シロクマ日報:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS)

シロクマ日報

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

ニューヨークに拠点を置くIMRSVという会社が、市販のウェブカムを使い、画像から来店客層の分析ができるというサービス"Cara"を始めたそうです。しかもその料金というのが、カメラ1台あたり$39.95/1ヶ月という価格破壊なのだそうで:

New software brings face detection to stores and streets for $40 a month (The Verge)

25フィート(約7.6)先から顔認識が可能で、年齢層と性別を90パーセントの精度で識別可能とのこと(複数人を同時に認識することもOK)。どこぞで話題になったような、コンビニで年齢確認ボタンを押す/押さないという問題にも応用できるかもしれません。実際にニューヨークの5番街にあるリーボックの店舗で、このCaraを使った解析が行われているのだとか。

でも、お高いんでしょう?

Off-the-shelf face detection software is becoming more common, but Cara is one of the most affordable at $39.95 per camera. It’s easy to download from IMRSV’s website and install, even on $150 computers and cheap webcams. IMRSV is also providing a free API so developers can build apps using Cara.

市販の顔認識ソフトも一般的な存在になりつつあるが、Caraはカメラ1台あたり39.95ドルという、最安値のサービスのひとつだ。IMRSVのウェブサイトから簡単にダウンロードしてインストールすることができ、150ドルコンピュータのような低価格PCとウェブカムを使っても走らせることができる。またIMRSVは無料APIを提供しているので、開発者はCaraを使ったアプリを開発することが可能である。

ということで、カメラごとの課金体系となりますが、何と月額約4,000円という安さ。さらにGoogle Analytics風のログ解析メニューも用意されていますから、カメラがあまり必要ない小規模な小売店で、来店客の動向分析を始めるのにちょうど良いかもしれません。

そういえば今日はこんな話もありました:

Watch Game|Life | New Xbox One - Kinect: Exclusive WIRED Video

新しいXbox"Xbox One"と同時に発表された"Kinect 2"の性能について。もともとKinectはSDKが公開されていて、海外で「画像解析でこんな面白いことしてみました!」というニュースがあるとお決まりのように「入力端末にKinect使ってます!」という流れになっているのですが(例えばKinectを安価な3Dスキャナに変えてしまうなどという話も)、今回の性能アップ+Xbox Oneから本体に同梱されるということで、その流れが加速しそうです。先ほどのCaraもAPIを公開していましたし、画像解析をどう実現するかというよりも、手元にあるハード+ソフトでどんな面白いことを実現するかという話の方がさらに重要になってゆくのでしょう。

そうなると、ウェブサイトを開設していればアクセス解析を行うのが当然なように、何らかの店舗や施設を管理している人には「なんで来訪者の分析しないの?」というプレッシャーがかけられるようになるのかもしれません。いままで簡単にログが取れるのはウェブの世界だけでしたが、現実の世界も同じぐらい簡単に行えるようになるわけですから。しかもクッキーを使わなくても「顔」で個人を識別することができ(WIREDのビデオにも、一度ログインしたことのある人は顔認識でサインレスのログインが可能になるというシーンが出てきました)、クッキーを削除する的な対応も不可能であることを考えれば、「現実解析」の方が重宝されるという状況も出てくるでしょう。社内でウェブ解析を担当していた人が、気がついたらリアル店舗全体の状況を分析する要職に就いていた……なんて話も出てくると思います。

ウェブを見ればアクセス解析され、読書すれば電子書籍端末経由でログが取られ、街を歩けば映像から分析が行われる時代。購買履歴だってポイントカードで記録されているし、社員や学生の行動記録をIDカードや交通系カードで取るという話もごく普通のことになっています。とっくの昔に、ネットとリアルを分けるのはナンセンスになっていて、現実世界はすべてデジタル化されてゆくのかもしれません。

アキヒト

プレディクティブ・アナリティクス(Predictive Analytics)。日本語では「予測分析」などと訳されている言葉で、文字通りこれから起きることを予測するための技術です。ご想像の通り、流行りのビッグデータなどにも関係している分野なのですが、「何をするのか」が明確なだけビッグデータよりも分かりやすい概念かもしれません。あるいはビッグデータに続くバズワードになるかもしれない――ということで、その予測技術をテーマにした一冊が、最近発売された"Predictive Analytics: The Power to Predict Who Will Click, Buy, Lie, or Die"です。

Predictive Analytics: The Power to Predict Who Will Click, Buy, Lie, or Die Predictive Analytics: The Power to Predict Who Will Click, Buy, Lie, or Die
Eric Siegel Thomas H. Davenport

Wiley 2013-02-07
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表紙に描かれているのは「機械仕掛けの水晶玉」。未来を見通すということで、まるで占い師の水晶玉のような存在である予測技術について、その裏側にある機械の仕掛けを解説してくれています。

著者のエリック・シーゲル氏は、予測分析に関するカンファレンスなどを主催されている方。ということで若干この分野の宣伝めいた内容にもなっているのですが、手放しで肯定しているだけの本ではありません。彼はコロンビア大学で教授として、機械学習や人工知能、コンピュータ科学などの教科を担当していた経歴を持ち、この分野で深い知見を有しています。そして本書では、ネイト・シルバー氏が著作"The Signal and the Noise"の中で展開した予測技術に対する批判なども紹介する形で、その可能性と限界がバランス良く紹介されています。

本書の冒頭に登場するのは、予測分析を活用することで可能になった様々な事例。日本でも話題になった「買い物履歴から女性の妊娠を把握」という事例や、顧客が選びそうなものを把握する(レコメンデーションに活かすわけですね)、会社を辞めそうな従業員を把握する、結婚や死といった重要な出来事を予測する等々の例が紹介されています。この辺りは軽いタッチで、要は「つかみ」の部分。このまま予測技術ってすごいね!で進むのかと思いきや、中盤からは予測技術がどのように実現されているのか、ある程度深い部分まで触れる形で解説が行われています。

例えば第5章で登場する「アンサンブル」というアプローチ。これは文字通り、複数の予測技術を組み合わせることでより精度の高い結果を実現しようというもので、実際にネットフリックスが開催している「ネットフリックス・プライズ」に参加したチームの事例を通じて解説が行われています。異なるテクニックでの独立した分析結果を合わせるということで、エヴァのMAGIシステムのようなもの……というと語弊があるかもしれませんが(笑)、どのような発想で予測技術の進化が図られているのか、その具体的な状況をつかむことができるでしょう。

また一概に「予測する」といっても、予測した結果が具体的な価値の実現に結びつかなければ意味がありません。例えば第6章では、オバマ大統領の選挙対策チームの事例を取り上げ、単に「選挙に行かなそうな人」を予測するだけでなく「戸別訪問などの働きかけが有効な人/逆効果な人」まで区別することで、選挙活動の効率化が進められたことが紹介されています。よくデータ・サイエンティストに求められる資質として、単に数学者としての能力だけでなく経営者に近い能力まで含まれていることが指摘されていますが、この辺りを読むとまさに予測技術が「職人技」の世界に近いことが理解できるでしょう。本書に登場する事例を通じて言えることですが、高度な技術+それを使いこなす専門家の存在があって初めて、魔法が現実になるのだということを実感させられます。

ビッグデータ解説本の中には「こんな事ができそう、あんな事ができそう」という期待やイメージを語るだけで終わっているものが少なくありませんが、本書は具体的な事例(上記の他にも、IBMのワトソンなど有名事例が数多く登場します)に関する解説を通じて、実際のところ予測分析でどこまで可能になっているのか、またそれを正しく活用するためには何に気をつけなければならないのか、といった疑問にまで答えてくれています。冒頭で「ビッグデータに続くバズワードになるかもしれない!」などと煽ってしまいましたが、ブームに惑わされず冷静な見極めをしたい、という方に適した一冊となるでしょう。

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アキヒト

あまりビジネス書は好きじゃない、という方も(実は)多いと思いますが、そんな方にも本書はぜひお勧めしたいと思います。シリコンバレーの著名ベンチャーキャピタリストがいま何を考えているのか?どんな行動を取っているのか?を知ることができると同時に、スタートアップの最前線で力を尽くす若者たちの素顔が見えてくる、まるで映画のような一冊です。

Yコンビネーター   シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール
ランダル・ストロス 滑川海彦

日経BP社 2013-04-25
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本書『Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール』は、以前ご紹介した"The Launch Pad"の邦訳となります:

【書評】「ベンチャー養成講座」を疑似体験できる一冊"The Launch Pad"

言わずと知れたベンチャーの「聖地」シリコンバレー。そのシリコンバレーで最も注目されるベンチャーキャピタリストの傍らで、彼が開催する「短期集中ベンチャー養成講座」に参加できるとしたら、エキサイティングな体験にならないはずがないでしょう。しかしこのプログラム「Yコンビネーター」に参加するためには、創業者ポール・グレアム氏らによる合格率約3パーセントという選考を潜り抜け、起業家候補生として3ヵ月間の厳しい日々を過ごす覚悟がなければなりません。そんなYコンビネーターに潜入し(もちろん許可を得てですが)、選考過程から「卒業」までを描いた貴重なドキュメンタリーが、"The Launch Pad: Inside Y Combinator, Silicon Valley's Most Exclusive School for Startups"です。

ということで、簡単に言えば「Yコンビネーターという『最強のスタートアップ養成スクール』の1クールを、始まりから終わりまで追ったドキュメンタリー」が本書です。著者は『eボーイズ―ベンチャーキャピタル成功物語』でドットコム・ブームの頃のシリコンバレーも描いていたランダル・ストロス。となれば、面白くないわけがありません。

原著が非常に面白く、絶対に日本でも広く読まれるべき!と勝手に感じていたのですが、滑川海彦さん・高橋信夫さんというお馴染みのお二方の翻訳で出版されることになり、嬉しい限りです。しかも原著にはなかった、Yコンビネーターの関係者や施設の写真つき。より深く「Yコンビネーター疑似体験」を楽しめるでしょう。

本書で学べることは、非常に多岐にわたります。アイデアの生み出し方。ピボット(最初のアイデアを捨てて軌道修正すること)の重要性。つらい時間の過ごし方。そしてプレゼンの時の注意点(ゆっくり話せ!)に至るまで、本当にYコンビネーターに参加しているかのように、実体験に近い形で感じ取ることができるでしょう。ならばエッセンスだけ抽出して、箇条書きにしてくれ!という方もいると思いますが、個人的にはドキュメンタリーという形式を取っているからこそ、頭にすんなりと入ってくる部分もあると思います。(とはいえ本書の教訓を体系的に学び直したいという方には、以前も書きましたが『リーン・スタートアップ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』などが良い副読本になると思います。)

また本書に登場する「生徒たち」、すなわちYコンビネーターを通じて新たなスタートアップを立ち上げようとしている起業家の中には、様々なタイプが登場します。もちろん狭き門をくぐり抜けているのですから、それなりの実力を持った人々なのですが、みな3ヶ月間を順調に過ごすというわけではありません。中には「これだ!」というアイデアがなかなか見つからない人や、アイデアはあっても具体化が順調に進まないといった人も。その姿に自分を投影して、彼らがどのように問題を乗り越えたのかを知ることで、自分自身の問題に関するヒントも得られることでしょう。冒頭で本書を「映画のよう」と喩えましたが、様々なタイプの登場人物が織りなす群像劇といったところでしょうか。ポール・グレアムやYコンビネーターという中心テーマに注目するだけでなく、個々の起業家やスタートアップたちのサイドストーリーに注目するというのも、本書が提供してくれる楽しみ方のひとつだと思います。

ということで、ゴールデンウィークは旅行に行くぞ!という方も、休みなんてあるか!日本で仕事だ!という方も、本書で「シリコンバレー強化合宿3ヶ月の旅」に出るというのはいかがでしょうか。きっと本当の旅と同様に、ずっと心に残る教訓を与えてくれるはずです。

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アキヒト

M2MやIoT(インターネット・オブ・シングス)、そしてウェアラブルコンピュータなど、一歩先ならぬ半歩先のネット+コンピュータのあり方を示す言葉が登場していますが、正直いまいち何が変わるのかイメージしにくい、という方も多いのではないでしょうか。こうした要素の重要性が増すことは確実ですが、一般の視点で考えるとまだまだ「次の社会」のあり方は見えてきていません。そこで各要素を束ねて「機械がソーシャル化する」という概念にまとめた上で、どんな状況が実現されるのか・その中でサービス提供者として活動するにはどうすれば良いのかを論じた本が"Social Machines: How to Develop Connected Products That Change Customers' Lives"です。

Social Machines: How to Develop Connected Products That Change Customers' Lives Social Machines: How to Develop Connected Products That Change Customers' Lives
Peter Semmelhack

Wiley 2013-03-20
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著者のピーター・センメルハック氏は、自らもBug LabsというIoT系のプロダクト/サービスを提供する会社を設立した起業家。以前はアンテナ・ソフトウェアという会社を経営していたのですが、あるきっかけでネット+ソフト+ハードという分野に飛び込むことになりました。

そのきっかけとは、お姉さん(妹さん?)が糖尿病患者で、定期的にインシュリン注射を行わなければならなかったこと。本書で詳しい経緯が語られているのですが、起きている間は大丈夫なものの、睡眠中にも血糖値が低下する場合があり、彼女の旦那さんがそばで付き添っている必要がありました。しかしそれでは旦那さんに負担がかかり、またうっかりミスが起きる場合もある――そこで彼は、機械で血糖値の低下を監視できないかと考えて、担当の医師などと相談。そして血糖値の低下と心拍数の急上昇に相関関係があることを知り、心拍数をセンサーでチェックして、異常があればメールによるアラートを送信・同時にラジオを大音量で鳴り響かせるというシステムを開発しました。これが評判となり、Bug Labsという形でこの分野での取り組みを続けることになったのだそうです。

本書とテーマはずれるのですが、彼の書いた記事を日本語で読むことができます:

Peter Semmelhack(Bug Labs)『医療ハッキング』を語る (Make|Japan)

話を元に戻すと、センメルハック氏は通信機能を持ち、人々とコミュニケーションすることが可能な機械を「ソーシャルマシン」という言葉で表し、本書の前半で「ソーシャルマシンがどのようなビジネスやサービスを可能にするか、人々はどんなメリットを手にするか」、後半で「ソーシャルマシンを実現するにはどうすれば良いか、何に注意する必要があるか」を解説しています。単なる概念論で終わらず、自ら実務に携わってきた経験を活かし、具体的なサービス事例から開発論まで展開してくれるのが本書の大きな価値と言えるでしょう。

特にソーシャルマシンを捉えるフレームワークは、実際にこの分野でビジネスを立ち上げようとしている方々にとって参考になると思います。例えば本書では、ソーシャルマシンは物理的な機体と、デジタル情報で構成されたイメージ=アバターという2つの体を持つと捉え、前者だけでなく後者をどうデザインするかが重要だと指摘。特に後者のデザインは新しく出てきた課題だとして、具体的なヒントを解説してくれています。またソーシャルマシンの顧客について、「物理的な機体を手にする直接の顧客」「アバターを活用して新たなサービスを生み出す開発者」「開発者が生み出した新たなサービスの利用者」の3種類が存在すると捉え、それぞれにどのような対応を行うか、また彼らの関係からどのようなビジネスモデルを考えれば良いのかなども解説してくれます。

例えば本書でも登場する事例、通信機能を持つスケートボードを考えてみましょう。このスケートボードがソーシャルマシンなわけですが、物理的なスケートボードという体と、そこから収集される様々なデータ(位置情報やスピード、走行距離やボードの傾きなど)で構成されるアバターという2つの存在を持っています。この場合、ボードで遊ぶ人が「直接の顧客」になり、アバターをハックする人が「開発者」になり、開発者が何らかのサービスを開発すれば「新サービスの利用者」が生まれることになると。例えば「走行距離で世界中のユーザーと競争ができるコミュニティサイト」や、「遊ばれ方を分析してスケートボード制作者に有意義な情報を提供するサービス」などが考えられますが、前者ならサービス利用者はボード所有者と一緒になり、後者ならサービス利用者は第三者のメーカーになるでしょう。またソーシャルマシンの提供者が開発者であってはならないということはないので、ボードの開発者がコミュニティサイトも運営するということも考えられます。

この場合、どのようなビジネスモデルが考えられるでしょうか。情報提供サービスは個人情報の保護に留意する必要がありますが、ある程度の顧客が期待できそうです。一方でコミュニティサイトへの参加に課金するというのは難しそうなので、この場合はボード開発者がボードを有料で販売+付加価値サービスとして無料でコミュニティを運営、という形になるでしょう。しかしボードの動きを解析して、よりテクニックを磨くためのヒントをくれるプレミアムサービスなどはどうでしょうか?最近日本でも公式販売が始まったFitbitでも、有料のプレミアムサービス(蓄積されたデータを解析して健康/フィットネスに関するアドバイスをくれるというもの)が提供されています。こちらのサービスで人気を集めることができれば、ボード自体は無料にしてしまう、などといったラディカルなモデルも実現できるかもしれません。

このような特徴を理解し、巧みにデザインされたソーシャルマシンは、通常の製品が次第に価値を落としていくのに対して「時間が経てば経つほど価値が増してゆく」とセンメルハック氏は説きます。さらに製品の提供者、その利用者、関係する第三者のすべてにとってプラスとなるWin-Win-Winのモデルを提供するものであると。またこのように長く使ってもらえるソーシャルマシンは、地球環境にも優しい――これはさすがに期待が大きすぎるかもしれませんが、ともあれ「ソーシャルマシン」という概念でM2MやIoTなどを考え直してみると、様々なアイデアが浮かんでくるのが面白いところです。

ポール・グレアム氏が「ハードウェアルネッサンス」を唱えたり、今年のSXSWではハード系スタートアップに注目が集まったり、Google GlassだのiWatch(まだ噂レベルですが)だのとビッグプレーヤーもこの分野への動きを加速させてみたりしている2013年。ちょうどタイムリーな一冊として、注目の一冊だと思います。

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アキヒト

ソーシャルメディア全盛の時代となり、クチコミを起こすのはずいぶん簡単になった、と思われる方も多いのではないでしょうか。確かに毎日のように「ネットで話題のビデオ!」「話題の記事!」「ブログ炎上!」のようなニュースを目にしていると、面白いものさえあれば放っておいても拡散してゆくような印象を受けるかもしれません。しかしクチコミを専門的に研究しているケラー・フェイ・グループの調査によれば、クチコミ全体の中でネット経由のものはわずか7%であり、大部分(91%)は対面や電話越しに伝わってゆくのだとか。これが正しいとすれば、何がクチコミを起こすのかを考えるためには、ネットだけでなく現実世界での人間の行動を理解する必要があります。本書"Contagious: Why Things Catch On"は、分かったようでよく分かっていない「なぜクチコミが起きるのか」をテーマにした一冊です。

CONTAGIOUS CONTAGIOUS
JONAH BERGER

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Contagiousは英語で「伝染する、伝染性の」といった意味の単語。まさに病気が伝染するかのごとく、人から人へと伝わってゆくクチコミの特徴を考察しています(ちなみに先ほど引用した調査も本書で紹介されていたもの)。著者のジョナ・ベルガー氏は、ウォートン・ビジネススクールでマーケティングの准教授として教鞭を執っている人物。クチコミを研究テーマとしていて、これまでも様々な論文や記事を発表しています。実は以前翻訳させていただいた『ウェブはグループで進化する』にも、こんな箇所がありました:

 例えばジョナ・ベルガーとキャサリン・ミルクマンがこんな調査を行っている。彼らはニューヨークタイムズ紙のウェブサイトに掲載された7500件の記事(6カ月分)を対象に、その中でどのような内容の記事がメールで転送されたのかを分析した。「他人にとって耳寄りな事実を含む記事、例えばダイエットや新製品といった内容のものが最も共有されているだろう」というのが彼らの予想だったが、実際に共有されていたのは、感情を刺激するような内容の記事だった。その中には「尊敬」のように肯定的な感情を抱かせるものもあれば、「怒り」や「不安」などの否定的感情を抱かせるものも含まれていた。しかしそれほど心が沸き立つことのない感情、例えば「悲しみ」などの場
合には、それが共有の引き金になることはなかった。

 共有されやすいコンテンツは、内容が肯定的なものや有益な情報を含むもの、驚きを与えるものや面白いもの、もしくは目立つ形で取り上げられているものである。しかしこうした要素よりもっと重要なのが、どれほど感情を刺激する内容であるか、という点なのだ。

他にもいくつかベルガー氏の手による研究結果が引用されているのですが、"Contagious"ではこうした研究の集大成として、「STEPPS」というコンセプトのもとに議論がまとめられています(もちろん上記の研究についても詳しい解説が)。「STEPPS」とはご想像の通り、「クチコミを引き起こす要因」の頭文字をまとめたものなのですが、本文中のまとめを簡単に訳しておくと:

  • Social currency(ソーシャルカレンシー|社会的通貨)~人はよく見られたいがために情報を共有する。
  • Triggers(トリガー)~頭に浮かぶもの(周囲にある「トリガー」が思い出させる情報)は口にも上りやすい。
  • Emotion(感情)~人は気になるものを共有する。
  • Public(パブリック)~目に触れるものは共有されやすい。
  • Practical value(実用的価値)~「使える情報」は共有されやすい。
  • Stories(物語)~情報は物語の形で伝えられる。

こんな感じになります。で、クチコミを起こしたければこれらの要因が含まれるように注意しよう、というわけですね。こうしてまとめると基本的なポイントばかりに感じられるかもしれませんが(実際基本的な内容なのですが)、具体的な実験を通じて人間の心理を見せられると、よく聞く話でも表面的な理解に留まっていたことに気づかされます。

例えばネット上で書評を書いたり(この記事がまさにそうですが)、レビューサイトにレビューを投稿したりといったことが普通に行われるようになりましたが、悪い評判を書かれると売上に影響が出ると思うかもしれません。しかし実際に本を対象に調査を行ってみると、知名度の低い著者の場合、ネガティブなレビューであっても平均で45パーセントも売上をアップさせる効果があったのだとか。どんな形であっても言及され、人々の頭の中で思い出させるきっかけを与えることで、それが話題の拡散=売上アップのチャンスにつながると。まさに「悪評も評」といったところでしょうか。

また万人受けするようなコンテンツよりも、ニッチな興味や社会グループに絞ったコンテンツの方が実はシェアされやすいのだとか。これは人間が持つ「あの人に教えてあげよう」という自然な気持ちを刺激するためには、誰もが興味を持つような話=具体的な人物のカオが浮かばないような話よりも、「これはあの人が好きそうだよな」という方が望ましいからという解説が行われています。

このように、「面白いから話題になったのだろう」といった程度の分析ではなく、興味深い事例と共に解説をしてくれるのが本書の売りでしょう。単純に心理学系の読み物としても楽しめる一冊だと思います。しかしマーケティングの先生らしく、単にクチコミが起きて良かったねで終わるのではなく、「そのクチコミって本当に何らかの目標を達成できたの?」という領域まで踏み込んでいるのもポイント。例えば2004年のアテネオリンピックで、オンラインカジノの宣伝用スタントマンが飛び込み競技に乱入するという事件が起きたものの、話題作りに成功する一方でセールスには結びつかなかったという事例などが紹介されています。

アドバイスも実践的で、軽い気持ちで読める実践書といったところでしょうか。Amazon.comでも売上好調のようですし、この種の本の中では、手にとって損はない一冊だと思います。

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デジカメにもiPodを (2007年3月29日)
「試着室」を工夫する (2006年3月29日)

アキヒト

「アラブの春」や米大統領選挙の例を持ち出すまでもなく、インターネットを中心とした様々な情報技術によって、政治や社会運動の世界は大きく変わろうとしています。その流れに遅れるなとばかり、行政の分野でも「ガバメント2.0」といった旗印のもと、改革の必要性が訴えられているのはご存じの通り。日本でも様々な動きが出ていますが、本場アメリカではどのような状況になっているのか――本書"Citizenville: How to Take the Town Square Digital and Reinvent Government"は、現職のカリフォルニア州副知事であるギャビン・ニューサム氏が、ガバメント2.0の最前線を描いた一冊です。

Citizenville: How to Take the Town Square Digital and Reinvent Government Citizenville: How to Take the Town Square Digital and Reinvent Government
Gavin Newsom Lisa Dickey

Penguin Press HC, The 2013-02-07
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ニューサム氏は1967年生まれの45歳。かつてPlumpJackというワイナリーを経験していましたが、2003年にサンフランシスコ市長に当選し、サンフランシスコ史上最も若い市長となりました。2011年から現在のカリフォルニア州副知事を務めており、若さと経営的な視点、そして政治・行政の現場も知る人物と言えるでしょう。ちなみになかなかのイケメンで、テレビ番組(ギャビン・ニューサム・ショー)のホスト役も務めていたりします。

こうした経歴から、彼は政治からビジネス、エンターテイメントの世界に至るまで幅広い人脈を持ち、本書を執筆するにあたって様々な著名人にインタビューしています。紙面に登場する人々をちょっと挙げてみると、ビル・クリントン元大統領や、ティム・オライリー、そしてジョージ・クルーニー(!)などなど。先ほどのユニークな経歴とあわえせて、まさに本書の内容は、ニューサム氏にしか書けなかったものと言えるでしょう。

実際に、本書で取り上げられている事例は多岐にわたります。おなじみの「ビッグデータ」を始めとした様々なデータ分析やデータ活用、データのオープン化、アプリ開発、ゲーミフィケーション、ソーシャル化、クラウドソーシング、オープンイノベーションなど、最近のネット系サービスの総まとめといった内容です。ただ、単に理想論を唱えて終わりという一冊ではありません。自ら行政の長として、理想を現実にしようとした時に直面した問題や、経営者としての経験から出たアイデアなども盛り込まれており、「ガバメント2.0を現実にするにはどうするか」というアクションの視点も含まれる内容となっています。

実はニューサム氏はディスクレシア(難読症)患者であり、様々な困難に直面してきたことを本書で告白しています。しかしディスクレシア患者として、失敗することが当たり前という人生を送ってきたが故に、「失敗から学ぶ」というアプローチができたとニューサム氏は言います。失敗し、そこから学び、次のアクションにつなげる――このフィードバック・ループを回すこそが大切なのだと訴えているのですが、これは最近のリーン・スタートアップにもつながる考え方でしょう。その意味で本書は、単にガバメント2.0という事象のレポートとしてだけでなく、どうやってIT技術から新しいサービスを生み出してゆくのか?を考えるケーススタディとしても価値のある一冊だと思います。

ちなみにタイトルの"Citizenville"ですが、これはもちろんジンガ社の有名なソーシャルゲーム"FarmVille"にちなんでつけられたもの。FarmVilleのように人々を引きつける力を活用し、市民(Citizen)の参加を促すようなゲーム的アプリを開発してはどうか、というアイデアが本文で語られています。Citizenvilleだなんて不謹慎なように聞こえるかもしれないが、政治が「祭り」として皆が楽しみながら参加した時代もあったのだ、というのがニューサム氏の弁。それが正解かどうかは分かりませんが、これほど柔軟な思考を持ち、ビジネスとITの知識も豊富な若手リーダーが、行政のトップに就いているということに正直羨ましさも覚えたり。実はそんなメタ情報が、本書の伝える「米国におけるガバメント2.0」の最大のポイントだったりするのかもしれません。

【○年前の今日の記事】

アート対データは Google でも問題だった、という話 (2009年3月25日)
これはもう、スペイン語版をみんなで作らないと。 (2008年3月25日)

アキヒト

海外のテック系サイトで話題になっていた"Exploding the Phone: The Untold Story of the Teenagers and Outlaws Who Hacked Ma Bell"を読んでみました。Phone Phreaking、つまり電話(正確に言えば電話システム)をハッキングして無料で通話したり、セキュリティが確保されている回線にアクセスしたりする行為の歴史(特にアナログ電話システムの時代)を追った本なのですが、評判になるのも納得の面白さ。「電話ハッキング?何その古臭い話」とあなどるなかれ。現代におけるハッカーや、テクノロジー全般、そしてアップルに興味のある方などにぜひ読んでみて欲しい一冊です。

Exploding the Phone: The Untold Story of the Teenagers and Outlaws Who Hacked Ma Bell Exploding the Phone: The Untold Story of the Teenagers and Outlaws Who Hacked Ma Bell
Phil Lapsley Steve Wozniak

Grove Pr 2013-02-05
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なぜここでアップルが登場するのか?ジョブズやウォズ(スティーブ・ウォズニアック)に興味があるという方ならご存知だと思いますが、実は彼らはコンピュータの製作を始める前に、「ブルーボックス」と呼ばれる装置の製作を行っていました。このブルーボックスというのが、電話システムをハッキングして、電話をタダがけしてしまうための装置。ウォズが学生時代、たまたま手に取ったエスクァイア誌にブルーボックス(そしてそれを発明し、駆使するハッカーたち)の記事が掲載されていたことで、彼とジョブズは電話ハッキングの世界に没頭。そこから始まった2人の関係が、アップル設立へとつながっていったのでした。

これは大げさでもなんでもなく、ジョブズは実際に「ブルーボックスがなかったらアップルも誕生していなかっただろう」と発言したことがあり、ウォズニアックも本書のまえがきで(そう、本書のまえがきをウォズが書いているのです!)その発言に同意しています。ウォズにとってもブルーボックスを製作し、電話という巨大なシステムを探求することは、非常に貴重な体験だったのだとか。ちなみに彼らが手掛けたブルーボックスは、当然のようにデザイン面でも凝った作りになっていたそうです(笑)。

こんな風に電話ハッキングの世界に魅了されたのは、もちろんウォズやジョブズだけではありません。自分の目の前にあるシステムがどんなものなのか、何ができるのか、そして自分はそれにどんな影響を与えることができるのか。こうした純粋な好奇心や探究心から、多くの「電話ハッカー」が生まれ、特に若者たちを中心に様々なハッキング行為が模索されていったことを本書は解説します。しかしこれも当然のことながら、電話をタダでかけられるというのは電話会社にとっては面白い話ではありません。その意図が何であれ、電話ハッキングは電話会社(特に本書の主な舞台となる1960年代前後に独占企業だったAT&T)にとって絶対に許されないものであり、様々な手段を使ってそれを止めさせようとします。この辺のハックする側とされる側の攻防も、本書の魅力のひとつでしょう。

しかしなぜ、巨大な独占企業がつくり上げた「電話」というシステムを、多くの若者が個人の力で出し抜くことができたのでしょうか。専門的な話も入ってきますので、詳しくは本書をお読み頂きたいのですが、その理由の中には電話以外のテクノロジーについても当てはまるものが数多く登場します。

例えば本書に何度も登場する言葉に「2600ヘルツ」があるのですが、これは電話をかける際にシステムの認証用に使われていたシグナルの周波数で、この音を各種のツール(そのひとつが前述のブルーボックス)で発して通話口から「入力」することで、様々なハッキング行為へとつなげることが可能でした。よく考えてみれば、内部処理用に使われるシグナルをユーザーの音声を載せる回線で流すこと自体がおかしいのですが、この方法は電話システムが長い時間をかけて発展・展開されるなかで、安価な妥協策(内部処理用の回線をもう一本引く必要がない)として使い続けられてきたとのこと。そして電話会社が2600ヘルツを使ったハッキング行為に気づいた時には、それを根本的に防止可能な形へとシステムを入れ替えるには膨大なコストがかかる状態になっていた――というわけです。何らかのシステム開発に携わっている方であれば、この話、他人事とは思えないのではないでしょうか。

またこんな話も登場します。ある技術雑誌に掲載されていた論文(当時の電話システムの構造を解説したもの)を読んで、まったく外部の人物であった若者が脆弱性に気づき、それを利用するハッキング行為を発明したとのこと。論文を書いた技術者自身は、そのような欠点があることにまったく気づかなかったのだとか。さらにはあるハッキング行為を紹介された技術者が、「システム上そんなことは不可能だ」と決めつけ、脆弱性の存在を認めなかったなどという話も。電話というシステムをテーマにしつつも、そこで繰り広げられるハッカーと技術者の関係性からは、普遍的なアドバイスを感じ取ることができると思います。

こうしてアナログ電話システム時代に花開いた電話ハッキングという世界ですが、デジタルシステムの導入によるセキュリティ強化、さらに取り締まりの徹底などによって、次第に下火になってゆくこととなります。しかしその終焉を決定づけたのは、「コンピュータの登場」であると著者のPhil Lapsleyは説きます。AT&Tという巨大権力に挑戦するという義勇心、犯罪に利用してやろうという悪意なども電話ハッキングを後押しした要因でしたが、何よりもその出発点となっていたのは、前述のような純粋な好奇心や探究心でした。そして新たに登場したコンピュータという存在は、そんな心を満たすのに十分な(そして合法的な)世界を提供することになったわけですね。多くの電話ハッカーたちが活躍の場をコンピュータ・ハッキングへと移し、その代表的な存在がウォズとジョブズであることを本書は描いています。

その意味では、電話ハッキングはコンピュータ・ハッキングという世界を生み出し、さらにはアップルのような企業を生み出す原動力となったと言えるでしょう。確かに電話ハッカーたちが行ったのは結果的には非合法な行為だったかもしれないが、彼らの存在は社会から排除されるべきなのだろうか?と本書は問いかけます。好奇心を抱き、探究し、ちょっとした工夫からイノベーションを生み出す。そんなハッカーの姿勢は、様々な場面において価値をもたらしてくれるはずです。そのためには技術と社会、そしてハッカーたちがどのような関係であるべきなのか――電話というアナログな存在を舞台としつつ、より大きなテーマを感じさせてくれる一冊でした。

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アキヒト

というわけで、今週は一週間お休みをいただき、米サンタクララで開催されたイベント「Strata Conference 2013」に参加してきました(自腹で!)。これはオライリー社が主催しているイベントで、「データ」をテーマに、3日間で大小100以上のセッションが開かれるというもの。お馴染みビッグデータやその関連技術、センサーやモバイル技術、ビジュアライゼーションなどといったトピックが議論されていました。

巷では「ビッグデータは死んだ」という声もチラホラ聞かれるようですが、会場には大勢の参加者が集まり、無料のコーヒーや軽食類があっという間になくなってしまうほど(笑)。また2012年の頃よりも、日本人の方々とすれ違うことが多かったように感じます。バズワードとしての賞味期限は確かに切れかけているかもしれませんが、これからが本当の意味でのビッグデータ活用の時代となるのではないでしょうか。

その証拠に、昨年と比べて明らかに耳にすることが増えたキーワードがあります。それは「行動」、あるいは「実行」「アクション」といった表現。そもそもStrata Conferenceからして、今回の副題に"Making Data Work"(データを働かせる/機能させる)という言葉が掲げられているほど。データを集めることでも、分析することでもなく、データから行動を引き出すことがゴール――そんな主張を行う登壇者が数多く見られました。

例えば米Luminary Labs社のシニアアドバイザー、Jen van der Meerさんは、「データはビジネスモデルではない:知識から行動を生むには」と題されたセッションの中でこんな表現をされています:

Action trumps wisdom.

行動は知見に勝る。

シンプルながら、非常に力強い表現ではないでしょうか。データから情報を引き出し、それを知識へと加工できたとしても、結果的に行動へとつながらなければ意味はない。当たり前の話ですが、実はこの最後のステップ、ビッグデータの「ラストワンマイル」とでも呼ぶべき部分が想像以上に難しい――それが実感されるようになってきたからこそ、あえて「行動」という部分にフォーカスする方々が多かったのではないかと考えています。

またアクセンチュアのリサーチフェロー、Jeanne Harrisさんもこんな指摘を行っています:

Lack of trust is the #1 barrier to the widespread adoption and impact of big data.

信頼関係の欠如が、ビッグデータの導入と効果を妨げている第一の壁である。

経営者の立場を理解しない専門家が彼らの前に現れ、データだ統計だ、はたまた最新のIT技術だなどと意味不明な言葉を振りかざしても、両者の間に信頼関係が生まれることはない。その結果、経営者はデータから生まれる知識を信じようとせず、従来通りのカンに基づく意思決定を行ってしまう。そんな例がまだまだ多く見られるとJeanneさんは解説しています。

そんな不幸な状況を変えるためには、忙しい経営者に代わって、専門家たちの方から積極的に歩み寄って行くしかありません。だからこそデータをビジュアル化する、データでストーリーを語るといった直接的には分析とは関係のないテーマについても、ビッグデータの文脈で語られることが多くなっているのでしょう(今回のStrataでも関連セッションが数多く見られました)。喩えるなら強力なエンジンを開発して満足するのではなく、それが搭載されるクルマと、さらにはドライバーのことまでを考えて全体をデザインする。大変な話ですが、現場で関連業務に携わる人々には、そこまでの努力が要求されているのではないでしょうか。

先日『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』という本を翻訳させて頂いたことをお知らせしました。本書の著者であるオグルヴィのデータ・サイエンティスト、ディミトリ・マークスさんも、彼がシスコをクライアントにしていた時の話としてこんな例を紹介しています:

 私たちは情報分析に熱心に取り組んだが、シスコのマーケティング部門にいる他の人々は、その結果に関心を示さないだろうということに気づいた。それはただの数字に過ぎないのだから、興味が湧かないのも当然だろう。従って、いかにデータが優れた判断の助けになるのかをきちんと示す必要がある。そのためにはシンプルな形で示すことが重要だ。データで物語を語らなければならないのである。数字だけでは誰も説得できない。

そしてマーケティング部門の現場担当者たちに、数字に基づいた行動を行ってもらうために様々な工夫を行ったことが語られるのですが、彼は決して「データ分析結果をどう活用しようが私の仕事ではない」という態度は取りません。データを行動に結びつけ、売上増などの結果を残すことが自分の役割であると認識しており、本書の中でもビジュアル化といったテーマまで語られています。

このようなデータ・サイエンティストたちの姿勢は、最近話題となっている論文、「データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない」(トーマス・H・ダベンポート教授ほか、雑誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』2013年2月号掲載)でも次のように指摘されています:

 データ・サイエンティストの最も基本的で普遍的なスキルは、コードを書く能力である。この条件は、五年後に「データ・サイエンティスト」という肩書きを持つ人々が大勢増えてくれば、違うものになるのかもしれない。だが、データ・サイエンティストとは、自分に関わる人すべてが理解できる言葉でコミュニケーションを図り、言葉と視覚、理想的にはその両方を使って、データで物語を語るという特殊なスキルを見せることができる人だ。こうしたデータ・サイエンティストのニーズは、ずっと変わらないだろう。

専門技能という点では、これからますます一人の人間が全てを習得するということは難しくなってゆくでしょう。『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』の中でも、専門家を集めてチームを作るというアプローチが紹介されており、またStrata Conferenceでも「データ・サイエンティスト”グループ”」として要求される能力を発揮してゆく、という取り組みを行った事例が解説されていました。その実現方法はさておき、データ・サイエンティストという役割に「周囲の人々を理解させる」という機能が含まれているという点は注目に値するのではないでしょうか。

行動は知見に勝る。改めてこの言葉を意識し、何が必要かを考えてゆくことで、データ分析の取り組みが「死ぬ」ことはない――そんな感想を抱いた3日間でした。

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アキヒト

お知らせです。広告代理店オグルヴィ・アンド・メイザー・グループのディミトリ・マークス氏(デジタル・ダイレクトマーケティング部門「オグルヴィ・ワン」でマネージング・ディレクターを務める人物)が書かれた『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』が2月28日(木)に発売されます。本書に翻訳者として参加させて頂きましたので、ちょっと告知を。

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本書はマーケティング分析を軸として、ビジネスのあらゆる局面で活用できる「分析力」をオグルヴィのデータ・サイエンティストであるマークス氏が解説する、という内容になります。原題は"Sexy Little Numbers"。適切なアプローチで分析を行えば、手元にある数字=データからでも十分な価値を引き出すことができる――といったニュアンスなのですが、「セクシー」を日本語に置き換えるのが難しく、今回のようなタイトルに落ち着きました。

ビッグデータに対する関心の高まりに象徴されるように、最近「データをどのように分析すれば良いのか」が企業の中で重要なテーマとなっています。関連書籍も数多く出版されていますが、本書がユニークなのは、一般的な業務の流れを追いながら分析の具体例を解説しているという点。誰を顧客としてターゲットにするか、彼らにどのようなメッセージを伝えるか、どこでそのメッセージを伝えるか、予算をいくら費やすか、実行からフィードバックをどのように回すか――といった具合にステップに分けて解説が行われ、マークス氏自身の思考プロセスや、過去の体験談などが紹介されています。

その内容は非常に実践的で、決して現場を無視した理論一辺倒なものではありません。例えば「データが得られない部分には適当な(本来の意味での)数字を置いて分析してみる」といったアドバイスが行われているのですが、厳密に「科学的」な分析を行うのであれば、このようなアプローチは許されないでしょう。しかしビジネスにおいて結果を出すためには、仮置きの数字で分析を回し、徐々に修正してゆくというのは理にかなっています。ところがこの考え方はなかなか受け入れてもらえないものであることを、マークス氏自身が本書の中で語っています。

著者ディミトリ・マークス氏はベルギー出身で、大学では計量経済学を専攻するなど、ユニークなキャリアを歩まれてきた人物。ベルギー人だから、というわけではないのでしょうが、語り口が軽妙で、訳していて思わず笑ってしまうような部分もありました。残念ながら紙面の都合上、表現を簡潔にしてしまった部分もあるのですが、固い内容だけでなくディミトリさんの人柄が伝わるような一冊になっていれば幸いです。

ということで、明後日というかもう明日に近いですが、どうぞよろしくお願い致します!

アキヒト

ちょうど半年前に"Race Against the Machine"という本を紹介したことがありましたが、その邦訳書『機械との競争』がついに出版されました。良書なので改めてご紹介を。

機械との競争 機械との競争
エリク・ブリニョルフソンMITスローンスクール経済学教授) アンドリュー・マカフィー(MITスローンスクール) 村井章子

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本書はもともと、エリク・ブリニョルフソン氏とアンドリュー・マカフィー氏が研究成果を電子書籍としてまとめたもので、紙版は存在していませんでした。しかし2011年に原著が発表されると大きな反響を呼び(FTEconomistといった大手メディアでも取り上げられています)、昨年には紙版も(本書を発行するためだけのDigital Frontier Pressという組織から)出版され、日本では日経BPさんが取り上げたという次第。正直言って、装丁は日本版の方が10倍ぐらい良いです(笑)。

ともあれこの流れからも、本書がいかに注目を集めた一冊なのか分かるでしょう。「テクノロジーが高度に発達したことで、機械が雇用を奪う状況が生まれている」という警告が本書の前半部分になりますから、それも当然かもしれません。第5章「結論」で次のようにまとめられています:

本書では、強力になる一方のテクノロジーが、人間の労働者のスキル、仕事、そして需要にどのような影響をおよぼすかを見てきた。そして、これまで人間にしかできないと考えられて来た領域をコンピュータがハイペースで浸食していると指摘した。たとえば複雑なコミュニケーションや高度なパターン認識を伴う仕事なども、コンピュータに取って代わられつつある。その結果として企業はますます多くの仕事にコンピュータを導入するようになり、したがって労働者の雇用はますます少なくなっている。

原著が書かれてから1年半が経過しようとしていますが、この傾向は加速するばかりです。記者に代わって記事を書くソフトウェア、安価で取り扱いやすい産業用ロボット、そしてグーグルのロボットカーなどなど。ますます多くのタスクが、機械によって肩代わりされようとしています。そのスピードがどこまで速いか、どこまで到達するかの違いだけで、「機械との競争」という状況が生まれていることは疑いようがないでしょう。

かといって、本書は暗い将来を描いているだけではありません。原著を紹介した際も述べた通り、「機械と競争する(Race Against)」のではなく「機械と共に競争する(Race With)」という状況を目指すことで、新たな未来が拓けるだろうという期待も述べられています。

つまり、経済の拡大をもたらした相次ぐ技術革新は、機械を敵に回しての競争ではなく、機械を味方につけた競争から生まれたということである。人間と機械は協力してより多く生産し、より多くの市場を開拓し、より多くのライバルを打ち負かした。

この教訓は、機械が力勝負だけでなく知的勝負でも次第に勝利を収めるようになった今日でも生きており、多くのことを教えてくれる。直接対決をやめ、機械と手を携えて競争を始めたら、事態は興味深い方向に展開していくだろう。

ありがたいことに、機械にも長所と短所があり、人間と補完関係を結ぶことでより優れたアウトプットを生み出すことができます。もちろん機械との「補完関係」がどのようなものであるべきなのか、それこそ人間が頭を捻ってデザインしなければならないわけですが(そこには僅かでも新たな雇用が生まれるでしょう)、答えが見つかれば本書が期待するような未来が到来するはずです。そしてそんなデザインをする際のヒントが本書の第4章・第5章で整理されているのですが、この部分は起業家やビジネスパーソン、教育関係者、政治家といった様々な分野の人々にとって参考になることでしょう。

そういえば先日、こんな記事がありました:

MIT Learns That Robots Work Better When You Treat Them More Like Humans (Fast Company)

奇しくも『機械との競争』の著者たちと同じく、MITの研究者らによる研究成果なのですが、人間と機械との間でもクロストレーニング(同じチームの他のメンバーとタスクを交換してみることで、他のメンバーへの理解を深めるというトレーニング方法)をすることで、両者のコラボレーションの効率が大きく上がることが確認されたという内容です。これはあくまでも肉体を動かすコラボレーション(ロボットと人間が協力してネジをしめるという作業)において確認されたもので、応用できる範囲は限られているかもしれませんが、今後このような「機械と人間の共同作業をどのように効率化するか」というような研究が進められてゆくことでしょう。

「ピンチはチャンス」ではありませんが、物事を正しく認識し、創造性を発揮する人々にとっては、今日の状況は逆にチャンスであると本書は訴えています。マシンが人間の同僚となる時代をどう作り出してゆくか、そんな時代にどう備えてゆけば良いのか、本書は多くのアドバイスを与えてくれる一冊になると思います。

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アキヒト


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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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