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【書評】「機械仕掛けの水晶玉」予測分析の可能性を探る"Predictive Analytics"

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プレディクティブ・アナリティクス(Predictive Analytics)。日本語では「予測分析」などと訳されている言葉で、文字通りこれから起きることを予測するための技術です。ご想像の通り、流行りのビッグデータなどにも関係している分野なのですが、「何をするのか」が明確なだけビッグデータよりも分かりやすい概念かもしれません。あるいはビッグデータに続くバズワードになるかもしれない――ということで、その予測技術をテーマにした一冊が、最近発売された"Predictive Analytics: The Power to Predict Who Will Click, Buy, Lie, or Die"です。

Predictive Analytics: The Power to Predict Who Will Click, Buy, Lie, or Die Predictive Analytics: The Power to Predict Who Will Click, Buy, Lie, or Die
Eric Siegel Thomas H. Davenport

Wiley 2013-02-07
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表紙に描かれているのは「機械仕掛けの水晶玉」。未来を見通すということで、まるで占い師の水晶玉のような存在である予測技術について、その裏側にある機械の仕掛けを解説してくれています。

著者のエリック・シーゲル氏は、予測分析に関するカンファレンスなどを主催されている方。ということで若干この分野の宣伝めいた内容にもなっているのですが、手放しで肯定しているだけの本ではありません。彼はコロンビア大学で教授として、機械学習や人工知能、コンピュータ科学などの教科を担当していた経歴を持ち、この分野で深い知見を有しています。そして本書では、ネイト・シルバー氏が著作"The Signal and the Noise"の中で展開した予測技術に対する批判なども紹介する形で、その可能性と限界がバランス良く紹介されています。

本書の冒頭に登場するのは、予測分析を活用することで可能になった様々な事例。日本でも話題になった「買い物履歴から女性の妊娠を把握」という事例や、顧客が選びそうなものを把握する(レコメンデーションに活かすわけですね)、会社を辞めそうな従業員を把握する、結婚や死といった重要な出来事を予測する等々の例が紹介されています。この辺りは軽いタッチで、要は「つかみ」の部分。このまま予測技術ってすごいね!で進むのかと思いきや、中盤からは予測技術がどのように実現されているのか、ある程度深い部分まで触れる形で解説が行われています。

例えば第5章で登場する「アンサンブル」というアプローチ。これは文字通り、複数の予測技術を組み合わせることでより精度の高い結果を実現しようというもので、実際にネットフリックスが開催している「ネットフリックス・プライズ」に参加したチームの事例を通じて解説が行われています。異なるテクニックでの独立した分析結果を合わせるということで、エヴァのMAGIシステムのようなもの……というと語弊があるかもしれませんが(笑)、どのような発想で予測技術の進化が図られているのか、その具体的な状況をつかむことができるでしょう。

また一概に「予測する」といっても、予測した結果が具体的な価値の実現に結びつかなければ意味がありません。例えば第6章では、オバマ大統領の選挙対策チームの事例を取り上げ、単に「選挙に行かなそうな人」を予測するだけでなく「戸別訪問などの働きかけが有効な人/逆効果な人」まで区別することで、選挙活動の効率化が進められたことが紹介されています。よくデータ・サイエンティストに求められる資質として、単に数学者としての能力だけでなく経営者に近い能力まで含まれていることが指摘されていますが、この辺りを読むとまさに予測技術が「職人技」の世界に近いことが理解できるでしょう。本書に登場する事例を通じて言えることですが、高度な技術+それを使いこなす専門家の存在があって初めて、魔法が現実になるのだということを実感させられます。

ビッグデータ解説本の中には「こんな事ができそう、あんな事ができそう」という期待やイメージを語るだけで終わっているものが少なくありませんが、本書は具体的な事例(上記の他にも、IBMのワトソンなど有名事例が数多く登場します)に関する解説を通じて、実際のところ予測分析でどこまで可能になっているのか、またそれを正しく活用するためには何に気をつけなければならないのか、といった疑問にまで答えてくれています。冒頭で「ビッグデータに続くバズワードになるかもしれない!」などと煽ってしまいましたが、ブームに惑わされず冷静な見極めをしたい、という方に適した一冊となるでしょう。

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