地域におけるソーシャルメディアの導入と運用のポイントについて(案)
地域活性化のツールにおいて、ソーシャルメディアを活用する事例が増えてきている一方で、なかなか導入に踏み切れない自治体や地域団体などを耳にすることがあります。
自治体においては、公務時間中にツイッターなどでつぶやくことが認められないといった話を聞くこおとがあります。職員が承認なく住民に対して情報発信をして、万が一炎上してしまったケースを考えてしまうとなかなか導入に踏み切れないということもあるでしょう。商店街などにおいては、商店街全体の高齢化が進み、ソーシャルメディアを使いこなすといったリテラシーがなかなか身についていない場合もあります。また、自分自身が必要性を感じて、導入したいと思っても、上司の理解や回りの理解をなかなか得られないということも考えられます。
では、自治体や商店街などの地域においてどのような形でソーシャルメディアを導入していけばいいのでしょうか。自分なりに少し整理をしてみたいと思います。
首長によるトップダウン
最もスピード感をもって、自治体で利用が進むのが、首長によるトップダウンです。首長は住民との対話の機会を非常に重視している場合が多く、自らが、ブログやツイッターを活用するケースも多く見られます。職員が、自らが情報発信をし、住民とのコミュニケーションの機会を増やすことで、住民目線の行政が期待されます。千葉県千葉市や佐賀県武雄市などは首長が自らイニシアティブをとって、成功に結びついています。
佐賀県武雄市の事例:フェイスブック(市役所)革命
千葉県千葉市:対談 行政においてツイッターをどう活用するか 千葉市長 熊谷俊人さん
推進役となる担当者
ソーシャルメディアで成功している自治体や商店街を見ると、若手職員や若手経営者が、旗振り役となって、推進するケースが見られます。一人で推進役がいて、上司のソーシャルメディアの活用に関する理解があれば、まず試験的に始め、反応がよく全体に広がるケースが見られます。
日本で最初に始めた青森県の場合は、推進役がいて、様々な試みをし、全国からも注目を集めています。また、商店街においては高円寺ルック商店街も若手経営者が推進役となり商店街内に勉強会を開くなどで、活用の範囲を広げています。
ガイドラインを作成する
ソーシャルメディアの場合は、個人の人間性が表にでる場合が多く、特に自治体の職員の場合は、発信する内容について、慎重にならざるを得ない場合も出てくるでしょう。また、ルールがなければ、何をつぶやいていいのか、判断ができない場合もあるかと思います。そこで、一部の自治体では、ソーシャルメディアガイドラインを作成し、職員はガイドラインに従って対応するようにしています。
千葉県の「千葉市職員のソーシャルメディアの利用に関するガイドライン(PDF)」では、
1 ソーシャルメディアの定義
2 ガイドラインの必要性及び目的
3 ガイドラインの適用範囲
4 ソーシャルメディア利用に当たっての基本原則
5 ソーシャルメディアを利用して千葉市行政に関する情報を発信する際の留意事項
の5つをもうけています。
勉強会を実施する
ソーシャルメディアは、始めてしまえば比較的簡単なのですが、始めるまでは、抵抗感のある方も多く、ハードルが高い場合があります。そこで、ソーシャルメディアを導入している自治体や商店街などの多くは勉強会を開催し、導入から運用までの講義を実施しています。職員や商店街全体にソーシャルメディアの概要や目的意識が広がれば、全体としての盛り上がりが期待されます。
他の優良事例を参考にする
自治体や商店街などでは、既に多くのところでソーシャルメディアを活用しています。そのため、ノウハウも蓄積されているとことと思います。先日、青森県の担当者の方とお話をしたところ、数十の自治体から問い合わせがきており、多くの自治体はどのように導入し運用したらいいのか悩んでいるのが現状かと思います。そういった意味で、いくつかの自治体や商店街にヒアリングをし、参考にできそうなところをどんどん取り入れていくといったことが大切となるでしょう。
ソーシャルメディアの導入書籍やマニュアルを利用する
自治体や商店街など地域に特化したソーシャルメディアの導入ノウハウが書かれた書籍やマニュアルは少ないのが現状かと思いますが、書店などでツイッターやFacebookなど参考になる書籍があれば、一度目を通してみるといいでしょう。また、茨城県つくば市情報システム課では、実際に導入した際のノウハウを書いたマニュアルを他の自治体に対して無料で配布しているケースもあります。
こういったのを活用してみるのも一つの手です。将来的には、有識者などで検討された「自治体や商店街のソーシャルメディア導入の手引書」なるものが出てくると面白いと思います。
<運用面>>> =====
実際に導入ができたら、次は運用面となります。ソーシャルメディアの場合は、あまりルールを決めすぎてしまってもうまくいかないケースがありますので、大まかな方向性だけ決めて、まず始めてみてから、反応を見ながら、柔軟に軌道修正をしていくことをおすすめします。
担当者をアサインする
自治体では、広報広聴課などの広報機能を持つ担当が最も多くツイッターなどのソーシャルメディアのアカウントを持っています。次に観光課など、地域の観光情報などのPRをする課も比較的多くアカウントを取得しています。自治体の方々とお話を聞いている限り、先進的な取り組みをしているところでも、概ね昼休みなどを利用しながら、1時間程度の利用で、兼務で利用できる範囲かと思います。佐賀県の武雄市では、2011年の4月から「つながる課」を設置するということを明らかにしており、将来的には、一部の企業のように、ソーシャルメディアの運用を専門でする担当が出てくるかもしれません。
発信する情報の対象をある程度決める
商店街の場合は、近隣の住民に対して情報を発信するケースが多いのですが、自治体の場合は、発信する対象が多岐に渡っています。例えば、公式情報をRSS経由でそのまま掲載する場合、住民を対象に休日当番医や防災情報などを発信する場合、地域ブランド向上や観光誘致を目的とした情報発信など、様々です。また、ゆるキャラを利用している自治体は、自由に情報を発信して、キャラクターのPRを訴求するといったケースも見られます。多くの利用者を増やしていくためには、まず最初はある程度情報をフォーカスしていく必要があるかもしれません。
発信する情報(コンテンツ)をある程度決める
発信する対象が決まれば、どのような情報(コンテンツ)を発信するか、というのも重要なポイントとなります。公式ホームページの情報を流す場合もあれば、観光情報やB級グルメ情報などに絞って発信する場合もあるでしょう。必ずしも固定する必要はありませんが、どのような情報(コンテンツ)を発信するか方向性だけは決めておき、できれば他の地域が真似することが難しいキラーコンテンツをもっておくことが理想かと思います。
コミュニケーションポリシーをある程度決める
ソーシャルメディアの場合は、必然的に住民などとのやりとりが発生します。自治体や商店街によっては、プロフィールの中で「返信はしません」と明記している場合もあります。一方、コメントをされたものには原則返事をするといったポリシーで運用している自治体や商店街もあります。もちろん、コミュニケーションをするとなると、それなりの稼動はとられますので、業務稼動や業務範囲を考慮した上で、コミュニケーションをとるかとらないかの判断は必要となってくるでしょう。もちろん、最初は返信をしなくて途中から返信する方針に切り替えても全く問題ないと思います。
フォローポリシーをある程度決める
ツイッターの場合は、自治体や商店街によって、フォロー返しをするかしないか大きく考え方が分かれています。自治体の場合は、フォロー返しをしないケースを多く目にします。一方、意図的にその課に関係しそうなつぶやきをしていれば意図的にフォローをしてユーザを増やす自治体も目にします。茨城県うまいもんどころ推進室の場合は、積極的に農産物関連のつぶやきをしている人をフォローして、フォロワーを増やしており、もう少しで10万フォロワーを超えようとしており、自治体ではダントツとなっています。
先日、うまいもんどころ推進室の方とは情報交換をさせていただきましたが、PV数など目に見える成果も出てきているようです。
助走期間を持つ
ソーシャルメディアを始めて、すぐに成果を出すということは、まず考えられません。多くの自治体や商店街では、実験やまず始めるといったケースが多いかと思います。誠実かつ有益な情報を発信していれば、自然と人は集まってきます。助走をする中で、方向感がみえてくるのではないかと思います。
オフラインのイベント(行事)と連動させる
地域にソーシャルメディアとイベントなどのオフラインのイベントと連動した施策も多く出てきています。ツイッターやSNSなどだけでなく、UstreamやYouTubeなどの動画配信のツールも使い、オフラインとオンラインで一体感を出す取り組みも重要でしょう。オフラインの場では、ソーシャル上では面識が会った場合、オフラインで出会いは感動的だったりすることもあります。
ここ最近の、自治体主催のオフラインのイベントと連携した事例をご紹介します。
「目指せ60万Tweet! 雪に負けるな!鳥取応援プロジェクト(2011.2.13)」
ユーストリーム特設サイトや大雪の災害にあった方々のための募金サイトなど設置
全国初!ツイッターで米子の「ネギ太」PRイベントが東京・お台場で開催(鳥取県)(2011.2.20)」
「ネギ祭(ネギサイ)inお台場」をお台場で開催。ネギ料理やネギ検定など
地域間交流をする
ソーシャルメディアを活用し、自治体間などで地域間で相互に交流するという試みも始まっています。茨城県と美唄市では、メロンとハスカップが日本一であることがツイッター上で話題となり、お互いに特産品を贈りあうことで交流を深めている事例もあります。
Facebookページをつくる
ツイッターを活用する自治体や商店街はかなりの数にのぼっているのですが、Facebookページに関しては、「Facebookページを活用する自治体のまとめ 他(2011年2月28日現在)」などでご紹介をさせていただきましたが、3月1日時点で自治体も商店街も数えるほどしかありません。小林さんの「「新聞社のウェブサイト」が無くなる日」の記事にもあるように、地域ニュースサイトがFacebookページに移行するといったケースも出てきており、地域情報の発信や情報交換においては、Facebookへの関心度が高まっていくことが予想されます。
以上、ざっと思いつくことをあげてみました。その他、いくつか思いつくこともありますが、また、改めて整理をしてみたいと思います。
地域でソーシャルメディアが成功する大きな鍵は、”人”と”情報”です。いかに、人と人、そして情報と情報を結びつけ、自発的な参加者意識と協働の取り組みによって、地域の叡智のたまり場を創りだすことが重要となっていくことでしょう。地域情報はソーシャルメディアの普及時においては、キラーコンテンツになると感じおり、いかにその情報をいかし、人とつなげていくかが大きなポイントになっていくのではないかと感じています。