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沖田次雄『ジジゴク』1巻を双葉社から送ってもらいました。
これ、けっこう好みで面白いです。絵はこんな感じ。
http://webaction.jp/lineup/33/

新人さんだそうですが、絵はうまい。表紙はさらっと淡い彩色だが、マンガの白黒の絵もまた、抜けのある硬めの線の、ちょっと癖のある淡さ。
ジジイになった極道が主人公で、年金もなく、でもシノギはせねばならず、けっこう非道なことをごく日常的にちまちまとこなしている。同じくジジイの極道で、トシでボケてしまい、でもシャブだけはやってるしょうもない奴がいて、こいつを心配する娘のために会いにいくと、「ゴトーって男の玉ぁ殺んなきゃなんねぇんだ!」とチャカ(銃)を振り回す。で、結局二人で「ゴトーを待つ」のだった(バカだねー)。
主人公の親分がオレオレ詐欺に引っかかったり、なぜかPCに強く、エクセルをマスターしてるために組の経理を任されるうちに事業化を試みたり、孫を相手にポップなおじいちゃんぶりを発揮して感動的な作文を書かせたり、超能力を持ってるかもしれない寝たきり老人と戦ったり、アイデアが豊富でネタの情報も意外なほどしっかり描いてる。ただ、新人だからか、アイデアを放り込みすぎて、やや息切れ感もある。もっと気を抜く部分と、キャラを強く前に出すテンション上げるとこのメリハリがうまくなると、一般読者もついてくるかもしれない。

絵はうまいのだが、マンガとして、もう少しキャラの絵が読後に残る感じとか、アクの強さがほしいかな。でも、ちょっと注目したい人だ。感覚が面白い。

追伸
『ゴクセン』とは逆な感じだから『ゴクジジ』ではなく『ジジゴク』なのかな。
そういえば、昔小林信彦のドタバタ極道物があって好きだったなあ。

natsume

いやあ、京都の平安神宮あたりは、見事な桜でした。疎水の上の桜や柳がまたきれいで。そのかわり駅から街から人の波。こんな季節に滅多にこないので、びっくり。
などと観光に行ったのではなく、京都国立近代美術館でのシンポジウムに参加してきた。館では村山知義展をやっており、見られなかったが図録を購入。

シンポは、まずジャクリーヌ・ベルントさん(京都精華大学)が、昨年編された「美術フォーラム21」24号特集「漫画とマンガ、そして芸術」をもとに報告と問題設定を話され、次に4人のパネラーが15分ずつ報告。
最初が僕で「「絵・言葉・コマ」と美術史、そしてマンガ」。最初に、日本のマンガ言説が「芸術」を排除した頃の話を少し。で、フレームの連続による物語の例として、まず2世紀インドのシャカ誕生譚のレリーフを見せ、次にホガースとテプフェールを比較し、テプフェールが現在のマンガを感じさせるのは、近代的な時間の感覚によるのではないかと示唆。さらに江戸前期の手品入門のコマ割を見せ、コマの形式は現在のマンガと同じだが、形式だけでは近代的なマンガとして論じることができず、様々なコンテクストの中で考えるほかないという話。

次に早川聞多さん(国際日本文化研究センター)が春画について、たくさんの例を示しながら、じつに楽しく面白い報告。性が、ごく日常的なものとして共有され、春画は縁起物や厄除けのような機能も持っていたなど、じつに興味深かった。また江戸期には「笑絵」などと呼ばれ、性は「笑う」ものだったとか。
三人目は、うちで腐女子や二次創作を研究しようとしている学生もお世話になった(らしい)石川優さん(大阪市立大学都市文化研究センター)が「「二次創作」における物語テクストの再-生成 『ONE PIECE』の「やおい」同人誌を中心として」という報告。ただ、これらの対象に不慣れな聴衆もいるということで、まず基本的な知識の解説からせねばならず、ちょっと大変そうだった。
四人目は、雑賀忠宏さん(神戸大学)の「「マンガを描くこと」と「作者性」 信憑構造の諸相-マンガ、アメコミ、そしてBD」として、マンガやアメコミ、BDの中で、作者自身が登場することが、いかにして「芸術」的な正統化に近づくか、というような話。うちで戦後マンガ言説史をやってる可児さんともつながるところがあり、面白かった。でも、ちょっと広すぎて、日本の部分は時間切れ省略。

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夏目 房之介

夏目 房之介

72年マンガ家デビュー。現在マンガ・コラムニストとしてマンガ、イラスト、エッセイ、講演、TV番組などで活躍中。

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