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存在感の些細な源泉

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日本科学未来館で開催中の「デジタルコンテンツEXPO2012」を見に来ています。透明プリウス拡張満腹感、さらには触手ロボットに至るまで、様々な展示が満載。土曜日まで開催されていますので、コンテンツ系の最先端の取り組みを体験したいという方はぜひチェックしてみて下さい。

さて、そのDCEXPO2012で展示されていた技術の1つがこちら。NTTコミュニケーション科学基礎研究所が開発したもので、「MM-Space: 次世代ビデオ会議のための会話場再構成システム」と名付けられています:

MM-Space:次世代ビデオ会議のための会話場再構成システム

一見すると何の変哲もないフラットスクリーン(性格にはプロジェクタを使用した透過型スクリーン)に、女性の表情が映し出されているもののように感じられます。「ビデオ会議のシステム」と言うだけあって、参加者1人に1台のスクリーンが割り当てられているのでしょう。とそこまでは普通なのですが、実はこのスクリーンにはもう1つ仕掛けがあり、参加者の「首」の動きを再現するようになっています。

参加者の視点から映像を撮ることができたので、短いですがご覧いただきましょう:

いかがでしょうか。会場が暗かったので少し分かりにくいかもしれませんが、参加者が実際に行った動きを正確にトラッキングして、左右と上下に「首」を振るようになっています。そんな些細な仕組みなのですが(もちろん参加者一人ひとりの動きと映像を捉えるのは些細な技術ではありませんが)、たったそれだけでスクリーンには大きな存在感が生まれ、あたかも生身の人間が目の前でディスカッションを行っているような感覚を覚えました。

こういった技術はテレプレゼンスと呼ばれるもので、そもそもテレビ会議自体がテレプレゼンスの代表例とも考えられますが、これまでは映像を鮮明にする・音声を鮮明にするといった方向性での進化が行われてきました。そして近年、テレプレゼンス・ロボット(遠隔操作によって操作されるロボットで、周囲の様子をカメラやマイク等で捉えて操縦者にフィードバックすることが可能)などの形で、新たな方向性から臨場感を出そうという取り組みが行われています。

例えばテレプレゼンス・ロボットの代表例である、VGoコミュニケーションズ社の「VGo」の映像がこちら:

このようにロボットが室内をウロウロと動き回り、操縦者は相手の空間に一緒にいるような感覚を味わえるわけですが、面白いのはVGo自体が操縦者の存在感を醸し出すという点です。僕は実際に、昨年のCESでVGoの「接客」を受けたことがあるのですが、しばらく一緒にいるうちに本物の人間に応対されているような感覚を覚えていることに気づきました。手も足もない、単に相手の表情を映すモニタに車輪がついただけのロボットなのですが、その動きになぜかしら人間味を感じてしまうのです。

今回のMM-Spaceも、再現されているのは首の動きだけです。にもかかわらず十分な人間味が追加されるということは、実は人間の存在感というものは、ごく些細な動きが主成分となっているのかもしれません。浦沢直樹の漫画『PLUTO』で、主人公のロボット刑事・ゲジヒトが「人間は無駄な動きをするから(ロボットと)区別できる」というようなセリフを呟くのですが、恐らくその「無駄」の部分が私たちに人間性を付加しているのでしょう。

近い将来、テレビ会議のモニターはみな無駄な動きを始めるようになる――かどうかは分かりませんが、遠隔地の人々とも、より物理的な距離の近さを感じながらコミュニケーションできるようになるのかもしれません。あるいはバーチャルなキャラクターや、現実空間のロボットたちに存在感を付加するという方向性で上記のような技術が活用され、より人間以外の存在から人間性を与えてもらうことを期待するような世の中になっていったりして。

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