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【書評】カリフォルニア州副知事が描く「ガバメント2.0」の最前線"Citizenville"

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「アラブの春」や米大統領選挙の例を持ち出すまでもなく、インターネットを中心とした様々な情報技術によって、政治や社会運動の世界は大きく変わろうとしています。その流れに遅れるなとばかり、行政の分野でも「ガバメント2.0」といった旗印のもと、改革の必要性が訴えられているのはご存じの通り。日本でも様々な動きが出ていますが、本場アメリカではどのような状況になっているのか――本書"Citizenville: How to Take the Town Square Digital and Reinvent Government"は、現職のカリフォルニア州副知事であるギャビン・ニューサム氏が、ガバメント2.0の最前線を描いた一冊です。

Citizenville: How to Take the Town Square Digital and Reinvent Government Citizenville: How to Take the Town Square Digital and Reinvent Government
Gavin Newsom Lisa Dickey

Penguin Press HC, The 2013-02-07
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ニューサム氏は1967年生まれの45歳。かつてPlumpJackというワイナリーを経験していましたが、2003年にサンフランシスコ市長に当選し、サンフランシスコ史上最も若い市長となりました。2011年から現在のカリフォルニア州副知事を務めており、若さと経営的な視点、そして政治・行政の現場も知る人物と言えるでしょう。ちなみになかなかのイケメンで、テレビ番組(ギャビン・ニューサム・ショー)のホスト役も務めていたりします。

こうした経歴から、彼は政治からビジネス、エンターテイメントの世界に至るまで幅広い人脈を持ち、本書を執筆するにあたって様々な著名人にインタビューしています。紙面に登場する人々をちょっと挙げてみると、ビル・クリントン元大統領や、ティム・オライリー、そしてジョージ・クルーニー(!)などなど。先ほどのユニークな経歴とあわえせて、まさに本書の内容は、ニューサム氏にしか書けなかったものと言えるでしょう。

実際に、本書で取り上げられている事例は多岐にわたります。おなじみの「ビッグデータ」を始めとした様々なデータ分析やデータ活用、データのオープン化、アプリ開発、ゲーミフィケーション、ソーシャル化、クラウドソーシング、オープンイノベーションなど、最近のネット系サービスの総まとめといった内容です。ただ、単に理想論を唱えて終わりという一冊ではありません。自ら行政の長として、理想を現実にしようとした時に直面した問題や、経営者としての経験から出たアイデアなども盛り込まれており、「ガバメント2.0を現実にするにはどうするか」というアクションの視点も含まれる内容となっています。

実はニューサム氏はディスクレシア(難読症)患者であり、様々な困難に直面してきたことを本書で告白しています。しかしディスクレシア患者として、失敗することが当たり前という人生を送ってきたが故に、「失敗から学ぶ」というアプローチができたとニューサム氏は言います。失敗し、そこから学び、次のアクションにつなげる――このフィードバック・ループを回すこそが大切なのだと訴えているのですが、これは最近のリーン・スタートアップにもつながる考え方でしょう。その意味で本書は、単にガバメント2.0という事象のレポートとしてだけでなく、どうやってIT技術から新しいサービスを生み出してゆくのか?を考えるケーススタディとしても価値のある一冊だと思います。

ちなみにタイトルの"Citizenville"ですが、これはもちろんジンガ社の有名なソーシャルゲーム"FarmVille"にちなんでつけられたもの。FarmVilleのように人々を引きつける力を活用し、市民(Citizen)の参加を促すようなゲーム的アプリを開発してはどうか、というアイデアが本文で語られています。Citizenvilleだなんて不謹慎なように聞こえるかもしれないが、政治が「祭り」として皆が楽しみながら参加した時代もあったのだ、というのがニューサム氏の弁。それが正解かどうかは分かりませんが、これほど柔軟な思考を持ち、ビジネスとITの知識も豊富な若手リーダーが、行政のトップに就いているということに正直羨ましさも覚えたり。実はそんなメタ情報が、本書の伝える「米国におけるガバメント2.0」の最大のポイントだったりするのかもしれません。

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