三菱電機が「液冷」で自前主義を捨て台湾・鴻海と組んだ理由。米国AIデータセンター市場で本格展開準備中
さっつーのAIエージェントを監修している今泉大輔です。液冷分野では過去2週間分の海外・国内の重要ニュースを東証プライム上場企業の経営者の目線でフィルタリングし、経営者目線のコメントを添えるレポートを出しています。ペリオディカルに内外の動向を振り返ることができるので便利です。どうぞご活用下さい。
さっつーのAIエージェント:9月24日まで約3週間の海外/日本の「液冷」重要ニュース:東証プライム経営者用サマリー
三菱電機が昨年11月に台湾の鴻海精密工業と提携し、液冷製品事業を本格化することが発表されていました。
三菱電機公式:台湾の鴻海精密工業と協業に関する覚書を締結(2026/11/6)
また、2026年のIR資料でも液冷分野への注力がうたわれています。
p12 重点施策|ソリューション事業(データセンター:IT Coolingシステム)
p14 重点施策|ソリューション事業(データセンター)
鴻海との共創を通じて、エネルギー効率最高水準のPUE1.1実現を目指す
次世代冷却システム
・DLC (特に二相液冷技術)
・フリークーリング及び次世代高効率ドライクーラー
「DLC」はDirect Liquid Coolingの略。以下の基本解説でも説明しています。
東証プライム経営者が知っておかなければマズい「液冷」の4大要素 ―コールドプレート、QD/UQDコネクタ、マニホールド、CDU
銅板のコールドプレートを使ってAI半導体の高熱を直接冷やすのがDLCです。調べた所によると現在のBlackwellなどのAI半導体の発熱は、そのスポットだけ計測すると(熱流束(Heat Flux:1平方センチメートルあたりの発熱量))原子炉の炉心ほどの発熱量があるそうです。これをダイレクトに銅板で冷やす。その銅板の中を微細なパイプが通っており、そのパイプに冷媒の液体が流れる。それが液冷です。単相式は冷媒が沸騰しないもの。二相式は液体が沸騰して気体になりまた液体に戻ってサーバー建屋の外に出るものです。
三菱電機の液冷関連の動きを検索すると、以下の米国市場進出の公式情報もありました。
三菱電機公式:米国にデータセンター向け冷却機器の製造工場を設立(2026/7/30)
これらをつなぎ合わせると、三菱電機は台湾・鴻海と組んで米国AIデータセンター市場(巨大です。数百兆円レベルで動いています)向けに統合型の液冷製品を投入すべく着々と準備中であるということが推測されます。鴻海は米国・メキシコにAIデータセンター設備製品の工場を持っているからです。
note:【さっつーの産業調査】Foxconn鴻海×NVIDIA。1トン超のAIサーバーと液冷の生産をどう自動化する? 工場建設前に完全に生産ラインを作りこむシムレディ(SimReady)
さっつーのAIエージェント:【Foxconn鴻海×NVIDIA】AIサーバーを作る工場をAIで設計する----Blackwell量産を支える「デジタルツイン×AMR群制御」の全貌
以下はその前準備の部分に関するAIのレポートです。
AIデータセンターの「液冷」が、日本でも急速に注目されるようになりました。
しかし、日本企業の多くが液冷を本格的に意識するようになる前から、すでに動いていた企業があります。
三菱電機です。
2025年11月6日、三菱電機は台湾の鴻海精密工業、いわゆるFoxconnと、AIデータセンター向けソリューションで協業する覚書を締結しました。
当時の発表では、「エネルギー効率に優れ、高度な信頼性を備えたAIデータセンター向けソリューションをグローバルで供給する」という比較的広い内容でした。両社のノウハウやネットワークを活用して、AIデータセンター分野で包括的に協力すると説明されています。
ところが、その約半年後の2026年5月29日に三菱電機が公開した「インフラビジネスエリア2026」を読むと、その中身がかなり具体的になっています。
そこには、次世代冷却システムとして、
DLC(Direct Liquid Cooling=直接液冷)、特に二相液冷技術、フリークーリング、次世代高効率ドライクーラー
が明記されています。
さらに、次世代電源システムや省エネルギー制御まで組み合わせ、鴻海との共創を通じてPUE1.1を目指すとしています。(今泉注:PUEはデータセンターの電力を効率よく使っていることを表す最重要指標。従来のデータセンターの空冷ではPUE 1.5前後が限界だった。液冷で追い込むとPUE 1.1まで改善する。PUE 1.0は理論的な限界値。)
これは単なる「液冷装置を一つ作ります」という話ではありません。
三菱電機は、AIデータセンター全体の電源、冷却、監視・制御を一つのシステムとして事業化しようとしているのです。
では、なぜ三菱電機ほどの総合電機メーカーが、自社だけですべてを作るのではなく、台湾の鴻海と組むのでしょうか。
ここを理解すると、これから日本企業がAIデータセンターの液冷ビジネスに参入する際に、台湾企業をどう使えばよいのかが見えてきます。
三菱電機は、すでにデータセンターの「建物側」をたくさん持っています
まず、三菱電機側の強みを整理してみます。
同社はAIサーバー専業メーカーではありません。
しかし、データセンターを動かすために必要な設備を非常に幅広く持っています。
2026年のIR資料では、データセンター関連事業を、電源システム、IT Coolingシステム、光デバイス、監視・制御システムなどで構成するとしています。
電源ではUPS、周辺盤、バッテリー、パワーエレクトロニクス、SiCパワーデバイスがあります。
冷却では、従来型の空冷であるCRACやCRAHから、単相・二相の液冷までを扱い、工事、運用、保守まで含めた「データセンタートータル冷却ソリューション」を提供する方針です。
しかも、このIT Cooling事業をかなり大きな成長事業に位置づけています。
2025年度に320億円だったIT Coolingの売上高を、2030年度には1,000億円以上、2035年度には3,000億円以上に引き上げる計画です。
つまり液冷は、三菱電機にとって実験的な新商品ではありません。
将来のデータセンター事業を構成する重要な柱の一つになっています。
それでも、三菱電機だけでは「AIサーバー側」が足りません
ここで鴻海が登場します。
三菱電機のIR資料14ページを見ると、非常にわかりやすい図があります。
左側に「三菱電機」があり、次世代電源システム、次世代冷却システム、省エネソリューションがあります。
右側には「鴻海」があり、データセンターとITモジュールがあります。
そして両者を掛け合わせ、「統合エンジニアリング×フィールド実証」によってPUE1.1を目指す構図になっています。
(今泉注:日本企業が液冷分野で現実的に今の市場で売上を取るには、台湾企業と協業しないと無理だと考える。理由は日本の製造業全般において、AIデータセンター設備の技術標準に関するインテリジェンス機能がないに等しく、米国ハイパースケーラーのAIデータセンター関連設備の技術情報及びNVIDIAのAI半導体技術の進展と呼応して動く種々の機器関係の技術情報がほとんど流通していないから。AIデータセンター関連設備の技術情報をリアルタイムで持っているのは台湾に10数社ある受託製造企業群。米国のAIデータセンター設備プレイヤーも台湾受託製造企業群に依存している。)
私はここが、この提携を理解するうえで最も重要な部分だと思います。
AIデータセンターの液冷は、冷凍機メーカーが冷凍機を作れば完成するものではありません。
例えばGPUを直接冷却するDLCでは、概念的には、
GPU → コールドプレート → マニホールド → CDU → データセンター側の冷却水系統 → ドライクーラーなどの排熱設備
という一連の熱の流れを成立させる必要があります。
東証プライム経営者が知っておかなければマズい「液冷」の4大要素 ―コールドプレート、QD/UQDコネクタ、マニホールド、CDU
GPUの発熱量が変われば、必要な流量も変わります。
サーバーの配置が変われば、配管やマニホールドの設計も変わります。
NVIDIAが新しいラックスケールシステムを投入すれば、冷却システム側もそれに合わせて設計変更しなければなりません。
つまり、液冷では建物側の空調・冷却技術と、サーバー側の設計を切り離しにくくなっています。
そこで鴻海の価値が出てきます。
(今泉注:現在のAIデータセンター関連設備は、液冷関連製品も含め、AIサーバーも含め、NVIDIAのデジタルツインを使わないと設計ができない。それまでに複雑化、高度化しており、かつ、液冷を例に取ると配管系の細かなポイントにおける熱量、流量等のシミュレーションをしつつ全体最適を実現する必要があるため、設計にAIの力を借りる=デジタルツインで設計・シミュレーションを行うことがなければ、全く不可能な世界に入っている。日本企業はNVIDIAデジタルツイン活用のノウハウが一部の例外を除いてないに等しいので、消去法的に台湾企業との協業がマストになる。)
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鴻海は「台湾にある巨大な組立工場」ではありません
日本では鴻海というと、iPhoneなどを大量生産するEMS企業というイメージが依然として強いかもしれません。
しかしAIサーバーでは、その理解だけでは不十分です。
鴻海は現在、自らを世界最大のAIサーバープロバイダーと位置づけ、NVIDIAのラックスケールAIシステムなどを大量生産しています。さらに、ラック統合、電源、冷却、高速通信などを含めてAIインフラをシステムとして扱っています。
2026年6月にはSchneider Electricとも、次世代AIデータセンターで協業すると発表しました。
この発表では、鴻海の強みを「高度なコンピュートプラットフォーム、AIラック統合、グローバル製造」、Schneider Electric側の強みを「電源、冷却、エネルギーマネジメント」と整理しています。
これは、三菱電機との関係を考えるうえでも参考になります。
三菱電機も、電源、冷却、制御というデータセンター設備側に大きな強みを持っています。
鴻海はその反対側、つまりAIサーバー、ラック、ITモジュール、その量産と検証を握っています。
両者をつなげることで、GPUからデータセンターの排熱設備までを一つのシステムとして設計しやすくなるわけです。
なお、三菱電機と鴻海が具体的にどの部品をどちらが開発するのかという詳細な役割分担までは公表されていません。
したがって、ここで説明しているのは、公表されている両社の事業領域と三菱電機のIR資料から読み取れる産業構造です。
二相液冷まで視野に入れているところも重要です
三菱電機の資料では、DLCの中でも「特に二相液冷技術」と明記されています。
一般的な単相液冷では、冷却液は液体の状態を保ちながら熱を運びます。
これに対して二相液冷では、冷却媒体が熱を受け取る際の液体から気体への相変化などを利用して、大きな熱を効率よく運ぶ方式があります。
AI半導体の消費電力がさらに大きくなれば、同じ面積から取り除かなければならない熱も増えます。
そのため、現在普及が始まっている液冷だけを見るのではなく、その次の高熱密度化まで見ていると考えられます。
三菱電機自身も、2026年の資料で「自社開発に加え、ミッシングピース補完や新冷却システム獲得のため、スタートアップを含む他社との協業・M&Aにより最新の冷却技術を提供する」と明記しています。
要するに、全部自社で作ることにこだわっていないのです。
鴻海と組む最大のメリットは「サーバーの実物」が近くにあることです
ここからは、日本企業一般の話に広げて考えてみます。
液冷ビジネスに参入したい日本企業が台湾企業と組むメリットの一つは、AIサーバーそのものに近い場所で開発できることです。
例えばCDUだけを開発したとしても、それを実際のAIラックにつないで、
十分な流量を供給できるのか。
圧力損失は問題にならないのか。
GPUの負荷が急激に変動した時にどうなるのか。
漏液が発生しないのか。
ラックを数十台、数百台に増やした時に安定するのか。
メンテナンスしやすいのか。
といったことを検証しなければなりません。
AIサーバーの世代交代は非常に速いため、冷却装置だけを単独で開発していては、完成した時には次のGPU世代が登場している可能性もあります。
鴻海はNVIDIA Vera Rubin NVL72を含むラックスケールAIシステムを開発・製造し、液冷設計そのものにも取り組んでいます。
note:【さっつーの産業調査】Foxconn鴻海×NVIDIA。1トン超のAIサーバーと液冷の生産をどう自動化する? 工場建設前に完全に生産ラインを作りこむシムレディ(SimReady)
さっつーのAIエージェント:【Foxconn鴻海×NVIDIA】AIサーバーを作る工場をAIで設計する----Blackwell量産を支える「デジタルツイン×AMR群制御」の全貌
そのような企業と共同開発すれば、サーバー側の設計変更と冷却側の設計を同時に進められる可能性があります。
これが、単なる製造委託とは違うポイントです。
台湾には鴻海以外にも液冷企業が集積しています
さらに重要なのは、台湾には鴻海だけが存在するわけではないことです。
AIサーバーの製造企業、その周辺のサーマルメーカー、電源メーカーなどが一つの産業集積を形成しています。
日本ではほとんど名前を聞かない企業もあります。
Aurasは、空冷部品から液冷ラックシステムへ移っています
Auras Technology(雙鴻科技)は、その代表例です。
もともとはサーバーやPC向けの熱対策部品を手掛けてきた企業ですが、同社自身が「空冷モジュールメーカーから液冷ラックシステムプロバイダーへ転換した」と説明しています。
現在は、コールドプレート、CDU、マニホールド、ポンプ、クイックコネクターまでを含む液冷製品群を展開しています。
つまり、日本企業が液冷システムを商品化しようとした場合、部品を一つずつゼロから探すのではなく、こうした台湾のサーマル企業とシステム単位で共同開発する選択肢があります。
Deltaは、すでに3MW級CDUを出荷しています
台達電子、Delta Electronicsも非常に重要です。
日本では電源メーカーとして知られることが多い会社ですが、AIデータセンター向け冷却にも大きく展開しています。
2026年3月には、液対液方式の「GoCool 3MW CDU」の出荷開始を発表しました。
一台で最大3MW級の冷却能力を持つCDUです。顧客としてクラウドサービス事業者やコロケーション事業者を想定しています。
Deltaの場合は、電源と冷却の両方を持っています。
AIデータセンターが「サーバーを置く建物」から、「巨大な電力と熱を管理する工場」に変わっていく中で、非常に興味深いポジションにいる企業です。
WiwynnはAIサーバーと液冷をラック単位で一緒に設計しています
Wiwynnも、日本では一般にはほとんど知られていません。
しかし、世界のデータセンター事業者向けにサーバーやラックを供給する台湾企業です。
同社は2026年のNVIDIA GTCで、Vera Rubin NVL72などのAIプラットフォームとともに液冷技術を展示しました。
Wiwynn自身が、「AIは計算だけの問題ではなく、コンピュート、熱管理、データ伝送、電力供給をラック単位で共同設計する問題になった」と説明しています。
これは、まさに三菱電機と鴻海の協業を理解するための言葉でもあります。
液冷は単独の商品ではなくなりつつあります。
サーバー、電源、通信、冷却を同時に設計する必要が出ているのです。
WistronもファンレスDLCや液浸冷却を開発しています
WistronもAIサーバーを大量生産する台湾企業です。
同社の2025年度研究開発実績には、AIサーバー向けの「Fanless DLC system」と「Immersion cooling server」が記載されています。
さらに2026年には、台湾、米国、メキシコなどでAIサーバー関連の生産設備を増強しています。米国テキサスでは、NVIDIA GB300 Grace Blackwell Ultra Superchipの量産拠点も稼働させています。
つまり台湾には、
AIサーバーを設計・量産する企業があり、
その横にコールドプレートやCDUを作る企業があり、
さらに電源、コネクター、光通信などを供給する企業があります。
この集積そのものが、台湾の強さです。
日本企業は、台湾から液冷装置を「買う」だけではありません
ここで、日本企業にとっての選択肢が見えてきます。
台湾企業との関係を、
「台湾製のCDUを輸入して日本で販売する」
だけで考える必要はありません。
例えば、日本企業が顧客との関係、データセンター全体の設計、国内工事、制御システム、保守サービスを持つ。
台湾企業がコールドプレート、CDU、ラック、AIサーバーなどを開発・量産する。
両社で実際のAIサーバーを使って共同検証する。
そのうえで、日本企業のブランドやソリューションとして顧客に提供する。
こうした組み方も考えられます。
これは、前回このブログで取り上げた「シャープが台湾の鴻海で製造するAIサーバー。他社が同じことをするにはどうすればいいか?」という話ともつながっています。
シャープが台湾の鴻海で製造するAIサーバー。他社が同じことをするにはどうすればいいか?
AIサーバーでも、日本企業がすべてを自社工場で設計・製造する必要はありません。
液冷でも同じです。
三菱電機×鴻海は、日本企業の液冷参入モデルの一つです
三菱電機のケースで興味深いのは、台湾企業を単なる安価な製造委託先として見ていないことです。
2026年のIR資料に書かれているのは「鴻海との共創」です。
三菱電機の次世代電源、次世代冷却、省エネ制御と、鴻海のデータセンター、ITモジュールを組み合わせ、「統合エンジニアリング×フィールド実証」を行う構想になっています。
これは、日本企業が台湾のAI産業を利用する際の一つのヒントになります。
台湾企業には、AIサーバーを大量生産する能力だけがあるのではありません。
GPUの世代交代を追いながらラックを設計し、液冷を組み込み、実機で検証し、それを世界で量産する産業基盤があります。
一方、日本企業には、冷凍機、ポンプ、バルブ、熱交換器、電力設備、パワーエレクトロニクス、センサー、制御、建設、運用・保守などの強みがあります。
どちらか一方ですべてを作る必要はありません。
日本企業の持つデータセンター設備技術と、台湾企業の持つAIサーバー・ラック・液冷量産技術を組み合わせる。
三菱電機と鴻海の協業は、その一つの具体例として見ることができます。
AIデータセンターの液冷市場へ参入しようとする日本企業にとって、台湾は単なる「製造委託先」ではありません。
共同設計し、共同検証し、次のGPU世代に合わせて製品を市場へ出すための技術パートナーでもあるのです。
液冷市場を見る際には、CDUやコールドプレートという製品だけを見るのではなく、その背後にある台湾のAIサーバー産業まで見る必要があります。
そこまで見て初めて、日本企業がどの部分を自社で持ち、どの部分を台湾企業と組むべきなのかが見えてきます。