NECはなぜインドと東南アジアを海底ケーブルで結ぶのか?MicrosoftのAIデータセンター投資から読む商流
NECは世界有数の海底ケーブル事業者です。
昨日、Metaの海底ケーブルを北米と欧州の間で敷設するプロジェクトの発表がありました。
電波タイムズ:NECなど、ペタビット級光海底ケーブル構築で協業
NEC公式の2分弱のYouTube動画では、同社の海底ケーブル事業がいかに優れた技術で成り立っているかがわかります。
同社がインドとマレーシア・シンガポールを結ぶ海底ケーブルでも大きな役割を果たしていることが、7月初旬のニュースにありました。Microsoftも関与しているAIデータセンター関連のニュースです。
これによりインドのAIデータセンター市場が活況を呈していることがわかります。
インドで急増しているAIデータセンターへの投資が、日本企業の海底ケーブル事業につながっています。
2026年7月2日、Microsoft、シンガポールのLightstorm、Singtel、Tata Communicationsなどが、インドとマレーシア、シンガポールを結ぶ新しい光海底ケーブル「I-2SEA(India-Southeast Asia)」の建設計画を発表しました。
Reutersは同日、MicrosoftとLightstormを中心とする企業が、急増するAI、クラウド、ハイパースケール向けの通信需要に対応するため、約3,600kmの海底ケーブルを建設すると報じています。運用開始は2029年第4四半期を予定しています。
Reuters:Microsoft partners with Singapore's Lightstorm to build India-Southeast Asia undersea cable(2026年7月2日)
そして翌日の7月3日、NECが、このI-2SEAの光海底ケーブルシステムを供給する契約を締結したと発表しました。
契約相手は、Lightstorm、Microsoft、Singtel、Tata Communicationsで構成される企業コンソーシアムです。
NEC:インドと東南アジアを結ぶ光海底ケーブルシステム「I-2SEA」の供給契約を締結(2026年7月3日)
ここで面白いのは、MicrosoftなどによるAI投資の行き先が、NVIDIAのGPUやAIサーバーだけではないことです。
AIデータセンターが増えれば、そのデータセンター同士を結ぶ巨大な通信インフラが必要になります。
その設備投資の一部が、日本のNECの売上につながっているのです。
インドではAIデータセンターが急速に増えている
I-2SEAが建設される背景には、インドで進むデータセンター投資があります。
Reutersは7月2日の記事で、インドのデータセンター容量が2030年までに大幅に拡大するとみられていることを紹介しています。Microsoftだけではありません。世界のクラウド事業者やAI関連企業がインドでデータセンターへの投資を進めています。
I-2SEAのインド側の重要な接続先になるのが、ハイデラバードとチェンナイです。
ハイデラバードには大規模なクラウド・AIインフラが集積しつつあり、チェンナイもインドを代表するデータセンター集積地の一つです。
一方、その先にあるシンガポールは、アジアを代表するクラウドとデータセンターのハブです。マレーシアでも、クアラルンプールやジョホールを中心にデータセンター投資が急速に進んでいます。
つまりI-2SEAは、
インドのAI・クラウド拠点
と
マレーシア、シンガポールのAI・クラウド拠点
を高速な通信網で直接結ぶためのインフラなのです。
Lightstorm自身もI-2SEAについて、「インド、マレーシア、シンガポールのAIリージョンを相互接続するために構築する海底ケーブル」と説明しています。
Lightstorm:I-2SEA Submarine Cable System発表(2026年7月2日)
なぜAIデータセンターに海底ケーブルが必要なのか?
AIデータセンターについて考える際には、「データセンターの中」と「データセンターの外」を分けると理解しやすくなります。
データセンターの中では、数千、数万個というGPUを高速ネットワークで結びます。
AIモデルを学習する際には、一つのGPUだけで計算するのではなく、大量のGPUがデータをやり取りしながら並列処理します。
そのため、NVIDIAのNVLinkやInfiniBand、Ethernetなど、非常に高速なネットワーク技術が必要になります。
しかし、それだけではAIサービスは成立しません。
インドのデータセンターで計算した結果をシンガポールの利用者に届ける。あるいは、インドと東南アジアの複数のデータセンターを連携させる。
そのためには、データセンターの外側にも大容量の通信網が必要です。
そこで登場するのが光海底ケーブルです。
工場に例えるなら、GPUを結ぶネットワークは「工場の中の生産ライン」です。
海底ケーブルは、その工場から別の工場や顧客へ製品を運ぶ「高速道路」に近い存在です。
どれだけ大きなAIデータセンターを建設しても、外部との通信能力が足りなければ、その計算能力を世界に届けることはできません。
I-2SEAは約3,600km。インドには二つの陸揚げ地点
I-2SEAの総延長は約3,600kmです。
Lightstormによると、インドには二つの陸揚げ地点が設けられます。
一つはアンドラプラデシュ州のマチリパトナム。もう一つは南チェンナイです。
マチリパトナムからは、Lightstormが保有するインド国内の光ファイバーネットワークを使って、内陸部のハイデラバードなどにつなぎます。Lightstormは3万km以上の陸上光ファイバーネットワークを運営しています。
つまり、海底ケーブルだけを見ていても、全体像はわかりません。
シンガポールから海底ケーブルでインドまでデータを運びます。
インドの海岸にある陸揚げ局で陸上ネットワークに接続します。
そこからハイデラバードなどのデータセンターまで、陸上の光ファイバーで運びます。
海底ケーブル+陸揚げ局+陸上光ファイバー+データセンター
という一つの通信インフラとして考える必要があります。
誰が何を売っているのか?
ここから商流を見てみましょう。
I-2SEAを共同で構築するコンソーシアムは、Lightstorm、Microsoft、Singtel、Tata Communicationsの4社です。
Lightstormは、自社をI-2SEAの過半を所有する事業者と説明しています。さらにインド側の陸揚げ局を運営し、自社の陸上ネットワークにつなぎます。
Microsoftは、自社のクラウドやAIサービスを支える国際通信基盤を確保する側です。
SingtelとTata Communicationsは、世界的な通信ネットワークを持つ通信事業者です。
ではNECは何をするのでしょうか。
NECは、I-2SEAの「system supplier」、つまり海底ケーブルシステムの供給企業として選ばれています。
一方、海上で実際にケーブルを敷設する「marine installation partner」には、シンガポールのASEAN Cableship(ACPL)が選ばれています。
ここが重要です。
海底ケーブルを所有する企業と、システムを供給する企業と、海上工事を行う企業は別です。
I-2SEAという一つのプロジェクトの中に、複数の商流が存在しています。
NECが売るのは「ケーブル一本」ではない
NECの事業を理解するうえでもう一つ重要なのは、「海底ケーブル」と「海底ケーブルシステム」は同じではないことです。
長距離の海底通信では、光ファイバーケーブルだけを海に沈めれば通信できるわけではありません。
長距離伝送によって弱くなる光信号を増幅する海底中継器を配置し、陸上側の通信設備と組み合わせ、数千km離れた地点まで安定して大量のデータを届ける必要があります。
NECは海底ケーブルシステムについて、設計、製造、敷設、試験、保守などを含めた総合的な事業を展開しています。
同社によれば、これまで世界で敷設してきた海底ケーブルは45万kmを超えます。地球約11周分に相当します。
I-2SEAでも、単に「日本企業が3,600km分のケーブルを売った」と理解すると、本当の事業構造を見誤ります。
NECが受注したのは、国際通信を成立させるための「海底ケーブルシステム」です。
AI投資はGPUから通信インフラへ波及する
このニュースをAI産業の視点から見ると、非常に興味深い構造が見えてきます。
まずMicrosoftなどが、AIやクラウドサービスを拡大します。
↓
インドでAIデータセンターやクラウド拠点が増えます。
↓
インドとシンガポール、マレーシアなどのデータセンター間で大量のデータをやり取りする必要が生じます。
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大容量の国際通信網が必要になります。
↓
海底ケーブルへの設備投資が発生します。
↓
NECの海底ケーブルシステムの受注につながります。
という流れです。
AIデータセンターへの設備投資というと、NVIDIAのGPU、サーバー、液冷装置、変圧器、非常用発電機などが注目されます。
しかし、AIデータセンターが増えれば、そこからさらに外側にある設備も必要になります。
光ファイバー、光通信装置、陸上ネットワーク、海底ケーブルなどです。
つまり、AI投資の商流はデータセンターの建物の中だけでは完結しません。
日本企業にとって重要なのは「AIそのもの」を売ることだけではない
このI-2SEAの事例は、日本企業が世界のAI投資からどのように売上を得られるのかを考えるうえでも参考になります。
Microsoftのような企業と同じ生成AIサービスを開発する必要はありません。
NVIDIAと同じGPUを開発する必要もありません。
AIが普及することで必ず必要になる設備や部材、サービスを供給するという参加方法があります。
データセンターであれば、電力設備、冷却設備、建設設備があります。
サーバーであれば、半導体、メモリ、電子部品、光部品があります。
そしてデータセンター同士を結ぶためには、通信設備があります。
NECのI-2SEA受注は、その代表的な例です。
AI投資を見る時には、「どの企業がGPUを買うのか」だけを見ていては、商流の一部しか見えません。
AIデータセンターが増えることで、次に誰が何を買わなければならなくなるのか。
その先まで追いかけていくと、日本企業に流れてくる新しい商流が見えてきます。
インドと東南アジアを結ぶ約3,600kmの海底ケーブルは、海の底に敷設される通信インフラです。
しかし、その需要の源流をたどっていけば、その一つに世界的なAI・クラウド投資があります。
AI時代の設備投資は、GPUからデータセンターへ、そしてデータセンターから海底ケーブルへと広がり始めています。