拡大するクラウドセキュリティ投資 AI脅威と規制対応が加速要因
IDCは2025年9月5日、「Securing the Cloud: Key Priorities Driving Security Investments in Asia/Pacific」と題した最新レポートを公表しました。アジア太平洋地域において企業がクラウドセキュリティ投資を急速に拡大している実態を明らかにし、その背景としてハイブリッドクラウドの普及、AIを活用したサイバー脅威の増加、そして各国政府による新たなセキュリティ関連規制の導入を指摘しています。
IDCによると、企業は事業継続やデジタルレジリエンスを高めるため、災害復旧、データガバナンス、インシデント対応といった領域に重点的に投資しており、複雑化する脅威環境に備える姿勢が鮮明になっています。クラウドセキュリティ市場は依然として断片的でありながらも、ゼロトラストやCNAPP(Cloud-Native Application Protection Platform)、自動化された脅威検知などのソリューションが重要視されています。
今回は、アジア太平洋地域で進むクラウドセキュリティ投資の現状、企業が直面する課題、規制環境の変化、そして今後の展望について取り上げたいと思います。
クラウド利用拡大とセキュリティ需要の高まり
アジア太平洋地域では、複数のクラウド環境を組み合わせるマルチクラウドやハイブリッドクラウドの導入が急増しています。企業は基幹系システムからデータ分析、生成AIまで、幅広い業務をクラウドへ移行しており、その過程でセキュリティの強化が不可欠となっています。
注目されるのは、AIを悪用した攻撃の高度化です。フィッシングやマルウェア配布は従来型の対策では見抜けないケースが増えており、AIによる自動検知や予測分析を組み込んだ新しいセキュリティ製品への需要が拡大しています。また、インシデント発生時に迅速な検出と復旧を可能にする体制を整えることが、企業価値を守るうえで欠かせない課題となっています。
規制強化とガバナンスへの対応
各国政府もクラウドセキュリティを国家的課題と位置づけています。インドの「デジタル個人データ保護法」、シンガポールの「サイバーセキュリティ(改正)法案」、オーストラリアの「プライバシー法改正」など、データ保護とサイバー防衛を強化する規制が次々と施行されつつあります。
企業はこれらの規制遵守を前提にクラウド活用を進める必要があり、データガバナンスやコンプライアンス支援機能を備えたソリューションへの投資が増加しています。規制の多様化に対応するためには、クラウドプロバイダーやセキュリティベンダーが地域ごとの法的要件を理解し、柔軟に適合できる仕組みを提供することが求められています。
技術革新と複雑性の克服
IDCは、クラウドセキュリティ市場の特徴を「複雑で断片的」と指摘します。複数のベンダーが独自のソリューションを提供している現状では、導入企業がツール間の統合性や操作性に課題を抱えることが少なくありません。そのため、今後は統合基盤の整備と運用の自動化が重要な方向性となるでしょう。
ゼロトラスト、IAM(Identity and Access Management)、CNAPP、CSPM(Cloud Security Posture Management)、CWPP(Cloud Workload Protection Platform)などの技術が、マルチクラウド環境を支える基盤として注目されています。また、脅威インテリジェンスの活用により、リアルタイムでの検知と自動修復を可能にする仕組みの導入も拡大しています。これらを適切に組み合わせることで、企業は運用負荷を軽減しつつ高度な防御力を実現できると期待されています。
プロバイダーに求められる戦略
クラウドセキュリティベンダーやマネージドサービスプロバイダーにとって、今後の成長は「教育」「事例提示」「伴走支援」の三点にかかっています。IDCは、地域内でデジタル成熟度が大きく異なるため、標準的な製品提供だけでなく、業種や規模に応じたカスタマイズが不可欠だと強調しています。
AI駆動の脅威モデリングや予測的セキュリティは魅力的ですが、操作が複雑すぎれば利用は広がりません。利用者にとっての「使いやすさ」や「人間中心の体験」が意識されている点は注目に値します。技術革新と同時に、ユーザー教育やセキュリティ文化の浸透を支援する姿勢が競争力を左右すると考えられます。