データセントリック技術やAIによる保守・運用技術などの将来のネットワークインフラに対する要求条件と主要技術
総務省は2017年7月18日、「将来のネットワークインフラに関する研究会」報告書を公表しました。
本報告書では、以下の目次から構成されています。
第1章 検討の背景
第2章 将来のネットワークインフラへの期待
第3章 2020年から2030年頃までのネットワークインフラに求められる機能
第4章 将来にわたり安定的なネットワークインフラを実現・運用するための技術課題・推進方策等
第5章 将来のネットワークインフラの発展イメージ
第6章 将来のネットワークインフラの実現に向けて
今回は、第4章 将来にわたり安定的なネットワークインフラを実現・運用するための技術課題・推進方策等を中心にまとめてみたいと思います。
将来のネットワークインフラに対する要求条件と主要技術には、大容量、省電力化、超低遅延、柔軟性・高弾力性、高効率データ流通、安全性・信頼性の6つのテーマに、光伝送技術(オア)、光伝送技術(アクセス)、ネットワークスライシング技術、エッジコンピューティング技術、データセントリック技術、自動オペレーション技術の6つの技術があげられています。
出所:「将来のネットワークインフラに関する研究会」報告書 2017.7
光伝送技術(コア)では、2030年頃までには、コアネットワークに求められる伝送容量が100Tbpsを超え、従来の光ファイバの容量限界に到達することが予想されており、光伝送技術の高度化により消費電力の抜本的な抑制や装置の小型化の実現や、接続性を確保や性能劣化、運用の複雑化等を回避するための技術的な対応の必要性を示しています。
光伝送技術(アクセス)では、 2025年頃までには、無線アクセス技術の急速な進展に伴い、無線アクセス回線を低コストで効率良く収用する光アクセス回線の実現が必要としています。、また、2030年頃までには、無線アクセス技術の更なる進展によって、デジタル信号処理に要する光信号帯域が不足することから、デジタル信号処理を介さないフルコヒーレント技術等のシームレスな光・無線変換技術を確立し、ソフトウェア化されたネットワークとの連携によって、ネットワーク資源を弾力的に活用可能な環境を整備する必要性も示しています。
ネットワークスライシング技術では、多様化・高度化が進むユーザニーズに対応するため、電気通信事業者以外のサービス提供事業者によるネットワークリソースの活用の自由度の拡大に対する要求が増大することから、以下の対応の必要性を示しています。
■2025年頃には、電気通信事業者が予め定めた類型のネットワークスライスをサービス提供事業者が選択可能なネットワーク環境を実現。サービスの進展を踏まえて、社会的ニーズの高いネットワークスライスを優先的に実現。
■2030年頃には、サービスの要求に応じてダイナミックに変化するEnd to Endでのネットワークスライシングを実現。
■ネットワークがマルチベンダ構成となり、各種設備の膨大かつ多種多様な性能情報からEnd to Endでネットワーク品
質を瞬時に把握することが困難になるため、特定の情報から品質状態や劣化箇所を把握する技術開発が必要。
■さらに、ネットワークインフラ全体を安定的に運用するという観点が重要であり、ネットワークリソース全体の管理・運
用の手法を確立するとともに、責任主体を明確にしていくことが必要。
■特に、複数の事業者がネットワークリソース制御の自由度を持つ場合には、全体マネージメントを行う機能が不可欠
エッジコンピューティング技術では、自動走行、遠隔制御等の超リアルタイムサービスの実現に向けて、ネットワークのEnd to Endで数msec程度の低遅延化に対する要求が拡大することから、以下の必要性を示しています。
■超リアルタイムサービスや大量のデータを扱うIoTサービス等の実現のためには、ネットワークインフラの超低遅延化や、プライバシー情報の除去、上りトラヒックの一次処理等の効率的なデータ処理を可能とするエッジコンピューティング技術の導入が鍵。
■2020年頃には、分散データ処理、低遅延応答等の基本的なエッジコンピューティング機能を限定地域において実現。
■2025年頃には、クラウド・エッジ・デバイスにおける機能分担の最適化や、ネットワークの物理的な区間ごとの遅延配分モデル等について整理し、エッジコンピューティング技術を導入したネットワークを効率的に実現。
■ネットワーク上におけるエッジ機能の適切な配置場所はサービスの要求条件によって異なるため、類型プロファイルの整理や標準化等の検討を進め、関係事業者間の連携・協調に資することが必要
出所:「将来のネットワークインフラに関する研究会」報告書 2017.7
データセントリック技術では、2030年以降には、高精細映像の配信等を始め、映像系サービスに対するトラヒック占有率の大幅な増加が見込まれており、コアネットワークへの負荷が過大にならないよう効率的に収容していくことが必要としており、以下の項目をあげています。
■コンテンツ流通に最適化された「データセントリックネットワーク」の実現に向けて、ICN/CCN等のデータセントリック技術の開発を推進。なお、IPに基づかないデータセントリック技術の導入に当たっては、IP技術とのハイブリッド方式やネットワークスライシング技術との併用等が有効。
■エッジサーバの柔軟な運用など、エッジコンピューティング技術との連携によってトラヒックの地域分散処理と通信の高品質化を実現。
出所:「将来のネットワークインフラに関する研究会」報告書 2017.7
自動オペレーション技術(AIによる保守・運用技術)では、2030年以降には、マルチプレーヤー化、機器・機能の分散配置・動的再配置等により保守・障害対応が複雑化する中で、高度で安定的なネットワークインフラの保守・運用を少人数で実現することが必要としており、以下の項目をあげています。
■運用管理データの増加や複雑化が進む中、現状のネットワーク設備はベンダごとにデータ仕様が異なる 状況。AIを活用することによりネットワークインフラの保守・運用やサイバーセキュリティ対策を飛躍的に効 率化し、将来的に自動オペレーションを実現していくためには、AIによる学習・判断の適切化・効率化が 不可欠。そのためには、AIに対するデータ入力仕様の標準化や適用ルール等の規定の整備が必要。
■また、AIに適切な判断をさせるためには、ネットワークインフラの保守・運用が正常に行われているときの 事例に係るデータだけでなく、異常が発生したときの事例や対処に失敗したときの事例に係るデータを収 集することが必要。そのためには、スモールデータで効果的にAIを学習させる手法を取り入れるとともに、 電気通信事業者間で協調できる仕組みを構築することが重要。
出所:「将来のネットワークインフラに関する研究会」報告書 2017.7
個人的には、SDI(Software Defined Infrastructure)の世界は、AIの機能を実装することで、AIDI(AI Defined Infrastructure)へとインフラの高度化が進んでいくのではないかと考えています。