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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

ビッグデータのゴールとしての「行動」

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というわけで、今週は一週間お休みをいただき、米サンタクララで開催されたイベント「Strata Conference 2013」に参加してきました(自腹で!)。これはオライリー社が主催しているイベントで、「データ」をテーマに、3日間で大小100以上のセッションが開かれるというもの。お馴染みビッグデータやその関連技術、センサーやモバイル技術、ビジュアライゼーションなどといったトピックが議論されていました。

巷では「ビッグデータは死んだ」という声もチラホラ聞かれるようですが、会場には大勢の参加者が集まり、無料のコーヒーや軽食類があっという間になくなってしまうほど(笑)。また2012年の頃よりも、日本人の方々とすれ違うことが多かったように感じます。バズワードとしての賞味期限は確かに切れかけているかもしれませんが、これからが本当の意味でのビッグデータ活用の時代となるのではないでしょうか。

その証拠に、昨年と比べて明らかに耳にすることが増えたキーワードがあります。それは「行動」、あるいは「実行」「アクション」といった表現。そもそもStrata Conferenceからして、今回の副題に"Making Data Work"(データを働かせる/機能させる)という言葉が掲げられているほど。データを集めることでも、分析することでもなく、データから行動を引き出すことがゴール――そんな主張を行う登壇者が数多く見られました。

例えば米Luminary Labs社のシニアアドバイザー、Jen van der Meerさんは、「データはビジネスモデルではない:知識から行動を生むには」と題されたセッションの中でこんな表現をされています:

Action trumps wisdom.

行動は知見に勝る。

シンプルながら、非常に力強い表現ではないでしょうか。データから情報を引き出し、それを知識へと加工できたとしても、結果的に行動へとつながらなければ意味はない。当たり前の話ですが、実はこの最後のステップ、ビッグデータの「ラストワンマイル」とでも呼ぶべき部分が想像以上に難しい――それが実感されるようになってきたからこそ、あえて「行動」という部分にフォーカスする方々が多かったのではないかと考えています。

またアクセンチュアのリサーチフェロー、Jeanne Harrisさんもこんな指摘を行っています:

Lack of trust is the #1 barrier to the widespread adoption and impact of big data.

信頼関係の欠如が、ビッグデータの導入と効果を妨げている第一の壁である。

経営者の立場を理解しない専門家が彼らの前に現れ、データだ統計だ、はたまた最新のIT技術だなどと意味不明な言葉を振りかざしても、両者の間に信頼関係が生まれることはない。その結果、経営者はデータから生まれる知識を信じようとせず、従来通りのカンに基づく意思決定を行ってしまう。そんな例がまだまだ多く見られるとJeanneさんは解説しています。

そんな不幸な状況を変えるためには、忙しい経営者に代わって、専門家たちの方から積極的に歩み寄って行くしかありません。だからこそデータをビジュアル化する、データでストーリーを語るといった直接的には分析とは関係のないテーマについても、ビッグデータの文脈で語られることが多くなっているのでしょう(今回のStrataでも関連セッションが数多く見られました)。喩えるなら強力なエンジンを開発して満足するのではなく、それが搭載されるクルマと、さらにはドライバーのことまでを考えて全体をデザインする。大変な話ですが、現場で関連業務に携わる人々には、そこまでの努力が要求されているのではないでしょうか。

先日『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』という本を翻訳させて頂いたことをお知らせしました。本書の著者であるオグルヴィのデータ・サイエンティスト、ディミトリ・マークスさんも、彼がシスコをクライアントにしていた時の話としてこんな例を紹介しています:

 私たちは情報分析に熱心に取り組んだが、シスコのマーケティング部門にいる他の人々は、その結果に関心を示さないだろうということに気づいた。それはただの数字に過ぎないのだから、興味が湧かないのも当然だろう。従って、いかにデータが優れた判断の助けになるのかをきちんと示す必要がある。そのためにはシンプルな形で示すことが重要だ。データで物語を語らなければならないのである。数字だけでは誰も説得できない。

そしてマーケティング部門の現場担当者たちに、数字に基づいた行動を行ってもらうために様々な工夫を行ったことが語られるのですが、彼は決して「データ分析結果をどう活用しようが私の仕事ではない」という態度は取りません。データを行動に結びつけ、売上増などの結果を残すことが自分の役割であると認識しており、本書の中でもビジュアル化といったテーマまで語られています。

このようなデータ・サイエンティストたちの姿勢は、最近話題となっている論文、「データ・サイエンティストほど素敵な仕事はない」(トーマス・H・ダベンポート教授ほか、雑誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』2013年2月号掲載)でも次のように指摘されています:

 データ・サイエンティストの最も基本的で普遍的なスキルは、コードを書く能力である。この条件は、五年後に「データ・サイエンティスト」という肩書きを持つ人々が大勢増えてくれば、違うものになるのかもしれない。だが、データ・サイエンティストとは、自分に関わる人すべてが理解できる言葉でコミュニケーションを図り、言葉と視覚、理想的にはその両方を使って、データで物語を語るという特殊なスキルを見せることができる人だ。こうしたデータ・サイエンティストのニーズは、ずっと変わらないだろう。

専門技能という点では、これからますます一人の人間が全てを習得するということは難しくなってゆくでしょう。『データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」』の中でも、専門家を集めてチームを作るというアプローチが紹介されており、またStrata Conferenceでも「データ・サイエンティスト”グループ”」として要求される能力を発揮してゆく、という取り組みを行った事例が解説されていました。その実現方法はさておき、データ・サイエンティストという役割に「周囲の人々を理解させる」という機能が含まれているという点は注目に値するのではないでしょうか。

行動は知見に勝る。改めてこの言葉を意識し、何が必要かを考えてゆくことで、データ分析の取り組みが「死ぬ」ことはない――そんな感想を抱いた3日間でした。

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