なぜ日本企業はAI導入で「初期段階」にとどまるのか
デル・テクノロジーズは2025年8月26日、NVIDIAと共同でIDCに委託したアジア太平洋(APAC)地域のAI導入動向に関す調査結果を公表しました。
デル・テクノロジーズ、アジア太平洋地域におけるAI導入の最新インサイトを発表 日本は、AI導入で戦略的優位性を持ってけん引するも、依然としてスキル不足が課題
本調査は「Creating Your AI Implementation Blueprint(自社のAI導入ブループリントを作成)」として発表され、企業がAI戦略を策定する上での指針を提供しています。調査によると、APAC地域ではAIや生成AI、機械学習(ML)の導入が急速に広がる一方、依然として人材不足やデータガバナンスの課題が顕著です。
中でも日本は、AIのエンタープライズ導入率で地域をリードし、30%の企業が戦略的ユースケースでAIを活用していますが、36%はまだ初期段階にとどまっており、専門人材の不足が大きな制約となっています。
今回は、調査結果が示すAI導入の現状、日本企業の位置付け、業界ごとの動向、そして今後の展望について整理し、企業が直面する課題と可能性を読み解きたいと思います。
APAC地域におけるAI導入の加速
APAC全域でAI導入は拡大を続けており、AI特化サーバー市場は2025年に239億米ドルに達する見込みです。調査によると、同地域の84%の企業が今年、生成AIイニシアチブに100万~200万ドルを投資すると回答しており、世界平均を上回る積極性を示しています。生成AI支出がIT予算に占める割合は38%と、世界平均の33%を上回っています。
こうした投資は、生産性向上やパーソナライズされた顧客体験の創出を目的としていますが、導入プロジェクトの約20%は失敗に終わっているのも事実です。主な要因はAIガバナンスの不備、人材不足、インフラコストの過大負担です。IDCの調査では、72%以上の企業がデータとAIの知識を人材採用の必須条件に掲げており、専門人材獲得の競争が激化していることが浮き彫りになっています。
AIの可能性を十分に引き出すには、データの質やガバナンス、外部パートナーとの連携が不可欠であり、社内投資と社外リソースのバランスが求められています。
日本企業の優位性と課題
調査結果では、日本企業の30%が戦略的ユースケースでAIを活用し、4%は同業他社を上回るペースで導入を進めているとされました。これはAPAC地域におけるリーダー的ポジションを示すものです。しかし同時に、36%は依然として初期段階にあり、スキル不足が深刻な課題となっています。
日本企業は製造業や金融サービスなど、既存の強みを持つ分野でAI導入を積極化しています。例えば製造業では需要予測や品質管理、金融では不正検知やマネーロンダリング対策がユースケースとして進展しています。
しかし、AIを全社戦略に統合し、持続的なROIを確保するには、データ基盤の整備や人材育成が不可欠です。調査図表でも示されているように、日本は「初期段階」の比率が他国より高く、外部専門家への依存度も大きいのが特徴です。
業界別のAI活用と変革の胎動
業界別にみると、銀行・金融サービスが最も積極的で、84%がAI、67%が生成AIを導入済みです。不正検知や業務効率化といった即効性の高い分野で成果を上げています。製造業でも78%がAIを導入し、予知保全やサプライチェーン最適化に活用、今後はデジタルツインやスマートファクトリーの展開が加速すると見込まれます。
エネルギー業界ではグリッド管理やリスクマネジメント、医療では診断精度の向上や個別化治療、小売では予測在庫管理や動的価格設定が進展しており、各業界で「生成AIが今後18カ月以内にビジネスモデルを変革する」との回答が過半を占めました。こうした結果は、AIが効率化の手段にとどまらず、業界全体の構造転換をもたらすことを示しています。
AI導入を成功に導く条件
IDCの調査では、AI導入を成功させている企業は「段階的アプローチ」を採り、影響の大きなユースケースを優先していることが明らかになりました。ここで鍵となるのは、人材、プロセス、テクノロジーの融合です。特にデータガバナンスの整備は、長期的成功の前提条件として強調されています。
一方、APAC地域では60%の企業がAI開発を外部に依存し、社内で自前開発する割合は30%に過ぎません。外部パートナーの役割は拡大しており、インフラの最適化やセキュリティ確保、カスタムAIモデル開発、従業員教育まで幅広く担っています。ベンダーの選定次第で導入スピードや成果に大きな差が生じる現実は、日本企業にとっても示唆に富んでいます。
今後の展望
APAC地域のAI導入は、短期的な効率改善にとどまらず、産業構造そのものを変革する方向に進んでいます。日本企業はリーダー的役割を担いつつも、人材不足や統合の複雑さといった制約に直面しており、ここを克服できるかどうかが競争力の分岐点になります。AI導入の成否を分けるのは、ROIの実現と拡張性のあるインフラ、そして強固なデータガバナンスです。
今後は、社内人材の育成と外部パートナーとの協業をいかに組み合わせるかが重要になるでしょう。特に生成AIは、顧客体験の刷新、新規事業創出、意思決定支援といった多面的な効果をもたらすため、試験的導入から本格展開へと移行する動きが加速すると予想されます。
出典:デル・テクノロジーズ 2025.8