オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

クラウド市場、2030年度に6兆円超へ拡大 生成AIとマルチクラウドがけん引

»

富士キメラ総研は2025年9月5日、「2025 クラウドコンピューティングの現状と将来展望 市場編」を公表しました。

同調査によると、国内のパブリッククラウド市場は2024年度の3兆4,444億円から、2030年度には6兆2,515億円へと81.5%拡大する見通しです。背景には、企業間競争の激化やユーザーニーズの多様化に加え、既存システムのモダナイズ需要、生成AIの普及、マルチクラウドの浸透といった動きがあります。VMware製品のライセンス改定は、オンプレミス環境からクラウド移行を後押しする要因になるとみられるといいます。

今回は、クラウド市場の成長ドライバーをSaaS・DaaS・IaaS/PaaSごとに整理しつつ、ユーザー企業の利用実態、生成AIの業務浸透、そして今後の展望について取り上げます。

SaaS市場:デジタルシフトと業務効率化が推進力に

SaaS市場は2024年度、1兆8,719億円と市場全体の半分以上を占めました。背景には人手不足対策や業務効率化ニーズがあり、中小企業の導入が進展しています。業種汎用型SaaSでは、ERPや会計、人事管理といった基幹業務領域において「Fit to Standard」を重視した標準機能への移行が加速しました。大企業でも、システムの個別カスタマイズを減らし、業務プロセスをSaaSに合わせる動きが広がっています。

さらに、リモートワークやコラボレーション環境の整備を目的に、情報分析・コミュニケーション領域のSaaS需要も堅調でした。業種特化型SaaSでは、製造や流通、小売などで自社業務に適合したサービス活用が進んでおり、顧客接点強化やサービス高度化の基盤となっています。2030年度には3兆円を超える規模が見込まれ、SaaSは引き続き市場拡大をけん引する存在になると想定されます。

DaaS市場:働き方の変化とセキュリティ要件が交錯

2024年度のDaaS市場は418億円とまだ小規模ですが、ハイブリッドワークやゼロトラストセキュリティを目的とした導入が進みました。特に金融や公共分野では、クラウド基盤の整備に伴いDaaSの採用が増加しています。

足元では「オフィス回帰」が短期的な成長抑制要因となっています。テレワーク需要が縮小することで、全社規模のDaaS利用から一部業務に限定する企業も出ています。一方で、セキュアFAT端末の普及はクラウド基盤整備を前提とするため、DaaSとの親和性が高い点が注目されます。

また、VMwareやCitrixによるライセンス改定を契機に、オンプレVDIからクラウドDaaSへの移行を検討する企業も増えており、中長期的には再成長が期待されます。

IaaS/PaaS市場:生成AIとインフラ刷新が成長要因

IaaS/PaaS市場は2024年度に1兆5,307億円規模(IaaS:8,603億円、PaaS:6,704億円)となり、2030年度には3兆円超へと倍増する見込みです。オンプレミスからの移行案件が引き続き市場をけん引しており、基幹システムのリフト&シフト案件は規模が大きく、市場成長につながっています。

加えて、生成AI関連の需要増が顕著です。生成AIサービスの多くはクラウドベースで提供され、企業はデータ学習や基盤構築のためにクラウド利用を加速させています。GPUクラウドの利用やAI/MLプラットフォームの活用が広がり、クラウドベンダー各社も関連サービスを拡充しています。

VMware製品のライセンス改定も、基盤刷新を検討する契機となっています。短期的には移行が限定的でも、中期的にはクラウドへの移行需要を押し上げると見込まれます。IaaS/PaaS市場は生成AIの普及とインフラライフサイクルの刷新を背景に、今後も市場拡大が見込まれます。

ユーザー企業の利用実態:スキル不足とセキュリティ不安

ユーザーアンケートによると、IaaS/PaaSを「利用している」と回答した割合は51%に達しました。製造、金融、流通業では利用率が平均より高く、デジタル化投資に積極的な産業が先行しています。

一方で、非利用理由の最多回答は「対応可能な技術者がいない/人数不足」であり、次いで「セキュリティ不安」が挙げられました。つまり、クラウド導入のボトルネックは技術人材の確保とセキュリティ体制の整備であることが浮き彫りになっています。

生成AIの利用状況では「利用している」が約4割、「検討中」を含めると全体の3分の2に上り、急速に業務活用が広がっていることがわかります。最も多い利用形態は既存アプリケーションでの利用ですが、独自モデル開発に踏み出す企業も一定数存在し、クラウド基盤の需要を押し上げています。

今後の展望:生成AIとマルチクラウドが市場を再定義

2030年度に向け、国内パブリッククラウド市場は6兆円規模に成長する見通しです。SaaSは業務標準化とデジタルシフトを推進し、IaaS/PaaSは生成AIや基幹システム刷新の受け皿として拡大します。DaaSは短期的に成長鈍化が見込まれるものの、中長期的にはセキュリティ要件や働き方の多様化を背景に再評価される可能性があるでしょう。

スクリーンショット 2025-09-08 20.16.50.png

出典:富士キメラ総研 2025.9

Comment(0)