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中小企業の生成AIの導入が進まない理由

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情報通信総合研究所は2025年9月4日、「企業における生成AI導入の現状と展望」に関する最新調査結果を公表しました。今回の報告は昨年に続く2回目の調査であり、大企業を中心に導入が進む一方、中小企業では依然として利用率が低いという構図が改めて浮き彫りとなりました。特に情報通信業や金融・保険業では活用が広がる一方、運輸・郵便業やサービス業は1割程度にとどまっており、規模間・業種間の格差が根強く残っています。

生成AIを利用しない理由として最も多かったのは「用途や利用シーンが見つからない」という回答であり、特に中小企業でその傾向が顕著でした。これは技術の性能やコストよりも、現場で具体的にどのように役立つのかを理解できるか否かが、普及の分かれ目になっていることを示しています。

今回は、①大企業と中小企業の利用格差、②業種ごとの進展状況、③導入を阻む要因、④次の潮流として注目されるエージェントAIの動向を整理しつつ、今後求められる取り組みについて展望を示したいと思います。

大企業と中小企業の導入格差

調査結果によると、従業員規模が大きい企業ほど生成AIの導入率が高く、300人未満の中小企業では依然として普及が限定的です。この傾向は昨年の調査から大きく変わらず、資金力や人材の差が導入可否に直結している実態が浮き彫りになりました。

大企業では、AIを社内業務の効率化や顧客サービス改善に活用し、既存のシステムと連携させることで一定の成果を挙げています。たとえば金融業界では生成AIを顧客対応の高度化に用いるケースが増え、契約書の自動生成やFAQの応答などが実務に定着しつつあります。

一方、中小企業は「効果が見えにくい」「導入コストや運用負担が大きい」との認識が強く、結果的に「用途がない」という理由で導入を見送るケースが目立ちます。生成AIの価値が明確化されていないことが利用率の伸び悩みにつながっているといえるでしょう。

図表1:企業の生成AI導入・利用率(従業員規模別)

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出典:情報通信総合研究所 2025.9

業種ごとの進展状況

業種別の導入率を見ると、情報通信業と金融・保険業では積極的に生成AIを取り入れる動きが加速しています。情報通信業ではソフトウェア開発やマーケティング分野で生成AIを活用し、開発効率の改善や顧客接点の最適化が進みました。金融・保険業では法令遵守や契約関連業務におけるAI支援が注目を集めています。

一方、運輸・郵便業やサービス業では利用率が依然として1割前後にとどまり、具体的なユースケースが十分に認知されていません。物流分野ではAIによる需要予測や配送ルート最適化の可能性があるにもかかわらず、現場への浸透は進んでいない状況です。サービス業も同様に、接客支援や予約管理などに応用できる余地はあるものの、多くの企業で導入は検討段階にとどまっています。

図表2:企業の生成AI導入・利用率(業種別)

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出典:情報通信総合研究所 2025.9

導入を阻む要因 ― 「用途がない」という壁

生成AIを導入していない企業の多くが挙げた理由は「利用用途・シーンがない」ことでした。特に中小企業ではこの回答が圧倒的に多く、導入に対する心理的ハードルの高さを示しています。

大企業の場合、次に多い理由は「情報漏洩などのセキュリティリスク」でした。生成AIは外部サービスを介して利用されるケースが多いため、企業秘密や顧客情報の漏洩リスクを懸念する声が根強いのです。コスト負担よりもセキュリティを重視する傾向が強いことは、大企業ならではの事情といえるでしょう。

この状況を打開するには、単に技術の利便性を説明するだけでなく、実際の業務フローに即した活用事例を提示し、リスク管理や運用の仕組みを整備することが必要です。特に中小企業においては、低コストで試せる導入支援策や、業界別の事例集など「わかりやすさ」を重視した普及活動が求められています。

図表3:生成AI関連の技術・サービスを導入・利用しない理由

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出典:情報通信総合研究所 2025.9

エージェントAIへの進展

今回の調査では、生成AIの進展形として注目される「エージェントAI」の導入状況も取り上げられました。エージェントAIは自律的に計画を立て実行できるシステムであり、企業の業務効率化や従業員の負担軽減を目的に導入されています。

現時点で導入している企業は少数にとどまりますが、その多くが「生産性向上」や「残業削減」を狙いとしています。特にプロジェクト管理やカスタマーサポートの分野では、AIがタスクを自動で割り当て、進捗を追跡する仕組みが実装され始めています。

図表4:エージェントAIを導入したきっかけ

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出典:情報通信総合研究所 2025.9

今後の展望

今回の調査から明らかになったのは、生成AI導入の広がりは着実に進む一方で、中小企業を中心に依然として格差が存在するという現実です。特に「用途が見つからない」という課題は、情報や資源が限られる中小企業にとって大きな障壁になっています。今後は、業界団体や公的機関、ベンダーが協力し、幅広いユースケースの共有や実践的なガイドラインを提供することが重要になるでしょう。

日本は超高齢化社会に直面しており、定年退職者の持つ暗黙知をいかに継承するかが企業の競争力に直結します。生成AIはテキストだけでなく、映像や会話データを分析し、熟練者の知見を形式知として蓄積する手段となり得ます。こうした取り組みを中小企業にも広げることで、人材不足や知識継承の課題解決につながる可能性があります。

さらに、生成AIの次のステップであるエージェントAIは、業務そのものを再設計する力を秘めています。企業は小規模でも試験的な導入を進め、実践を通じてノウハウを蓄積することが重要となっていくでしょう。

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