シロクマ日報:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS)

シロクマ日報

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

WIRED誌の紹介記事がきっかけで、Robert Neuwirth氏の'Stealth of Nations: The Global Rise of the Informal Economy'を購入。なかなか面白い内容でしたので、ちょっとご紹介を。

お気づきになる方も多いと思いますが、本書のタイトルはアダム・スミスによる経済学の古典『諸国民の富(Wealth of Nations)』のもじり。しかし「ウェルス」ならぬ「ステルス」とはいったい何のことでしょうか?実は副題の「インフォーマル・エコノミー(非公式経済)」が指し示している通り、本書は違法な行商や海賊版販売、密輸といった地下経済を扱った一冊です。著者のRobert Neuwirth氏はナイジェリアの不法居住区などに実際に飛び込んでみることで、こうしたなかなか見ることのできない世界を丹念に追っています。

しかし地下経済とはいっても、本書が扱っているのはマフィアや暴力沙汰、麻薬取引といった事例ではありません。もちろん違法であることには変わりないのですが、主に発展途上国において、一般の人々が生活のために営んでいる非公式な経済活動がテーマとなります。従って「地下経済」というネガティブな響きを持つ言葉は使わず、「見えない(ステルス)経済」という表現がなされており、さらに文中では「システムD」という単語がこうした経済活動を示すものとして使われています。

わざわざシステムDという中立的な言葉を用意していることからも分かるかもしれませんが、本書は隠れた経済活動を否定するものではなく、むしろその重要性に眼を向けようというのが最大の主張となっています。

例えば本書で紹介されているシステムD事例の1つ"Pure Water"。これは0.5リットルの水が入った小さなバッグで、ナイジェリアの様々な都市で行商人によって運ばれ、販売されているものです。まだ公共の水道インフラが未発達な地域の多いアフリカでは、こうした非公式な活動がシステム化され、インフラの代わりを果たしているわけですね。このように「見えない経済」の方が、むしろ実社会のニーズに上手く適応している場合があることが様々な事例によって示されます。

システムDが様々な社会システムを補う役割を果たしているのであれば、それを利用しない手はありません。例えば先程のように、(たとえ非公式な経済活動であったとしても)行商人によってモノが運ばれる仕組みが存在しているのであれば、そこを通じて新たな市場にリーチすることができるわけですね。実際にP&Gでは、顧客の中で最も取引額が多いのはウォルマート(P&Gの売上の15パーセントを占める)であるものの、売上の中で20パーセントを占めているのはHFS(High Frequency Stores:地元民が週に何度も訪れて買い物をするような小規模店舗)であるとのこと。さらにそういった個人商店的な店舗では、人々は非常に小さな単位で買い物をするため、P&Gはそれを考慮に入れたパッケージング・商品開発を行っているそうです。

少し話は逸れますが、「非公式」な社会システムが上手く機能するという話を聞いて、以前読んだこの本を思い出しました:

【書評】『災害ユートピア―なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか』

被災地と途上国という場所の違いはあれど、「公式」なシステムが求められる役割を果たすことができず、現場にいる人々が立ち上げたアドホックな仕組みが代役を果たしたという点では『災害ユートピア』で取り上げられている様々な事例も「システムD」的と言うことができるでしょう。その意味では地下経済、いやステルス経済的な存在は、決して途上国市場を狙うビジネスパーソンだけが気にしていれば良いというものではないのかもしれません。

実際に本書では、途上国の事例に比べて数は少ないものの、先進国に存在するシステムDの事例・歴史上の逸話なども取り上げられています。政府に認められ、数字となって現れる活動だけが社会の全てではないこと。それを正確に掴むためには、現場に飛び出して行く姿勢が必要であること。本書はこの2つを強く実感させてくれる一冊でした。

Stealth of Nations: The Global Rise of the Informal Economy Stealth of Nations: The Global Rise of the Informal Economy
Robert Neuwirth

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【○年前の今日の記事】

「働きたい会社ベスト100」の従業員たちは、自社をどう語っている? (2011年2月7日)
「省エネする方法」もGoogleが答えてくれる日 (2010年2月7日)
「Kindle iPhone アプリ」が現実に? (2009年2月7日)
キジサクへの違和感 (2008年2月7日)
210円万年筆は、万年筆の救世主か? (2007年2月7日)

アキヒト

ジャーナリズムとテクノロジーを組み合わせようという動きが、いま世界各地で盛んに行われています。昨日個人ブログで触れた「没入型ジャーナリズム(Immersive Journalism)」、つまりVR/AR技術を使って事件や社会問題を追体験してもらおうという試みもその1つでしょう。で、今日は英ガーディアン誌から、同じく「没入型」の工夫が施された東京ガイドが発表されています:

Beta adventures in Tokyo (The Guardian)

彼らがオープンした"Tokyo city guide"というページについて。文字通り東京の観光ガイドを目的としたページなのですが、当然ながらただ読むだけのコンテンツではありません。インタラクティブ地図あり、映像あり、果ては「日本文化の1つといえばアーケードゲーム!」ということで、過去の有名ゲームをFlashでプレイできるゲームコーナーまで開設されています。中にはストリートファイターIIも!:

guardian_tokyo_guide 

ガイドを読みながら、その場で東京のゲームセンターに行ってゲームをしている感覚が味わえると。そして最も「没入」させてくれるのが、Condition One社のiPadアプリを通じて提供されている「没入型ビデオ(Immersive Video)」というコンテンツです:

一見普通のビデオのように見えるこのコンテンツ、画面をフリックすることで視点を移動させることができるようになっています。さらに面白いのは、iPad自体を操作することで視点移動させるモードがついていること。ちょうどARの感覚で、渋谷の交差点に立って周囲を見渡しているような気分を体験できるわけですね。

もちろんHMDなどで映像を見せるのとは違いますから、再現できる「没入感」には限界があります。まだまだギミックの世界であり、ユーザーの気を引くスパイスのような存在に過ぎないかもしれません。しかしテレビで遠い外国の様子を生中継することなども、部屋にいながらにして現場にいるかのような感覚を視聴者に味わってもらうための取り組みと言えるでしょう。その意味では、この東京ガイドや没入型ジャーナリズムの取り組みは、いまもジャーナリズムの世界で行われている活動の延長線上にあると考えられるのではないでしょうか。

またテレビの映像は、あくまでも「カメラ」という1つの視点で現実空間を切り取ったものに過ぎません。その意味では、ユーザーが自由に視点を移動させて周囲を見渡すことを可能にする「没入型」のアプローチは、より正確に現実空間を把握すること、あるいはカメラマンが気付かなかった事実にもユーザーが眼を向けるという可能性を高めることにつながるのではないでしょうか。ともあれこうした動きによって、ジャーナリズムの世界に新たな側面が生まれれば面白いですね。

【○年前の今日の記事】

【書評】「またマスゴミかw」で終わらないために―"Mediactive" (2011年2月2日)
Twitter に専門家が増えてきている件 (2008年2月2日)

アキヒト

昨年6月、GoogleがFacebookに対抗するソーシャルサービスとして鳴り物入りで発表した「Google+」。そのGoogle+の設計に中心的な役割で携わりながら、Facebookに転籍して話題になったポール・アダムスという人物がいます。彼はFacebookに移籍後、Google+の目玉機能である「サークル」に通じるタイトルが掲げられた"Social Circles"という書籍を執筆していたこと、その出版がGoogleによって差し止められたことを暴露。こうした騒動の影響もあってか、アダムス氏は2011年11月に米フォーチュン誌から「シリコンバレーで最も求められている人材」の一人に選ばれています。

前置きが長くなりましたが、ポール・アダムス氏が"Social Circles"の後に執筆したのが本書"Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web (Voices That Matter)"になります。ありていに言えば、ソーシャルメディア時代のマーケティングを考えた一冊、と言えるでしょうか。

アダムス氏はネットがソーシャル化しつつある現状をふまえ、メッセージを拡散する上で「人々のつながりはどのような構造になっているのか」を理解することが重要であると指摘。従来のようなインフルエンサー、つまりネット上で影響力のある人物に頼るというアプローチに替わり、「強い絆で結ばれた少人数のグループに注目する」「グループからグループへとメッセージを連鎖させる」という新たなモデルを提唱しています。マルコム・グラッドウェル氏の著作『ティッピング・ポイント』など、インフルエンサーが存在するという考え方は広く支持されているわけですが、本書は様々な研究からインフルエンサーが極めて希な存在であることが明らかになっていると反論。また消費者はブランドの認知から購入に至るまで、ステップを経て進むという「ファネル理論」についても否定的な見解が述べられており、賛否両論を巻き起こす内容となっています。

最近日本では「ステマ(ステルスマーケティング)」が話題となっていますが、ある意味でこれはインフルエンサーの理論を基にしたものと言えるでしょう。宣伝であることを黙って芸能人にブログを書いてもらえば、そこから一気に火が付いて流行が生まれるはず、という寸法ですね。しかし仮にこの方法がうまく行ったとしても(そして倫理的に許されるどうかは問わないとしても)、本書の理論に照らし合わせれば汎用性のあるものではなく、例外的な情報流通経路を利用しているに過ぎません。従って現在行われているようなステマは論理的に問題である以前に、誤った前提に基づいた非効率なアプローチ、ということになります。このような解釈ができるかどうか、本書を読んだ方々と議論してみたいところですが、いずれにしても"Grouped"の内容は新たな視点を提示してくれるものだと感じました。

ただ前書きでも明言されていることですが、本書は入門書として位置付けられていて、あえて簡潔な解説に留められています。本文は図表を含めて150ページ程度しかなく、既にある程度の知識を持っている人には物足りないかもしれません(その代わりに参考文献が充実していて、本書を出発点にしてより深い情報を探ることが可能)。しかし長年ネットに関する研究を行ってきた人物だけあり、その文章は論理的かつ明快で、ページ数以上に密度が濃い本となっています。前述の通りアダムス氏はシリコンバレーでも注目される一人であり、その人物がこれからのネットをどう捉えているのか、またネットがマーケティングをどう変えると考えているのかを知ることができる本書は、多くの関心が寄せられる一冊になるのではないでしょうか。

Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web (Voices That Matter) Grouped: How small groups of friends are the key to influence on the social web (Voices That Matter)
Paul Adams

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【○年前の今日の記事】

エジプトの反政府デモと、リアルタイム時代のリテラシー (2011年1月29日)
書評『ヤバい社会学』 (2009年1月29日)
SEOする新聞記者 (2008年1月29日)
情熱的な議事録 (2007年1月29日)

アキヒト

早川書房さんから、今月出たばかりの本『クール革命―貧困・教育・独裁を解決する「ソーシャル・キュア」』をいただいてしまいました。ありがとうございます。ということで、いつものように簡単な紹介と書評を。

「郷に入っては郷に従え」という諺もあるように、人間は自分が所属するグループの規範に合わせて行動する生き物です。一見すると社会的ルールに反旗を翻しているように見える不良少年(古い表現でスミマセン)も、所属する不良グループのルールに盲従している……などという皮肉な状況もあったりするわけで、グループの影響力というのはなかなかあなどれません。しかもそれは無意識のレベルにまで達しており、例えば以前ネットでも話題になりましたが、「肥満は伝染する」といった研究結果も出ています。人は知らず知らずのうちに、周囲にいる人々の基準に行動を合わせてしまうわけですね。

本書はこうしたピア・プレッシャー、すなわち「仲間からの圧力」がいかに強力な要素であり、それが善にも悪にも使われることを解説。その上で、ピア・プレッシャーを活用して社会をより良い方向へと導く「ソーシャル・キュア」という概念を提唱しています(ちなみに本書の原題は"Join the Club: How Peer Pressure Can Transform the World")。

例えば米フロリダ州で行われた、トゥルース(文字通り「真実」の意)という広告キャンペーンと、SWAT(たばこに反対する学生たち)という学生活動。文字通り若者の間で禁煙を広めようというものですが、従来の禁煙活動というと、「たばこを吸うと健康が阻害されます」的な悪影響をアピールするものでしょう。しかしトゥルースとSWATの場合、こうした上から目線の健康アピールは一切行わず、「消費者を操るたばこ業界に反抗することこそクール」というイメージを打ち出し、それを若者グループの規範として定着させるという戦略を取りました。この活動はフロリダから米国各地へと広がり、ちょうどその期間に全米でのティーンエージャーの喫煙率は45パーセント低下したとのこと。

実は……などと大げさに言わずとも明白なことですが、「喫煙者はたばこの害について十分理解しており、特に若者の場合には一種のスタイルとして喫煙を続けている」という状況があるわけですね。従っていくらたばこの害を若者に訴えても効果はなく、逆に「そんな訴えも無視して反抗するオレってカッコイイ」という反応まで引き出してしまうと。この逆効果は面白いポイントで、本書では他にも「補習をすることが逆に学力低下を招く」、つまり補習というグループを形成してしまうことで「他にも勉強ができない人がたくさんいるんだ、そして自分はその一員なんだ」という意識を植え付けてしまい、それが一種のピア・プレッシャーになって学習行動を阻害するなどといった可能性が指摘されています。

一方でトゥルースとSWATではそのようなミスを犯すことなく、逆に「たばこ業界に反抗する」ことをピア・プレッシャーに置き換えることに成功。若者の行動を劇的に変化させたことが語られます。他にも米国でマイノリティの学力を向上させることに成功した「エマージング・スカラーズ」、セルビアで独裁者ミロシェヴィッチの打倒に貢献した「オトポール」など、幅広い分野から事例が集められています。一方でソーシャル・キュアの限界も考察されており、実際にこのテクニックを活用してみる上でも参考になる一冊と言えるでしょう。

実際、ソーシャルメディアの時代になって、こうしたピア・プレッシャーを行使し得る場面が増えていると考えられます。自分に近い人々の行動が可視化され、そこから影響を受けて自分自身も行動するという観点で言えば、TwitterやFacebook上で日々繰り広げられている状況がほとんど当てはまるとも言えるでしょう。それを否定するにせよ、肯定するにせよ、あるいは「ステマ」のように悪用しようとするにせよ(念のために言いますがダメですよ)、本書が解説するソーシャル・キュアの世界を見ておくことは重要なのではないでしょうか。

ともあれ、本書で描かれる「革命」の可能性は非常に魅力的です。必要なコストが比較的少ないというのもメリットですし、様々な問題で閉塞感が蔓延しているいま、少しソーシャル・キュアを試してみるというのも良いかもしれません。

クール革命―貧困・教育・独裁を解決する「ソーシャル・キュア」 クール革命―貧困・教育・独裁を解決する「ソーシャル・キュア」
ティナ・ローゼンバーグ Tina Rosenberg 小坂 恵理

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余談ですが、本書の邦題は『ソーシャル・キュア』にしてしまっても良かったような……『クール革命』だと、似たタイトルの本もありますし、ついエンターテイメント産業系の話かなと感じてしまうんですよね。しかし「ソーシャル」も手垢のついた言葉になっていますし、苦肉の策だったのかなぁと余計なことを考えてしまった次第。ともあれタイトルはいったん脇に置いて、ぜひ手に取ってみて下さい。

【○年前の今日の記事】

公共財としてのFacebook (2011年1月25日)
IKEA が家具販売をやめる日 (2008年1月25日)
Babson College (2007年1月25日)

アキヒト

ネットであらゆる情報が公開され、人と情報とが文字通りネットワークを形成する時代。その中で「知識」という存在はどのように変化してゆくのか――と書くと、先日ご紹介したデビッド・ワインバーガー氏の新刊"Too Big to Know"を彷彿とさせるかもしれません。しかし今回ご紹介するのは"Reinventing Discovery: The New Era of Networked Science"という本で、タイミング良く同じテーマが論じられているもの。ただタイトルからも分かるように、"Reinventing Discovery"は科学における取り組みを中心に考察した一冊です。

著者のミカエル・ニールセン氏は量子コンピュータの研究者で、『量子コンピュータと量子通信』という本なども書かれている方。研究成果や研究に使用したデータを積極的に共有し、また幅広い人々の参加を促すことで科学を発展させようというアプローチ「オープン・サイエンス」を提唱されています。本書でも様々なオープン・サイエンスの事例が紹介されており、こうした事例を読むだけでも参考になるでしょう。

例えば本書で度々取り上げられる"Galaxy Zoo"の例。直訳すれば「銀河の動物園」になりますが、実はハッブル宇宙望遠鏡で撮影された様々な銀河系の写真をオンラインで公開、その分類をボランティアで参加するユーザーにお願いしてしまおうというプロジェクトです。2007年にサイトが開設され、わずか1年で約5千万件の銀河の分類を達成、これまでに25万人以上のボランティアが参加しています。要はクラウドソーシング型の試みなのですが、面白いのは銀河系の分類に貢献しただけでなく、研究者でも気付いていなかった新事実を発見したという点。例えばこんな「グリーンピース銀河」もその一つ:

新タイプ“グリーンピース”銀河を発見 (ナショナルジオグラフィック)

天の川銀河の10倍の速度で星を生み出す新しいタイプの天体が見つかった。名付けて「グリーンピース銀河(Green Peas galaxy)」。インターネット上で銀河の画像を分類するボランティア参加型プロジェクト「Galaxy Zoo」が、今回の珍しい銀河の発見につながったという。

また最近ネットで「ゲーマーが科学者に勝利した!」として話題になった"Foldit"も本書で紹介されている事例です:

難問のタンパク質構造をゲーマーが解析 (Wired)

タンパク質の3次元的な分子構造を明らかにするオンライン・ゲーム『Foldit』で、科学者たちが10年間にわたって解けなかった難問を、ゲーマーたちが10日以内に解くという快挙があった。

前回ご紹介した"Too Big to Know"でも指摘されていた点ですが、データや情報に誰でもアクセスが可能で、またそこから得られた知見や分析結果もシェアされる状況下では、「知識」はアインシュタインのような天才の頭の中だけに収められているものではありません。もちろんそのような天才の重要性を否定するものではありませんが、僕らのような一般人がGalaxy Zooのようなプロジェクトに参加し、できる範囲での貢献を行うことも、科学の進歩にとって非常に重要なものになっていることを本書は指摘します。そしてそれは科学の分野に限った話ではなく、同じ「オープン」の言葉が使われている「オープン・ガバメント」の取り組みや、ジャーナリズムの世界、あるいは社会貢献といった分野でも同様でしょう。

ニールセン氏は本書を執筆した理由を、このように解説しています:

I wrote this book with the goal of lighting an almighty fire under the scientific community. We’re at a unique moment in history: for the first time we have an open-ended ability to build powerful new tools for thought. We have an opportunity to change the way knowledge is constructed.

私がこの本を書いた目的は、科学界を照らす強力な光を灯すためである。私たちは歴史上、重要な場面に立ち会っている。人々は史上初めて、知識を生む新たな道具をつくり出す無限の力を得たのである。私たちは知識の構造を変えるチャンスを手にしているのだ。

新たな「知識」の姿がどのような構造であり、それがどれほど強力なものなのか、本書はその一端を示してくれています。時にネットがもたらす変化は「人間はバカになった」という印象を抱かせるものですが、一方で科学者が発見できなかった知識をも見出す原動力になっていることを、私たちは認識する必要があるのではないでしょうか。

Reinventing Discovery: The New Era of Networked Science Reinventing Discovery: The New Era of Networked Science
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【○年前の今日の記事】

いま見てるテレビ、つぶやきますか? (2011年1月22日)
Twitter の Dunbar's Number (2008年1月22日)
ビジュアル・デザインとソーシャル・デザイン (2007年1月22日)

アキヒト

インドではいま、国民一人ひとりに対して生体情報をベースにした固有ID(Unique Identity, UID)を発行するプロジェクト"AADHAAR"が進められています。その状況と未来像についてまとめた記事が、Economist誌のサイトで公開されていました:

The magic number (The Economist)

目の虹彩や指紋などを情報端末で収集、データベース化するという、先進国でも希なプロジェクト。実際に生体情報を採取している写真が関連記事に掲載されているのですが、これを全国民に対して実施しようというのはなかなか野心的です。しかし先進的とはいえ、なぜここまでの手間をかけてUIDを付与しようというのか――ちょうど先月、日経ビジネスオンラインでも同プロジェクトについて解説した記事がありましたので、以下に引用しておきましょう:

共通番号、万能ではない (日経ビジネスオンライン)

インド政府は国民の名前、住所、性別、誕生日に加え、顔写真、目の虹彩、手の10指の指紋といった生体情報の収集・管理を進めている。通称「AADHAAR(アドハー、英語のFoundationやBaseの意味)」と呼ばれるプロジェクトで、2010年秋から始まり、既に7000万人が生体情報を登録してIDカードを取得しているという。政府は2015年内にも、6億人にIDカードを付与する計画だ。

「アドハーは規模が大きく、技術的にも先進的な公共プロジェクトとして世界中から注目を集めています」。アクセンチュアで公共サービス・医療健康本部の責任者を務める後藤浩エグゼクティブ・パートナーは指摘する。アドハーの狙いについて後藤氏は、「インドには戸籍システムがないため、銀行口座を開設したり、携帯電話を契約したりすることができない人がいます。社会保障を受けられない人も少なくない。本人確認のための信頼できる個人認証インフラを整備すれば、こうした問題を解決できる。その結果、これまで経済活動に参加できなかった大量の人々が市場に現れ、インドのさらなる経済発展につながると期待されているわけです」と説明する。

この点はEconomist誌の記事でも解説されているのですが、現実には存在していながら公的組織からは「見えない」、すなわち正確な情報として把握し切れていない住民がインドには多数存在するとのこと。そのために生活保護の不正受給なども発生しており、経済活動に参加できないばかりか、無駄な支出の原因となるという政府にとってマイナス状態が続いていたわけですね。

しかし虹彩や指紋という、個人の体と結びついたUIDが発行されれば、これまで「幽霊」だった人々が資源として生まれ変わります。Economist誌の記事では、より具体的な話としてこんな例が:

Companies—and their customers—stand to gain from the system too. Mr Nilekani talks of India stealing a march on other countries if firms have an easy, secure way of identifying their customers. Banks will be more likely to lend money to people they can trace. Mobile-phone firms will extend credit. Insurers will offer lower rates, because they will know more about the person they are covering. Medical records will become portable, as will school records. Ordinary Indians will find it easier to buy and sell things online, as ordinary Chinese already do. Just as America’s Global Positioning System, designed for aiming missiles, is now used by everyone for civilian navigation and online maps, so might UID become the infrastructure for India’s commercial services.

企業やその顧客も、IDシステムからの恩恵を受ける立場にある。Nilekani氏(※AADHAARプロジェクトの推進者、Nandan Nilekani)は、顧客を容易かつ安全に識別する方法を企業に提供できれば、インドは他の国々を追い抜くことができるだろうと語る。顧客の追跡が可能になれば、銀行はもっとお金を貸すようになるだろう。携帯電話会社も限度額を引き上げるはずだ。保険会社は顧客についてより深く把握できるようになるため、保険料率を下げるだろう。医療記録や成績記録も扱いやすいものになる。インド国民は(既に中国国民が行っているように)オンラインで売り買いするのが楽になるだろう。米国のGPSがミサイルシステムのために設計されながら、いまや民間のナビゲーションシステムやオンライン地図に利用されているように、UIDもインドの商業サービスを支えるインフラになるかもしれない。

実際にJharkhandという地域で始まったパイロットプロジェクトでは、UIDが銀行口座に紐付けられ、政府から何らかの支払いがある場合には、その口座に対して電子振込が行われるとのこと。こうした個人単位での電子的な取引が容易になれば、ネットを通じて世界経済と繋がることも可能になるはずです。クラウドソーシングという言葉が現実の取り組みとして行われるようになっている現在では、このことは大きな意味を持つことでしょう。

一方で当然の話ではありますが、プライバシーの侵害など、個人情報をどう保護するかといった観点からプロジェクトに反対の立場を取る関係者もいるとのこと。この問題は決して小さい話ではなく、技術的・制度的対応を十分に進めておかなければ、UIDを拒否するという動きにつながりかねないでしょう。しかし前述のような「幽霊」国民の存在と、UIDがもたらすメリットを考えれば、この先進的なプロジェクトをいち早く進めるというインド政府の決断も理解出来るのではないでしょうか。

国民の力を、経済力に変えるということ。日本でも様々な取り組みが行われていますが、人々と経済を結びつけるという発想に立てば、「IDを与える」という(一見)些細な対応でも十分に効果があることを発見できるのかもしれません。

【○年前の今日の記事】

Facebookでは、1日1,000人以上が亡くなっている (2011年1月20日)
iPhoneが家庭用エネルギー管理市場のスターになる日 (2010年1月20日)
YouTube が(検索サービスとして)Google を超える日 (2009年1月20日)

アキヒト

ソーシャルネットワークは「エコーチェンバー(共鳴室)」になる、つまり異質な人々と交流するというよりも、同質な人々と交流し、一定の思考回路を強化する役割を果たしてしまうのではないか?という懸念が強く主張されてきました。実際に震災後の日本を見ていると、様々な社会的イシューにおいて、この状況が顕著に見られるように感じます。では実際のところはどうなのか――Facebookから、同社のソーシャルネットワークを基にした興味深い研究結果が発表されています:

Rethinking Information Diversity in Networks (Facebook)

Some claim that social networks act like echo chambers in which people only consume and share information from likeminded close friends, stifling the spread of diverse information. Our study paints a different picture of the world.

Instead, we found that even though people are more likely to consume and share information that comes from close contacts that they interact with frequently (like discussing a photo from last night’s party), the vast majority of information comes from contacts that they interact with infrequently.  These distant contacts are also more likely to share novel information, demonstrating that social networks can act as a powerful medium for sharing new ideas, highlighting new products and discussing current events.

ソーシャルネットワークは「エコーチェンバー」として機能する、つまり同じような思想を持つ身近な友人としか情報を共有しなくなり、幅広い情報の流通が妨げられるようになるという主張がある。しかし私たちの研究結果は、それとは異なる世界があることを示している。

研究の結果、人々は頻繁に交流する(前日のパーティーの写真で語り合うなど)身近な存在とより情報を共有する傾向があるものの、情報の大部分はそれほど頻繁に交流しない人々からもたらされることが確認された。そうした弱い絆からもたらされるのは新しい情報であることが多く、ソーシャルメディアが新しいアイデアを共有したり、新しい製品に注意を向けたり、現在進行形の出来事について語り合うための強力なツールとなり得ることが示された。

とのこと。具体的な調査内容については本文を確認して頂きたいのですが、以下にポイントとなる部分を引用しておきたいと思います:

Let's consider a hypothetical example (illustrated in Figure 5). Let's say a person has 100 contacts that are weak tie friends, and 10 that are strong tie friends.  Suppose the chance that you'll share something is very high for strong tie friends, say 50%, but the weak tie friends tend to share less interesting stuff, so the likelihood of sharing is only 15%. Therefore the amount of information spread due to strong and weak ties would be 100*0.15 = 15, and 10*0.50 = 5 respectively, so in total, people would end up sharing more from their weak tie friends.

It turns out that the mathematics of information spread on Facebook is quite similar to our hypothetical example: the majority of people’s contacts are weak tie friends, and if we carry out this same computation using the empirical distribution of tie strengths and their corresponding probabilities, we find that weak ties generate the majority of information spread.

次のような状況を仮定してみよう。ある人物が100人の友人と「弱い絆」で、10人の友人と「強い絆」で繋がっているとする。「強い絆」の人々は興味深い情報を50%の確率でシェアし、「弱い絆」の人々はそれほど関心を惹かれない情報を15%の確率でシェアする。従って流通する情報量は、「強い絆」からの分が100×0.15で15、「弱い絆」からの分が100×0.5で50となる。トータルで見ると、人々は「弱い絆」の方からより多くの情報を得ていることになる。

研究の結果、Facebookにおける情報流通の計算式は、上記の仮説と非常に近いことが明らかになった。友人登録している人々の大部分とは「弱い絆」で結ばれており、実証された「強い絆」の分布状況と情報共有の確率に基づいて計算すると、「弱い絆」が情報拡散の大部分を生み出していることが確認されたのである。

ということで、文字通り「弱い絆」は関係性の薄い人々ではあるものの、その数の多さ、自分との異質性、そしてソーシャルネットワークサービスが彼らとの絆を維持しておくことを容易化したことで、彼らを経由して大量の新たな情報がもたらされるという状況が実現していると。少なくともFacebookというプラットフォーム上ではそのような状況であり、従ってエコーチェンバー論は当てはまらない、という結論になっています。

もちろんこの結論が万人に当てはまるという訳ではありません。本当にごく親しい友人としか友人登録していないよという方も多いでしょうし、自分とは異質の情報については、シェアされても気にしない・目にしても無視するという可能性については考慮されていません。しかしそれでも、「弱い絆」が持つ情報流通上の役割について光を当てたという点で、考慮に値する研究結果ではないでしょうか。

さらに言えば、ソーシャルメディア上で「弱い絆」を維持しておくことの意味というのも変化してゆくのかもしれません。もちろんスパム的に友だちを5,000人まで増やせ!という意味ではなく、適度に疎遠な人々、あるいは異質な人々との情報経路をソーシャルメディアで構築することで、思考回路の動脈硬化を防ぐといったところです。もちろんそれを本当の意味で有意義なものにするためには、上で指摘したような「共有されたけど受け入れない」という意識を意識的に排除して、新しい情報に対して心理的にオープンになっておくことが欠かせませんが。

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【○年前の今日の記事】

リアルタイム時代に潜む「即座に理解したい」という罠 (2011年1月18日)
ネットにシフトするCNN (2009年1月18日)
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【書評】ゲームシナリオの書き方 (2007年1月18日)

アキヒト

今年は米大統領選挙の年ということで、徐々に各種メディアでの扱いが大きくなりつつありますが、意外なキーワードと結びついた記事がBBCのサイトに:

Can online gaming influence a US presidential election? (BBC)

同じく最近話題となっているテーマの1つ「ゲーミフィケーション」を、選挙に応用するという発想について。ゲーミフィケーションとは、「ゲームで用いられる手法を他の分野に応用することで、ユーザーの関心やモチベーションを高めるという発想」といった具合にまとめることができるでしょうか。実際にはこういった流行り言葉の常として、定義が曖昧な状態になっているのですが、ともあれゲームの手法を選挙に取り入れることで、応援する候補の選挙活動を支援するという取り組みが解説されています。

"What's happened over the last few years is that politicians, political parties, non-profits, and lobbyists have realised that games can be used to influence voter behaviour," says Gabriel Zichermann, the CEO of Gamification Co.

「ここ数年、政治家や政党、非営利団体やロビイストなどが、ゲームを使って投票者の行動に影響を及ぼすことができると気付き始めています。」Gamification Co.のCEO、Gabriel Zichermannはこのように語っている。

とのことで、既に一定の支持を得ているようですが、実際にはどんなことが行われているのでしょうか。記事ではこんな事例が挙げられています:

Digital advertising firm Engage is currently experimenting with online gamification for some of their political clients. They were part of the team that developed the "I Voted" badge on FourSquare, designed to increase awareness of election day and encourage voter turnout.

They also offer a social media platform, called Multiply, that integrates gamification techniques into a candidates' website. Visitors to the website of House Speaker John Boehner, for instance, can earn badges for checking in from the speaker's home state of Ohio, or by linking the page to their Facebook account.

"The user gets instant gratification, a sense of involvement and participation and gratitude," says Patrick Ruffini, the president of Engage. "The campaign gets data."

That data helps the candidate better organise and target potential voters, donors and volunteers.

デジタル広告を扱うEngage社ではいま、政治家からの依頼を受け、オンライン上でのゲーミフィケーション活用の取り組みを行っている。フォースクエアで"I Voted"(投票したよ)バッジを開発するなど、投票日が近いことを認識させ、投票率を上げようという計画だ。

他にもMultiplyというソーシャルメディア・プラットフォームも活用している。これはゲーミフィケーションの手法を、候補者のウェブサイトに応用しようというものだ。例えば下院議長ジョン・ベイナーのウェブサイトでは、同氏の地元であるオハイオ州にチェックインしたり、Facebookページ上でリンクしたりすることで、バッジを手に入れることができる。

これについて、Engage社社長のPatrick Ruffiniは次のように語っている。「ユーザーは即座に満足感を得ることができる。何かに参加して、その一員となって嬉しいという感覚だ。そしてキャンペーン実施者の側はというと、データを手にすることができる。」

このデータを活用することで、候補者は選挙活動を改善し、潜在的な投票者や寄付者、ボランティアなどにターゲットを合わせることができるのである。

ということで、ウェブサービス上のアイテム程度で行動を促されるかよ!と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、的確にデザインされたアイテム付与がいかに効果的なテクニックとなるかは、現在のソーシャルゲームの流行を見れば一目瞭然でしょう(これでジョン・ベイナー下院議長が次の選挙でも勝つかどうかはまた別の話ですが)。また単に有権者の関心を引くだけでなく、以前このブログでも述べたような「顧客の行動を把握する」という価値を得るためにもゲーミフィケーションが活用されているようです。

もちろん選挙は匿名で行われるものであり、そもそも第三者によって運営されるものですから、それ自体をゲーミフィケーションで味付けすることはできません。しかし上記のように、ある場所やイベント(演説会などがすぐ頭に浮かぶでしょう)に人々を動員するためにゲーミフィケーションを活用し、盛り上がり感を演出したり、寄付金額や寄付回数でユーザーをランキングしてお互いを競わせたり、といった間接的な位置付けならいくらでも可能です。どのようなパートでどのように応用するのが効果的なのか、海の向こうで無数の実験が繰り返されている状況なのでしょう。

言うまでもなく日本では、候補者による選挙期間中のネット活用(選挙活動に関連するもの)はグレーゾーンにあるため、ネットと選挙の関係についてはあまり取り組みが進んでいません。しかしゲーミフィケーションは直接的な情報発信とはまた異なる存在ですから、同じようにグレーゾーンではありつつも、日本でも応用が進む可能性はあるのではないでしょうか。ソーシャルゲームの流行と関連企業の増加は日本でも起きているわけですし、例えばSAPが政治家や政党と手を組んで……なんて未来もあり得るのかも?

ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える
井上 明人

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アキヒト

デビッド・ワインバーガー氏の新刊"Too Big to Know: Rethinking Knowledge Now That the Facts Aren't the Facts, Experts Are Everywhere, and the Smartest Person in the Room Is the Room"が発売されました。ワインバーガー氏は以前の著作(日本では『インターネットはいかに知の秩序を変えるか?』などの邦訳がありますね)から好きだったので、今回も期待していたのですが、期待通り非常に刺激される一冊でした。

何か分からないことがあれば、サッと検索して情報を得る。得た情報をブログに書いたり、ツイートしたりしてシェアする。シェアされた情報が新たな情報と結びつき、思いもつかなかったようなアイデアが生まれる……このような例を引き合いに出すまでもなく、ネット時代には情報や知識というもののあり方が変わってきていることは明らかでしょう。その変化を受け入れ、試験中にインターネットへのアクセスを許可する大学が現れたり、あるいは逆に『ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること』のような警鐘を鳴らす本が登場したりと反応は様々ですが、何らかの変化が起きているのは確実です。本書は過去における「知識」のあり方を振り返るとともに、新たに生まれてきた「知識」を求める様々な事例を通じて、変化の全体像を捉えようとしています。

本書を通じて繰り返し登場するのが、以下のような表現です:

  • 知識は個人の頭の中や、一冊の書物の中にあるのではなく、ネットワークの中に存在する。
  • かつて書物が知識の構造を規定したように、いまはネットワークの構造が知識の構造を規定する。

例えば紙の本を考えたとき、かつてそれは知識の拠り所となるものでした。有名な学者が書いた、有名な出版社から発売されている本であれば、そこに書かれていることは「知識」であるとして何の疑いもなく頼ることができます。しかし現在のネット、例えばブログの場合はどうでしょうか。仮に出版物と同じ内容が掲載されていたとしても、それを書くために使用した資料へとリンクが貼られていれば、リンク先に飛んで書かれている内容が本当かどうかその場で検証することができます。あるいはもっと一般的な現象として、記事に対するコメント、あるいはトラックバックやブックマークコメントといった形で、内容に対する意見が表明されます。最初に記事を読んだ時には納得したのに、その後で各種コメント類を読んでみたら、とたんに内容に対する疑いが湧いてきた……という経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。つまり知識は一冊の本の中で完結するものではなくなり、いまやネットワークで結ばれた情報の集合体が「知識」と呼べるような存在になったのだ、とワインバーガー氏は主張します。

従って、かつて書物という存在が「編集者によって内容が吟味され、そのフィルターを通過したもののみが世の中に登場し、出版された時点で完結する」というプロセスを通じて知識のあり方を規定していたように、ネットワークが持つ「誰でも・何でも書き込むことができ、誰に対してもオープンで、決して完結しない」という性質が、新たな知識のあり方を規定することになります。それは善し悪しの問題というよりも、ピラミッド型なのかネットワーク型なのかというトポロジーの問題であり、それをどう活用してゆくのかが本書後半のテーマとなって行きます。

本書の最終章では、こんな印象的なストーリーが描かれています:

The next Darwin is likely to do her work in public, which is to say, on the connected Net. Rather than waiting to publish final results, she will post early results and perhaps a speculative hypothesis. As word gets out, a web of links will grow around her. Some nodes will turn into hubs, at least for a day or a month. There is no predicting whether the owners of those hubs will be professionals or amateurs, scientists or businesspeople, scholars or wags. We can predict, however, that many of the nodes and the threads that connect them will disagree, will agree, will get it wrong, will be childish and egoistic, will be a waste of the digital silk that links them. Nevertheless, we will now see how the idea spreads and the effect it has as the competent and the crazy take it up, make it their own, and pass it on.

次世代のダーウィンは、自らの研究成果を誰からもアクセス可能な環境、つまりインターネット上に置くようになるはずだ。研究結果を最終化するまで公開を控えるのではなく、初期の結果や仮説なども公開することだろう。話題になるに従って、彼女の周囲には無数のリンクが形成される。そして数日から1ヶ月程度で、ノードのいくつかがハブとなるはずだ。そのハブがプロの研究者なのか、それともアマチュアなのか、もしくは科学者なのかビジネスパーソンなのか、学者なのか素人なのかは分からない。ノードやスレッドの多くは「ダーウィン」が表明した意見に賛成したり反対したり、誤解したり、子供っぽい反応や利己的な反応を見せたり、せっかくのネットワークを無駄にしてしまうような行動を見せたりすることだろう。しかしいまやアイデアを広く拡散させることができ、優秀な人からクレイジーな人まで多くの人々がそれに触れ、自分自身のものとし、そしてまた別の人へと伝えて行くという流れを目にすることができるのである。

自分自身、本書の内容について十分に咀嚼できているとは思いません。幅広い議論の出発点になり得る本だと思いますので、機会があれば、ぜひ手に取ってみて欲しい一冊です。

Too Big to Know: Rethinking Knowledge Now That the Facts Aren't the Facts, Experts Are Everywhere, and the Smartest Person in the Room Is the Room Too Big to Know: Rethinking Knowledge Now That the Facts Aren't the Facts, Experts Are Everywhere, and the Smartest Person in the Room Is the Room
David Weinberger

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アキヒト

というわけで、相変わらずCES見学のためラスベガス滞在中です。リーマンショック直後は縮小傾向にあったというCESですが、最近は出展企業が増加しているとのことで、会場を歩くだけでも一苦労。お目当てのブースが見つからずにあちこちウロウロ……なんてハメに陥っています(笑)

さて、今回はレノボさんのお招きで来ているのですが、そのおかげでレノボさんが新たに発表した製品たちをじっくりと触らせていただいています。中でも個人的に気に入ったのが、IdeaPad YOGA。既に様々なメディアで報じられていますが、Ultrabookとタブレットが一体になったような端末です:

「IdeaPad YOGA」の形を“グリッ”と変える (ITmedia)

レノボのCMO、David Romanさんも「今回出品している中ではUltrabook類がお気に入り」と話していたことは昨日お伝えした通りですが、CES全体でもUltrabookは注目テーマの1つとなっています。インテルの担当者さんによれば、メジャーなメーカーだけでも8社がUltrabookを手がけており、その多くがCESに合わせて関連製品を出展しているとのこと。Mashableの調査結果でも、Twitter上でのCES関連頻出キーワードとして、Ultrabookが第2位にランクインしています。

で、これも昨日書いた通り、Davidさんは「Ultrabookの差別化はこのカテゴリーが定着してからになるのではないか」との見通しをされていましたが、一方でこの"YOGA"は現時点でも十分に差別化されていると言えるでしょう。なにしろ「ヨガ」の名前そのままに、ディスプレイ部分を360度回転させてタブレットのように使うことができるのですから:


説明して下さる担当者の方もどことなくドヤ顔です(笑)


スゴイでしょ?

Windows8搭載で、もちろんタッチしての操作も可能。バッテリー駆動時間は8時間とのこと。ITmediaさんの記事にもあった通り、重量は1.49キロでやや重め。個人的には十分許容範囲でしたが、同行していた他のブロガーさん(女性)曰く「私にはちょっと重い」とのことでした。

でタブレットのようにして使うとなると、時には表面がむき出しのままで、キーボード面を机や台に設置することになります:

当然ながらこうなるとキーボード面の強度が心配になりますが、担当者の方の説明によれば、特殊な加工をして十分な強度を保っているとのこと。また滑りにくい素材を使用しており、滑らせて床に激突、というリスクも減らすようにしているそうです:


確かにザラザラしています。

もちろんどこまで丈夫かは実際に使ってみないと分かりませんが、耐久性という点ではThinkPadシリーズを手がけてきた実績があるわけですし、十分期待できるのではないでしょうか。

もう1つ面白かったのは、ディスプレイを360度回転させられるということで、様々な設置方法が可能という点。例えば途中で回転を止め、フォトスタンドのようにして使用したり、あるいは「ハ」の字型にして置いてみたりといったことが可能:


ウチのクマが見てるのはキーボード面ですが……

例えば商談等で机の上にベタッと置いて資料を見せるのではなく、このように立てかけて見てもらう、といった使い方が可能かもしれません。残念ながら会場にあったのはまだ試作品とのことで(なにしろ直前まで会場にあったのは記者会見時のデモ用の1台だけ)、重力センサーで上下を感知して画面をローテーションさせることはできなかったのですが、当然ながら実際に出荷されるバージョンではこの機能に対応するとのことでした。

操作感としては、タブレットモードに関しては十分。最大10点のマルチタッチも可能で、サクサクと動いてくれました。ただキーボードはかなりフラットになっているので、とにかく文章を書くぞという時には若干違和感があるかもしれません。これは個人的な好みが大きい部分ですので、一概に善し悪しを判断することはできないのですが。

最後にオマケで、英語ですが担当者の方による解説の様子を:

もう一つ残念ながら、"YOGA"の日本での発売は現時点では未定とのこと。ただグローバルに展開する予定の製品とのことですから、日本にやってくる日もそう遠くないと信じたいと思います。というより触っているうちに、すっかり1台欲しくなってしまった自分がいます(笑)

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アキヒト


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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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