「新聞社のウェブサイト」が無くなる日
従来型メディアのソーシャルメディア活用については今までもお伝えしてきましたが、これは特に珍しい事例かもしれません。いやもしかしたら、今後はこれが普通の存在になるのかも?
■ Rockville Central: set to become a Facebook-only outlet (Nieman Journalism Lab)
米メリーランド州Rockvilleを対象にした地域ニュースサイト"Rockville Central"がFacebookページに移行し、以後独自サイトの更新を停止するというニュース。確かに現在のサイトを見ると、最後に更新されたニュースは2月28日付けで、自らの「Facebook移行」を報じている他ニュースサイトの記事をまとめたもの。一方で以下のFacebookページでは、直近で50分前と、当然ながら更新が続けられています:
しかしなぜこんな思い切ったことをしたのか。最初の理由として挙げられているのは、「以前からFacebookページは設けていたのだが、公式サイト上とFacebookページ上の2つに読者の会話が分散してしまっていた」というもの。では統一しようと考えたときに、多くの訪問者がFacebookからやってくるのだから、そこに出向いてしまえ、という判断に至ったようです。
また記事では「Facebook完全移行」のメリットとして、他に以下のような点を指摘しています:
- Facebookは一種のインフラであり、コミュニティ機能をそのまま利用できるばかりか、モバイル版アプリまで用意されている。
- 従ってニュースサイト本来の目的である「コンテンツ」に自らのリソースを集中することができる。
- また「2つのコミュニティ」を運営する必要がなくなるので、読者コミュニティとの対話により時間が割けるようになる。
- Facebookの方が(実名制などでユーザーのアイデンティティがある程度明らかにされているため)コミュニティが荒れにくい。
最後の点については、以前ご紹介した米NPRのFacebook活用でも指摘されていた点ですね。また国内のFacebook活用企業でも同じ感想を抱いているという意見をちらほら耳にしますから、実名制に賛否両論あるとはいえ、Facebookに完全移行するメリットとしては無視できないでしょう。
一方、当然ながらデメリットも指摘されています。その最大のものは、皆さんご想像の通り、独自の広告が掲載できない(実際にRockville Centralは契約していた広告主に広告料を返金したとのこと)という点。Rockville Centralは非営利団体に近い感覚で運営されていたらしく、広告料をあきらめてもFacebookに移行するメリットの方が大きいと判断したようですが、営利で運営している大手メディアなどにはとても無視できない問題でしょう。ということで、このエントリのタイトル「新聞社のウェブサイトが無くなる日」が来る可能性はゼロに近い――
と、そう判断してしまうのは早計ではないでしょうか。ご存知のように、広告モデルや記事への直接課金制に頼っているメディアも。必ずしも上手く回っているわけではありません。中にはProPublicaのように寄付金で運営される組織まで現れてきましたが、これならば「Facebook完全移行モデル」でも問題ないはずです。また記事広告を掲載する、有料イベントを開催する(このアイデアはRockville Central運営者も指摘しています)、物販で儲けるなど、様々な可能性が考えられるでしょう。少なくとも従来のビジネスモデルが崩れつつあるいま、「Facebook完全移行」モデルの方が収益面ではマイナス、という捉え方には再考の余地があると思います。
従ってこの完全移行モデル最大の問題は、Facebookが「インフラ」として信用できるかどうか、という点なのかもしれません。表だって政治的な動きをする可能性は低いと思いますが(例のエジプト政変の際にも、FacebookはTwitterやGoogleに比べ政治的な判断を見せようとはしませんでした)、例えばウィキリークスのような行動を報道側が取ろうとした場合に、政府から圧力がかかってFacebookがそれに屈する……などといったシナリオは考えられそうです。ただ本当にそんな事態になれば、たとえAmazonのクラウドサービスもあてにはできないことは、同じくウィキリークスの例がよーく示しているわけですが。
ともあれ、海外ではFacebook上のコミュニティにマスメディアが接近する/接近せざるを得ないという傾向が進行中です。Rockville Centralの決断は1つの可能性として、多くの関心を集めるのではないでしょうか。
【○年前の今日の記事】
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■ 美化運動、2つのアプローチ (2008年3月2日)