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日経BPさんから、まもなく発売される『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』を頂いてしまいました。ありがとうございます。というわけで、いつものように感想を少し。
踊る大捜査線に組織論を学んだり、カリスマ手品師に心理学を学んだり、はたまたラーメン二郎に経営学を学んだり。成功事例に学ぼうぜ!という本は多々あれど、ロックバンドにマーケティングを学ぶというのは大胆な発想ではないでしょうか。しかもそのバンドというのが、「メジャーレーベルでミリオンヒット連発」的な人々ではなく、60年代ヒッピー文化の象徴のようなアーティストなのですから:
どう考えてもAKBあたりを参考にする方がマシなように思えますが、実は彼らが行ってきた活動こそ、最近注目されている「ソーシャル」や「フリー」、「シェア」といった概念を先取りするものだったことが本書で解説されます。糸井重里さんが本書のまえがき「彼らはそれをやっていた」に寄せた次の表現が、この点を的確に示しているでしょう:
西海岸のヒッピーくずれの、傍から見ればきっと文無しの集まりだったバンドが、いま世間で注目されている「最新型ビジネス」の秘密を明らかにしてくれるのです。
グレイトフル・デッドは、40年以上前から、ファンのみんなに自分たちの音楽を無料で開放していました。ツアーの音楽は録音してコピーし放題。まさに「フリー」であり「シェア」のはしりです。
著作権だなんだといわずに、自分たちの作品を開放したら、たくさんのファンがついてくれて、コミュニティができて、仕事を手伝ってくれて、結果としてグレイトフル・デッドの音楽活動は、大きな市場になりました。
とっくの昔、みんながそれを嘲笑していたかもしれない時代から、「彼らはそれをやっていた」のです。
実際に本書で語られるグレイトフル・デッドの物語は、どこぞのブログで偉そうに語られる(※笑うところです)「革新的マーケティング手法」のような内容ばかり。さらにポイントが解説された後で、そのポイントを活用している最新事例が合わせて紹介されているので、なおさら「彼らはそれをやっていた」という印象を強く受けることでしょう。インターネットもない、ケータイもない、ましてやツイッターやフェイスブックもない時代から、グレイトフル・デッドはネットワークを創り上げ、ファンと一体になる音楽活動を行っていたわけです。
ほとんどのロックバンドは、観客がライブで録音することを禁じる。だがグレイトフル・デッドは、ファンに録音を許可しただけでなく、良い音質で録音できる場所に機械をセットできるよう「テーパー・セクション」を儲けた。ほかのバンドが「だめだ」と禁じるさなか、録音テープを交換し合うファンの膨大なネットワークをインターネットが普及する以前の時代に作り上げたのである。たくさんの人がテープを聴いてファンになり、ライブのチケットが売れた。今では多くの企業が価値のあるコンテンツをネットで試験的に提供しているが、無料にすることでさらに多くの人が知ってくれて、結果的にお客さんが増えるということがわかる。
従って本書を簡潔に言い表すとすれば、「ソーシャル」が技術の問題ではなく、哲学の問題であることを改めて教えてくれる一冊と言えるのではないでしょうか。哲学があれば40年前でもできるし、なければいくら最新テクノロジーをかき集めてもできない。もちろん技術が何らかの行動を可能にする・容易にするというケースはありますが、それを見て「技術が行動を生んだのだ」という誤解をしてはならないということを、本書を読み終えて強く感じています。
もう1つ書いておきたい感想があるのですが、それは本書、特に邦訳出版チームが非常に楽しそうだという点。書店で見かけたら、ぜひ手に取って、装丁から中身に至るまですみずみ観察してみて下さい。良い意味で普通の本ではありません(笑)。そして本書のFacebookページも覗いてみましょう。糸井重里さんを始めとして、様々な関係者が本書を日本に紹介するため、熱意を持って行動していたことをひしひしと感じることができます。あまりのこだわりが発売延期を引き起こすということもあったようですが、それもご愛敬。こんな作品に関わることができた方々を、羨ましいなぁと感じずにはいられませんでした。
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