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以前、このブログで紹介した、みなもと先生のご祖父・松吉氏の話を描いたマンガ、その2である。みなもと先生よりお送りいただいた同人誌だが、これまた前作同様、むちゃくちゃ面白い。今回は朝鮮の連川で警察署長をしていた頃の話中心で、のちに3・1運動につながる民衆反乱に遭遇したりする。そのとき松吉は、暴徒に向かい、ただひとり馬に乗って向かい、何と暴徒は「大軍」と勘違いして逃げ散ったという。まるで勝海舟のオヤジ、勝小吉の挿話みたいだ。また、警察署長にもかかわらず、共産党の活動家を密かに匿ったり(これも勝が維新後、中国の革命家などと会っていた挿話を彷彿とする)、満州の甘粕との交流、母上が愛新覚羅家の女性と懇意だった話など、とてつもない話が満載(といってもわずか50ページ弱だけど)。とにかく、やたらと人物の大きい人だったようだ。
ところで、この本には「文芸別冊 赤塚不二夫追悼」(2008年 河出書房新社)所載の「ギャクマンガ ー 開き直りの美学」が収録されている。
『ノンキナトウサン』以来のオジサン類型に始まり、ユーモア生活漫画の系譜を辿り、富永一朗や杉浦茂に触れつつ、石森章太郎『テレビ小僧』から『おそ松くん』にいたる歴史を祖述した、じつに示唆多い文章なんである。ギャクマンガをたどってみたい人には格好のエッセイなので、ぜひとも読まれたい。
なお、米澤嘉博氏への追悼文も併載されており、ひじょうに正確に彼の批評エッセイの特徴をついている。我々は素晴らしいマンガ家を持っているなあ、と思います。
テプフェールのマンガとマンガ論(手塚の顔の記号論みたいなもの)の前提に欧州における18~19C.観相学の流行があり、視覚文化全体の変化があり、そもそも近代文学でことこまかに人相だのを描写するのも(わかりやすいのは、だいぶ後だけどホームズ物の人物推理)、そこに淵源があるらしいという話は、一年目の演習ゼミで話題になった。ササキバラ・ゴウ氏をまじえ、かなり刺激的な議論があり、そこにグルンステン「線が顔になるとき」の翻訳も出て、今わがゼミでは先端的な主題の一つになっている。
というような話を何かのおりに、一緒に八卦掌を習っている中国思想研究者の野村さんに話したところ、何と中国の人相学についての論文と、人相学の類型図版をのせた書物のコピーを、昨日の練習のときに持ってきてくれた。
小川陽一「明清の肖像画と人相術ーー明清小説研究の一環としてーー」(東北大学中国語学文学論集 第4号 99年)と「相法門」(相法は人相学のこと。家庭で使う万能百科みたいなものらしい)。
ちゃんと読んではいないのだが、小川論文の冒頭を読んでびっくり仰天。そこには、こんなことが書いてあったのだ。
〈この人相術は明清の小説とは極めて深い関係があり、人相術や人相占い師が物語の内容に用いられたりしている。つまり小説の題材・人物形象・枠組みに人相術が用いられているということである。このような現象が明清小説には、長編・短編ともに広く見出され、明清小説成立の重要な要素となっている。このことについてはすでに、明清小説と人相術というテーマで論文を発表し、拙著『日用類書による明清小説の研究』(1)に収録した。その論文では、明清時代に人相術は小説だけではなくて、他の諸文化、日常生活の指針はいうまでもなく、贈答詩・戯劇の役者のメーキャップ・肖像画の技法・軍隊の作戦などにも広く人相術が浸透していることに言及した。〉(同論文「1 はじめに」より) 注1 1995年10月、研文出版社
明清の小説とは、『三国演義』、『水滸伝』、『西遊記』、『金瓶梅』、『聊斎志異』、『紅楼夢』など、要するに大衆娯楽小説で、流通、商業の発達とともに、社会的な中間層も育ち、受容層をなしたであろう時期にあたるはずだ(博物学や百科事典みたいなものも成立したらしい)。つまり、その頃の小説の成立に人相術が深くかかわっていたとの研究らしいのだ。ちなみに明が滅び、清が中国を支配するのは1644年。
驚くべきことに、欧州と中国では、やや時代がズレるものの、人相学を基礎にした小説、画像表現が成立していたようなのだ。これ、やっぱり分野を超えてお互いに情報交換してみたら、すごく面白いんじゃなかろうか。マンガ研究って、こういう越境性を持ちうるんだなあ。
今、調べたら小川陽一氏は東北大学名誉教授のようだ。東北大学といえば、テプフェール研究の森田直子さんとマンガ研究の岩下朋世さんがいるじゃないですか。すでに交流してるんだろうか?
追記
野村八戒さんのブログにも記事が。
http://d.hatena.ne.jp/nomurahideto/20100107/p1
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