Trusted Webが目指すべき姿 ~Trusted Web ホワイトペーパーver2.0から
政府のデジタル市場競争本部は2022年8月15日、Trusted Web推進協議会を開催し、「Trusted Web ホワイトペーパーver2.0」を公表しました。
検討の背景とこれまでの検討経緯は、
・COVID-19を契機に社会全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速。サイバーとフィジカルの融合が進み、様々な社会活動が行われる「デジタル社会」に移行。
・しかしながら、様々な課題が顕在化。"一握りの巨大企業への過度な依存"でも、"監視社会"でもない第三の道を模索することが必要。
・「デジタル社会」の基盤として発展してきたインターネットとウェブでは、データの受け渡しのプロトコルは決められているものの、アイデンティティ管理も含め、データ・マネジメントの多くはプラットフォーム事業者などの各サービスに依存。サイロ化され、外部からの検証可能性が低く「信じるほかない」状況。
・こうした状況を踏まえ、2020年6月の「デジタル市場競争に係る中期展望レポート」の提言を受け、DFFTの具現化も視野に、2020年10月に「Trusted Web推進協議会」を発足、2021年3月にホワイトペーパー Ver1.0をとりまとめた。
・その後、ホワイトペーパーVer.1.0で示された考え方や構想の具体化、深堀りを図るためユースケース分析やプロトタイプ開発を実施し、課題を抽出。
それらを踏まえ、Trusted Webが目指す信頼の姿のさらなる具体化、それを実現するためのアーキテクチャの提示、あるべきガバナンスの検討などを行い、Trusted Webの実現に向けた今後のさらなる道筋を示すものとして、2022年7月にホワイトペーパーVer2.0をとりまとめています。
直面している課題とその原因 では、
・インターネットとウェブは、グローバルに共通な通信基盤として発展して、広く情報へのアクセスを可能とし、その上で様々なサービスを創出。
・しかしながら、デジタル社会における様々な社会活動において求められる責任関係やそれによってもたらされる安心を体現する仕組みが不十分な状況であり、ユーザーが信頼の多くをプラットフォーム事業者などに依拠する中で、その歪みが様々なペインポイントをもたらしている。
といった点をあげています。
ペインポイントの例として、
・フェイクニュースや虚偽の機器制御データなど、流れるデータへの懸念
・生体情報も含めたデータの集約・統合によるプライバシーリスク
・プライバシーと公益のバランス
・サイロ化された産業データの未活用
・勝者総取り等によるエコシステムのサステナビリティへの懸念
・社会活動を行う上での社会規範によるガバナンスの機能不全
ペインポイントの原因は、
・やり取りされるデータが信頼できるか
・データをやり取りする相手方を信頼できるか
・提供したデータの相手方における取扱いを信頼できるか
について、懸念がある状況としています。
こういった状況の中、インターネットとウェブがもたらしてきたベネフィットを活かしつつ、一定のガバナンスや運用面での仕組みとそれを可能にする機能をその上に付加していくことが必要、とし
カギとなるのが"Trust"
です。
Trusted Webが目指すべき方向性としては、
・目的:デジタル社会における様々な社会活動に対応するTrustの仕組みをつくり、多様な主体による新しい価値の創出を実現
・Trustの仕組み: 特定サービスに過度に依存せず、
・ ユーザ(自然人又は法人)自身が自らに関連するデータをコントロールすることを可能とし
・ データのやり取りにおける合意形成の仕組みを取り入れ、その合意の履行のトレースを可能としつつ
・ 検証(verify)できる領域を拡大することにより、Trustの向上を目指すものである
・アプローチ:インターネットとウェブのよさを活かしその上に重ね合わせるオーバーレイのアプローチ
*Trust: 事実の確認をしない状態で、相手先が期待したとおりに振る舞うと信じる度合い
出典:Trusted Web推進協議会 Trusted Web ホワイトペーパーver2.0 2022.8
Trusted Webと「Web3」の違いについては、
・昨今、議論されている「Web3」は、現状のインターネットやウェブに対する問題意識や、分散型で検証可能な部分を広げることを志向しているという意味での方向性で、Trusted Webと共通するものがあると考えられるが、
「Web3」の厳密な定義については様々な見解があり、定義は定まっていないと考えられる。・Trusted Webは、アイデンティティ管理のあり方に重点を置き、技術中立的な取組として進めており、ブロックチェーン技術の活用のみでなく、検証可能性を高める様々な枠組を活用し、組み合わせることにより、Trustのレベルを高めることを目指す。
・Trusted Webの実現に当たっては、インターネットやウェブといったインフラは漸進的に作っていくことが重要である。
現在のインターネットアーキテクチャ等との継続性や既存の仕組みとの相互運用性、特定の技術に依存しすぎることのない更改容易性を充足しながら、「Trust」のレベルを高めたデジタル社会のインフラを目指す。
また、Trusted Webの実装を進めていくに当たっては、こうしたデジタル・インフラにおけるガバナンスのあり方に着目することも重要。
と、整理しています。
そのほか、Trusted Webのもたらすベネフィットや、事業者における価値創造につながることが期待されるケースのイメージ 、ユースケース検証とプロトタイプ実装、ユースケースとプロトタイプ開発から抽出された課題のまとめなどについてもまとめています。
Trusted Webで目指す信頼の姿としては、、Trusted Webで目指す信頼の姿を以下のように整理、この整理をベースに、Trusted Webにおける相互運用性の高い検証可能なデータモデル、検証可能な通信モデルの設計の方向性を、Trusted Webの「アーキテクチャ」として示しています。
出典:Trusted Web推進協議会 Trusted Web ホワイトペーパーver2.0 2022.8
Trusted Webを実現するためのアーキテクチャのイメージ図です。
出典:Trusted Web推進協議会 Trusted Web ホワイトペーパーver2.0 2022.8