経済産業省が示す「半導体・デジタル産業戦略」
経済産業省は2021年6月4日、「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめを公表しました。
本年3月に「半導体・デジタル産業戦略検討会議」を設置し、半導体・デジタルインフラ・デジタル産業の今後の政策の方向性について検討し、「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめを公表しています。
出典:経済産業省 半導体・デジタル産業戦略 2021.6
新型コロナウイルス対応によるデジタル化の進展、2050年カーボンニュートラルに向けた動き、世界的な半導体需給状況のひっ迫、半導体・デジタル関連技術などの先端技術を取り巻く貿易問題、経済安全保障など、デジタル産業やデジタルインフラ、そしてその基盤となる半導体を取り巻く環境は大きな変化に直面しており、こうした変化に対応するため、半導体・デジタルインフラ・デジタル産業の今後の政策の方向性について検討し、今回とりまとめています。
本戦略では、半導体・デジタルインフラ・デジタル産業を取り巻く環境変化および変遷を踏まえ、 (1)半導体・(2)デジタルインフラ・(3)デジタル産業のそれぞれについて、個別戦略を策定しています。
各個別戦略では、今後の対応策として、下記事項について取り組むこととしています。
半導体産業
- 先端半導体製造技術の共同開発と生産能力確保
- デジタル投資の加速と先端ロジック半導体の設計・開発の強化
- グリーンイノベーション促進
- 国内半導体産業のポートフォリオとレジリエンス強靭化
デジタルインフラ
- データセンターの国内立地、新規拠点整備(最適配置)の促進
- グリーンなデータセンターの構築
- 5G、Beyond5Gなどの通信インフラ整備の推進等
- 次世代技術開発
デジタル産業
- クオリティクラウドの推進と市場創出
- 日本に根ざしてサービスを提供するデジタル産業の育成
- クオリティクラウドの実現に向けた次世代技術開発
横断的取組
- 省庁横断的、産学官連携の体制構築
- 産業政策への反映
- グリーン政策やエネルギー政策との連携
基本的考え方としては、経済・社会・民主主義を支えるデジタル産業基盤の確保について、これまでエネルギーや食料の確保に講じてきた政策と同様、資本主義や自由貿易を重視しつつ、一般的な民間事業支援の枠を越え、国家事業として取り組むという方針です。
また、米中技術覇権対立の中で、我が国の戦略的不可欠性と戦略的自立性を確保するため、我が国に根ざす事業者によるデジタル産業基盤の機能の定着を進めるとともに、グローバルサプライチェーンで我が国が中心的な役割・貢献を果たす地位を確立するとしています。
日本列島全体のスマートアイランド化を進め、世界的な課題であるデジタル化・グリーン化の同時達成を実現するとともに、イノベーションやシステムの世界展開・貢献を進めるといったように、グローバルでの視点の展開も視野にいれています。
デジタル産業基盤は、データを収集し、伝達し、処理し、記憶し、共有する基盤としてとらえ、半導体、データセンター・クラウドの一体的整備を図るとしています。
半導体については、失われた 30 年の反省と足下の地政学的変化を踏まえ、過去のレガシーが残存している間に、大胆な基盤強化を図り、産業発展の方向に舵を切り替えるとしています。
データセンターについては、その重要性に比して、これまで十分な立地整備の支援が実施されていないことに鑑み、計画的な整備や投資支援を進める。クラウドについては、今後拡大する産業・政府・インフラ分野に対応できる制度・事業者の確保を目指していく方針も示しています。
半導体分野の目指すべき方向性は、国家として必要となる半導体生産・供給能力の確保が重要となっています。
先端ロジック半導体は、社会のあらゆる電子システムを制御し、データ駆動型経済を支える基盤デバイスであり、「産業の脳」として重要であるが、日本のミッシングピースの一つという課題認識を示しています。経済安全保障上の戦略的自立性の強化を図るため、海外ファウンドリーとの合弁工場の設立等を通じ、国内製造基盤を確保し、さらに次世代製造技術の国産化を進めるとしています。
出典:経済産業省 半導体・デジタル産業戦略 2021.6
日本に存在する既存工場については、グローバルサプライチェーンを支える役割を果たしていくため、メモリ、センサー、パワー、マイコンのそれぞれについて、重要な半導体製造拠点の担い手とターゲットを見定め、大胆な刷新を進める方針です。
デジタル・グリーン投資を支える設計開発では、5G、AI、自動運転、電動車、再エネ等のデジタル・グリーン投資の世界的な市場拡大をチャンスととらえ、ポスト 5G・Beyond 5G システムやグリーンイノベーション等を支える半導体設計・技術開発の強化も進めていくとしています。
また、経済安全保障上の戦略的不可欠性の獲得・強化を図るため、世界の半導体エコシステム/サプライチェーンを支える製造装置・材料分野について、海外ファウンドリーとの共同技術開発等を通じて、チョークポイント技術を磨き上げるという点も示しています。
データセンター・クラウドの目指すべき方向性では、日本のデジタル化を支えるデータの集積地として、また、グローバルでビジネスを展開する事業者の利用するデータの集積地として、日本におけるデータセンター立地を促進し、日本がアジアの中核データセンター拠点となることを目指しています。
産業・政府・インフラ用のクラウドについて、相互接続性と信頼性・安全性の高いサービスの確立、我が国に根ざしたプレーヤーの育成を目指していくとしています。
今後のアクションとしては、
(1)これまでに措置したポスト 5G 基金(2000億円)、グリーンイノベーション基金(2兆円)、産業競争力強化法などを活用し、産業界のコミット・民間資金の活用を確保しつつ、出口を見据えた国家プロジェクト・基盤整備を迅速に進める。
(2)データセンターの国内での新規立地を進めるため、大規模なデータセンター集積地を整備すべく、総務省等の関係省庁と連携し、今後、以下を実施。
①データセンター集積地の要件整理(電力・通信インフラ整備状況、災害リスク、交通、都市部からの距離など)
②候補地選定の進め方なども含めた立地計画を策定することを目指す。
③上記を踏まえ、必要に応じ、土地の造成や各種インフラ整備など、データセンター立地を促進する基盤整備を政府が支援。
(3)半導体、データセンター、クラウド等のデジタル産業基盤が、21 世紀の経済・社会及び民主主義を支え、国民生活に必要不可欠な基盤であることに鑑み、デジタル産業基盤を構成する事業のうち、国家戦略として特に確保すべきものを、政府内の然るべきプロセスを経て特定し、通常の産業政策を越えた特例扱いの措置を講ずる制度の構築を検討する。
をあげています。