート工場の実現は、日本のものづくり現場にも大きなインパクトを与えるでしょう。

CES 2026に見るフィジカルAI最前線

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ジェンスン・フアン氏の基調講演:"ChatGPTモーメント"が現実世界にも

2026年1月に開催されたCES 2026では、フィジカルAIが大きな注目を集めました。米NVIDIA社CEOのジェンスン・フアン氏は基調講演の冒頭で「ロボット工学にとっての"ChatGPTモーメント"がついに到来した」と高らかに宣言しています。これは、ChatGPTが言語AIの可能性を世界に示したように、現実世界で動くフィジカルAIにも同じような衝撃的転機が訪れるという意味合いです

実際フアン氏は、自動車の自動走行用のAI「Alpamayo(アルパマヨ)」

詳細はこちらの投稿で解説しています。NVIDIAの「考えるAI自動運転 アルパマヨ」。トヨタ、日産、ホンダ、マツダが採用する際に検討すべきポイントを大解説!

が複雑な交通状況で人間のように判断を下すデモンストレーションを披露し、観客を驚かせました。このAIには生成AIの推論技術が活用されており、従来ルールベースだった自動運転に新たなアプローチを示したのです

フアン氏のメッセージは明確でした。「画面の中」に留まっていたAIがついに物理世界で人間のように振る舞い始める時代が来た----これこそが2026年を境に訪れる変革だというのです。

会場を沸かせたヒューマノイドや協働ロボットの最新事例

CES 2026の会場では、まさにフィジカルAIの潮流を象徴するヒューマノイド(人型ロボット)や協働ロボットの展示が各所で行われ、大きな注目を浴びました

例えばLGエレクトロニクスのブースでは、人間さながらにクロワッサンを温めたり洗濯物を畳んだりするヒューマノイド型ロボットが実演されました。また、米ボストン・ダイナミクス社のヒト型ロボット「Atlas(アトラス)」が工場内作業をこなす様子も披露され、観客の視線を集めました

さらにソニー・ホンダモビリティが展示した次世代EV「AFEELA」では、車両そのものをAIロボットの"身体"と見立て、クルマが自ら運転するモビリティコンセプトが示されています

【CES 2026】会場はこのようにAIを搭載したロボットやモビリティで溢れ、いたるところでヒューマノイドの新製品発表やデモが行われる熱気に包まれていました

協働ロボット(コボット)分野でも最先端の技術が披露されました。ドイツのKUKA社とスタートアップ企業Algorizedは、人とロボットが安全に協働するための「意図予測AI」を発表し、CES会場でデモを実施しています。これはミリ波レーダー等のセンサーとエッジAIにより人間の動きや生体情報をリアルタイムに検知し、ロボットが人の次の動きを先読みして速度や動作を調整する技術です

参考記事:ロボスタ:AlgorizedとKUKAが協働ロボットの安全を再定義、意図予測AIを「CES 2026」で公開

この仕組みにより、従来は安全確保のため停止や減速を余儀なくされていた協働ロボットが、人を傷つけることなくスムーズに作業を続行できるようになります。会場のデモでは、人がロボットに近づいても即座に意図を判断して適切な挙動をとる様子が披露され、観客を唸らせました。これら最前線の事例から、フィジカルAIがロボットの実用化を加速しつつあることが実感できます。

日本製造業へのインパクト

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50兆ドル市場規模が示すもの:次世代産業革命の胎動

フィジカルAIがもたらすインパクトは極めて大きく、次世代の産業革命とも言われます。その象徴的な数字が「50兆ドル」です。NVIDIA創業者でCEOのジェンスン・フアン氏は、「フィジカルAIは今後50兆ドル(約7,000兆円)規模の巨大市場になる」と述べ、製造業・物流業など"物が動く"すべての産業がAIによって変革されるとの見通しを示しました

実際フアン氏は「自動車やトラックから工場や倉庫に至るまですべての移動体がロボット化され、AIが宿る時代が来る」と語っており、フィジカルAIが世界の物質産業全体をデジタル化する基盤になると強調しています。50兆ドルという規模は現在の世界主要産業を凌駕するインパクトであり、まさに産業構造そのものが再編される可能性を示唆します。

背景にはグローバルでのAI需要爆発と人手不足の深刻化があります。ある予測では2030年までに世界で5,000万人規模の労働力が不足するとされ、ロボットによる自動化は避けられない状況です。フィジカルAIはこうした課題に応えるソリューションであり、今後10年で本格的に立ち上がる「巨大市場」として位置付けられています。日本の製造業にとっても、自動車産業に続く次の成長エンジンとなり得る分野であり、この胎動を見逃すことはできません

労働力不足・技術継承問題への解決策として

日本がフィジカルAIに注目すべき理由の一つは、国内製造業が抱える労働力不足技能継承の難題に対する有力な解決策となりうる点です。日本では少子高齢化に伴い現場作業の担い手不足が深刻化し、熟練技術者の引退による「技能の断絶」リスクが高まっています。

実際、国内の製造現場ではベテランの「勘」やノウハウを次世代に伝えることが難しいという声が上がっています。フィジカルAIはこの問題に対し、AIが熟練者の知見を学習・蓄積して現場で活用する道を拓きます。例えばセンサーやカメラでベテラン作業者の手順・判断をデータ化し、AIモデルに学習させることで、暗黙知を形式知化して継承する試みが始まっています。AIが熟練工の「匠の勘所」を数値化し、ロボットに最適な動作として再現させることで、技能継承の課題解決と生産性向上を同時に実現できるのです

さらに、慢性的な人手不足に対しては、フィジカルAIによる自動化ラインや協働ロボット導入で人間の作業負荷を軽減し、必要労働力そのものを削減する効果が期待できます。日本の製造業が直面する構造的課題に対し、フィジカルAIは効率化と知的資産の継承という両面からソリューションを提供する点で、極めて意義深いのです。

ビジネスチャンスと課題:今、注目すべき理由

フィジカルAIは日本企業にとって大きなビジネスチャンスである一方、取り組みにあたってクリアすべき課題も存在します。

まずチャンスとして、日本は長年培ってきた現場力(げんば力)という強みがあります。トヨタ生産方式に代表されるカイゼン(改善)活動やQCサークルなど、現場の作業者の知恵と経験を重視する文化が日本のものづくりの核として根付いてきました

フィジカルAIの世界ではまさにこの「現場感覚」が重要になります。どれだけAIモデルが優秀でも、湿度や温度で微妙に変わる素材の扱いや、作業者ごとの癖、日々変動する設備のコンディションといった現実世界の揺らぎに対応し続けるチューニング力が不可欠だからです。日本企業は現場を知り尽くした強みを活かすことで、フィジカルAI時代において世界をリードするポテンシャルがあります。

「ロボットも人間と同じで、現場を知らなければ使いこなせない」という現場視点を体現できる国は多くありません。この点で、日本には他国にない有利な立ち位置があると言えるでしょう。

一方で課題も認識すべきです。第一に、グローバル競争の激化です。米国ではNVIDIAやテスラ、ボストン・ダイナミクスといった企業が、また中国も国家プロジェクトとして巨額投資でロボティクスやAIの研究開発を進めており、日本が出遅れれば市場を席巻されかねません

第二に、人材と組織の準備です。AIとロボット双方の知識を兼ね備えた人材育成や、現場とIT部門が協働できる組織づくりが求められます。フィジカルAI導入には、AIエンジニアだけでなく現場設備の専門家やデジタルツインのプロフェッショナルが一丸となってプロジェクトを推進する体制が必要です。

第三に、技術的課題と安全性の確保です。言語AIが誤答しても人命に影響はありませんが、自動車を運転するAIや刃物を持つロボットがミスをすれば人を傷つけかねないため、フィジカルAIにはより高い安全基準が要求されます。そのためNVIDIAが強調するように、現実世界で試行錯誤せずシミュレーション(デジタルツイン)上であらゆる異常ケースを経験させることが重要になります。日本企業も開発段階からデジタルツイン技術や安全策定に注力し、信頼性を高める必要があるでしょう。

総じて、フィジカルAIは「現実世界を知る日本」にとって大きな飛躍のチャンスであり、同時に乗り越えるべきチャレンジでもあります。

だからこそ今、経営層を含むビジネスパーソンがフィジカルAIに注目し、自社の戦略にどう取り入れるかを真剣に考えるタイミングだと言えます。50兆ドル市場の胎動が感じられる今この瞬間、日本の製造業が持つ強みを最大限に活かしつつ、課題に備えて行動を起こすことが、次世代の競争力に直結するでしょう。

出典・参考資料

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