政府の推進指針 ~日本の再生に向けて~
政府は5月17日、閣議で、東日本大震災発生後の重要経済政策の優先度や工程などを定める「政策推進指針(PDF)」を決定しました。指針に掲載されている内容を抜粋いたします。個人的に気になる部分(注目する部分)は、太字で下線を引かせていただきました。
東日本大震災は、「危機の中の危機」である。我が国は、震災前から経済の停滞、社会の閉塞状況という「危機」に直面していた。その危機の中で生じたのが、今回の大震災である。原子力災害はなお継続しており、事故への対応に万全を期さなければならない。
東日本の復興を支え、震災前から直面していた課題に対応するため、日本の再生に向けた取組も再スタートしなければならない。本指針は、震災復興と並ぶ日本再生の方針(「財政・社会保障の持続可能性確保」及び「新たな成長へ向けた国家戦略の再設計・再強化」)を提示する。
1.大震災を踏まえた経済財政運営の基本方針
(1)大震災が日本経済に及ぼす影響
① 大震災がもたらした3つのショック
● 大震災は、景気が持ち直しつつあった日本経済全体に、次の3種類のショックを同時にもたらした。
・第1 地震、津波、原子力災害の複合災害による甚大な人的・物的被害と経済循環の寸断による供給ショック(原子力被災地域は経済活動停止)
・第2 発電施設の損壊による電力制約
・第3 原子力発電の安全性についての認識や、放射線被害を契機とした日本製品・日本ブランドへの信頼性の動揺② 当面の影響
● 第1、第2のショックによる供給制約が日本経済に大きな影響をもたらしている。すなわち、被災地を中心とするストックの毀損、サプライチェーンの障害、さらには東京電力、東北電力管内における電力制約の下で、生産活動や輸出が減少している。
● 他方、放射線に関する国内外の風評による被害、消費者マインドの悪化などから、消費や観光など需要面にも影響が出ており、雇用への影響も懸念されている。
● 物価については、依然として緩やかなデフレ状況が続いているが、供給制約が石油価格等の上昇とあいまってコストプッシュ型のインフレ圧力を生む可能性に留意が必要である。
● 金融・資本市場、為替市場については、震災後の機動的な政策対応により大きな問題は回避されたが、引き続き注視が必要である。
③ 今後の日本経済に及ぼす影響
● 消費の減少等による景気への影響が予想され、雇用についても、引き続き厳しい状況がある程度の期間続くとみられる。来年度以降も電力制約がある程度残る可能性がある。
一方、毀損したストックの再建などを通じた復興需要は、景気にプラスの効果をもたらす。
● エネルギー・環境制約や企業・人材の流出等の懸念を克服していくためには、足下から将来に至る中長期的な取組が必要と考えられる。他方、プラスの側面として、耐震住宅、省電力・省エネ・新エネ投資等の新たな需要が拡大していく可能性がある。
(2)当面、短期、中長期の経済財政運営の基本方針
● 経済循環を早期に修復するなど、大震災がもたらした制約を順次、確実に克服する。同時に、新たな成長を実現する取組を強化し、日本経済の潜在的な成長力を回復する。
● 従前からの大きな課題である財政・社会保障の持続可能性の確保、信認維持の必要性は、大震災によって更に高まっており、着実な取組を進める。
① 当面 ~震災からの早期立ち直り~
● 被災者支援、原子力災害被害者支援、災害復旧、原発事故に対する早期対応等に最優先で取り組む。同時に、自粛ムードの払拭、生産設備・施設の再建、電力の需給対策、サプライチェーンの復旧・再構築、雇用対策(復旧事業や農林水産業等における直接・間接の雇用創出等)、国内外の風評被害の防止等の政策を集中的に推進する。
● これらの政策は、平成23 年度1次補正予算の早期執行、規制制度の迅速な見直し等を通じて推進する。政策全体の経済効果を明らかにしつつ、総合性・整合性を確保した取組を進める。
● 実物経済の円滑な循環を再生するためには、金融・資本市場、為替市場の安定が極めて重要である。また、日本銀行には、政府と本指針に示されたマクロ経済運営に関する基本的視点を共有し、引き続き、政府との緊密な情報交換・連携の下、適切かつ機動的な金融政策運営により経済を下支えするよう期待する。
● なお、中東、北アフリカ等の紛争や新興国のエネルギー需要の増加を背景とした石油等一次産品価格の上昇や、欧州の金融問題等に留意が必要である。
② 短期(今後3年程度) ~自律的成長への土台づくり~
● 被災地域の本格的な復興を支援する。同時に、電力制約への政策対応や災害に強いエネルギー供給体制の構築等を進める。さらに、日本ブランドの復活・強化、企業や人材の海外流出防止・海外からの人材等の流入確保、国内外の風評被害の克服等を通じた観光需要の回復等を推進する。
● 新たな成長の芽(コンパクトシティ、エコタウンの建設、省エネ・新エネビジネス、分散型エネルギーシステムの展開、地域のニーズに合った社会保障サービス、農林水産業の6次産業化等)の育成と資金需要拡大(ファンド等による民間投資の促進やPFI・PPPの活用促進等)の好循環を形成する。
● 被災地域におけるこれらの取組の先行モデル的な実施の要望には積極的に対応する。
● この間、震災復興に必要な財源確保、社会保障・税一体改革を実行に移す。
③ 中長期 ~持続可能な自律的成長の実現~
● 安全・安定供給・効率・環境の要請に応える新たなエネルギー・環境構造、巨大リスクに備えた強じんな経済構造の実現などに向けた取組を強化する。同時に、新たな成長分野の拡大等を推進することにより、持続可能で自律的な成長を実現する。
●社会保障・税一体改革を継続することにより、財政・社会保障の持続可能性を確固たるものとする。
(3)経済財政の中長期の展望
● 中長期的に従来の想定と同程度の経済成長を実現することを目指し、必要な改革を加速する。物価については、当面、コストプッシュ型のインフレ圧力の影響を見極めていく必要があるが、GDP デフレータについては、これまでの想定と同様、適度で安定的な物価上昇を目指す。
● 財政については、震災復興の財源確保、社会保障・税一体改革、行政刷新の取組等により、財政健全化を着実に進める。
● 経済財政運営に当たっては景気動向に常に留意することが必要である。経済財政の展望を点検するため、内閣府において本年半ば頃に中長期試算を行う。
2.日本再生に向けた再始動
(1) 再始動に当たっての基本7原則
再始動に当たっては、震災で中断していたものを単に再開することではいけない。
以下の基本原則にのっとり、新たな成長へ向けた戦略の「質的転換」を通じて、柔構造の経済、産業、地域社会を再構築するとともに、これらを支える人材の育成を行う。東日本大震災により露呈した弱点を克服するとともに、傷ついた信頼を回復し、世界との絆を強めていく。力強い日本を再生させるものでなければならない。
① 日本再生が東日本復興を支え、東日本復興が日本再生の先駆例に
② 巨大リスクに備えた経済社会構造の確立
③ 信認の維持(財政・社会保障と日本ブランド)
④ 財源・電力などの資源制約の下での重点配分、新たな成長への重点投資
⑤ 現場力と民間活力の発揮
⑥ 国と国との絆の強化による開かれた経済再生
⑦ 日本再生に関する内外の理解促進(2)各主要政策の進め方
「震災復興」と並ぶ日本再生は、「財政・社会保障の持続可能性確保」及び「新たな成長へ向けた国家戦略の再設計・再強化」の二つの柱で実行する。
Ⅰ.財政・社会保障の持続可能性確保
● 社会保障・税一体改革
・ 「社会保障改革に関する集中検討会議」において議論を進め、昨年末の閣議決定に従って6月末までに成案を得る。
● 財政運営戦略
・ 本年半ば頃に中期財政フレームを改訂し、経済成長、社会保障改革と一体的に財政健全化を着実に推進する。
Ⅱ.新たな成長へ向けた国家戦略の再設計・再強化
● 成長戦略
・ 「新成長戦略実現会議」を5月から再開する。
・ 「新成長戦略」について、質的転換を要するもの、目標は堅持するが工程を見直すもの、目標・工程とも堅持するもの、新たに取り組むもの等の検証を夏までに実施し、年内に日本再生のための戦略としての具体像を提示する。● 革新的エネルギー・環境戦略
・ 「新成長戦略実現会議」において、環境・エネルギー大国戦略の見直しに向けた検討を開始する。
・ 電力制約の克服、安全対策の強化に加え、エネルギーシステムの歪み・脆弱性を是正し、安全・安定供給・効率・環境の要請に応える短期・中期・長期からなる革新的エネルギー・環境戦略を検討する。● 空洞化防止・海外市場開拓戦略
・ 「新成長戦略実現会議」において、「日本国内投資促進プログラム」、「アジア拠点化」、「グローバル人材の育成」、「パッケージ型インフラ海外展開」等を再検証する。
・ 当面打つべき対応(サプライチェーン復旧・再構築、風評被害防止策等)に加え、立地競争力の強化、巨大リスクに備えた経済・産業構造の構築、未来を拓く戦略的・重点的イノベーションの推進等を検討する。● 国と国の絆の強化に向けた戦略
・ 「FTAAP・EPA のための閣僚会合」において、「包括的経済連携に関する基本方針」に基づく高いレベルの経済連携推進や経済安全保障の確立等、国と国との絆の強化に関する基本的考え方を、震災や原子力災害によって大きな被害を受けている農業者・漁業者の心情、国際交渉の進捗、産業空洞化の懸念等に配慮しつつ、検討する。
・ 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉参加の判断時期については総合的に検討する。● 農林漁業再生戦略
・ 東日本大震災で農林漁業が大きな打撃を受けたことを踏まえ、震災からの復旧・復興にまずは全力を尽くす。「食と農林漁業の再生実現会議」において、東日本農林漁業の復興、日本の農水産物の信認回復という新たな課題に応える方策を検討する。
・ 「包括的経済連携に関する基本方針」に定める6月基本方針、10 月行動計画に代わる新たな工程は、日本再生全体のスケジュールや復旧・復興の進行状況を踏まえ、検討する。
3.指針の具体化に向けて
本指針に従って、今後、関係の機関、会議等で各政策分野における取組についての検討を進め、年央に、政策推進の全体像を取りまとめ、公表する。
※「わんとぴ」キュレーター担当しています
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