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夏目房之介の「で?」

みなもと太郎『松吉伝2』とギャグマンガ史

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以前、このブログで紹介した、みなもと先生のご祖父・松吉氏の話を描いたマンガ、その2である。みなもと先生よりお送りいただいた同人誌だが、これまた前作同様、むちゃくちゃ面白い。今回は朝鮮の連川で警察署長をしていた頃の話中心で、のちに3・1運動につながる民衆反乱に遭遇したりする。そのとき松吉は、暴徒に向かい、ただひとり馬に乗って向かい、何と暴徒は「大軍」と勘違いして逃げ散ったという。まるで勝海舟のオヤジ、勝小吉の挿話みたいだ。また、警察署長にもかかわらず、共産党の活動家を密かに匿ったり(これも勝が維新後、中国の革命家などと会っていた挿話を彷彿とする)、満州の甘粕との交流、母上が愛新覚羅家の女性と懇意だった話など、とてつもない話が満載(といってもわずか50ページ弱だけど)。とにかく、やたらと人物の大きい人だったようだ。

ところで、この本には「文芸別冊 赤塚不二夫追悼」(2008年 河出書房新社)所載の「ギャクマンガ ー 開き直りの美学」が収録されている。
『ノンキナトウサン』以来のオジサン類型に始まり、ユーモア生活漫画の系譜を辿り、富永一朗や杉浦茂に触れつつ、石森章太郎『テレビ小僧』から『おそ松くん』にいたる歴史を祖述した、じつに示唆多い文章なんである。ギャクマンガをたどってみたい人には格好のエッセイなので、ぜひとも読まれたい。

なお、米澤嘉博氏への追悼文も併載されており、ひじょうに正確に彼の批評エッセイの特徴をついている。我々は素晴らしいマンガ家を持っているなあ、と思います。

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