国内ITインフラ市場、AI投資とモダナイゼーションが成長を牽引 ―IDC Japanが2029年までの市場予測を発表
IDC Japanは2025年9月8日、「国内ITインフラ市場予測 2025~2029年」を発表しました。今回のレポートによると、国内ITインフラ市場は2024年から2029年にかけて年平均成長率(CAGR)8.8%で拡大し、2029年には9兆9,476億円規模に達すると予測しています。
背景には、生成AIの普及に伴うGPUサーバー投資の急増や、レガシーシステムのモダナイゼーション需要が存在します。さらに、クラウドマイグレーションの進展とマネージドサービスへの依存度の高まりが成長を後押ししています。
今回は、市場成長の要因、レガシー刷新の加速、クラウドとマネージドサービスの拡張、そして今後の課題と展望について取り上げたいと思います。
AIインフラ投資が市場を押し上げる
2024年の国内ITインフラ市場は、AI関連投資の加速が顕著でした。エンタープライズインフラ分野では、ハイパースケーラーや政府支援を受ける国内プロバイダーがGPUサーバーを中心に積極的に設備投資を進めました。生成AIや機械学習を活用したビジネス需要が拡大したことに加え、半導体価格の上昇やメインフレーム関連の出荷も市場成長に寄与しています。AI活用が進展するほど演算能力への要求は高まり、GPUをはじめとするアクセラレーター搭載サーバーの需要が急増しているのが現状です。この動きは、国内におけるAI研究・開発の推進やスタートアップ支援とも連動し、ITインフラ市場全体の成長ドライバーとなっているといいます。
レガシーシステム刷新の本格化
2025年以降、市場成長をけん引するもう一つの要素がレガシーシステムのモダナイゼーションです。これまでクラウド移行が難しかったカスタム開発アプリケーションや基幹系システムでも、移行を検討する企業が増えています。背景には、保守コストの増大やセキュリティリスクの顕在化があり、企業は長期的な運用負担を軽減する必要に迫られています。
加えて、生成AIやデータ分析を活用するには、柔軟性の高いアーキテクチャが不可欠です。IDCの予測でも、こうした難易度の高いシステム移行がクラウド市場の成長をさらに押し上げるとされています。
クラウドサービスとマネージドサービスの拡大
クラウドマイグレーションの進展は、IaaS市場の拡大を直接的に支えています。既存システムのクラウド移行に加え、新規アプリケーションの多くがクラウドネイティブで設計される傾向が強まり、企業のクラウド依存度は高まっています。
その一方で、ハイブリッド環境やマルチクラウド環境の普及によって、運用管理は複雑化しています。この課題に対処するため、マネージドサービスへの需要が増加しているのが特徴です。特に中堅・中小企業では、自社で高度なクラウド運用人材を確保するのが難しく、外部サービスへの依存度が高まっています。
大企業においても、コスト最適化やリスク分散の観点から、運用の一部をアウトソーシングする動きが拡大しており、関連市場の成長余地は大きいといえるでしょう。
供給側への課題と人材不足の克服
IDC Japanの宝出幸久リサーチマネージャーは「ITサプライヤーは成長分野への注力と人材不足の抑制が不可欠」と指摘しています。AIやクラウドの需要拡大はサプライヤーにとって大きな商機ですが、人材不足が顧客への安定的サービス提供を妨げるリスクが存在します。そのため、AIによる自動化や運用効率化を取り入れ、限られた人材リソースを有効活用する戦略が必要となります。
さらに、サービス提供者はAIの高度活用により、自らの業務効率を高めると同時に、顧客企業に対しても新しい価値提案を行うことが期待されています。市場の成長に伴い、供給側の競争も激化する中、差別化の軸は「技術力」と「人材確保」の両面で問われる段階にあります。
今後の展望
IDCの予測が示す通り、国内ITインフラ市場は今後も堅調に拡大する見通しです。中でもAIインフラへの投資は一過性の流行ではなく、企業競争力の基盤として不可欠な要素となりつつあります。また、レガシー刷新の進展はクラウド依存度をさらに高め、マネージドサービス市場の拡大を促すでしょう。
出典:IDC Japan 2025.9