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中国のヒューマノイドはどういうメカニズムで「前方宙返り」を制御しているのか?

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中国深圳に「EngineAI(衆擎机器人)」というスタートアップがあり、今年2月に「前方宙返りを世界で初めて実現させた」ということで話題になりました。

前方宙返りを披露している以下の動画をご覧下さい。最初は頭部のないテスト機で前方宙返りをしていますが次のシーンでは頭部のあるモデルがやっています。

ラボ内での実験的な前方宙返りだと思いますが、できていることは確かです。

以下はEngineAIのヒューマノイド製品の公式紹介動画。よくできています。

ヒューマノイドにアクロバティックな動きをさせることは、高度な動作制御ができているということのデモンストレーションとしてよく行われています。よく知られているのは米国のボストンダイナミクス(Boston Dynamics)のAtlasの動きで、以下は同社公式ビデオ。Atlasの最新版の動きをデモンストレーションしています。各動作の複雑さは驚きです。

ボストンダイナミクスも前方宙返りはできていないそうで、中国のスタートアップであるEngineAIは、「ボストンダイナミクスにも勝った!」的な意味で前方宙返りの動画を公開したようです。新華社の報道記事にもボストンダイナミクスがライバルとして書かれていました。

以下はEngineAIの前方宙返りを報じる新華社記事の一部。


世界で初めて"前方宙返り"を成功させたヒューマノイド、その裏にあるすごい技術とは?

2025年2月、中国・深圳に拠点を置くスタートアップ「衆擎机器人科技有限公司(EngineAI)」が、自社のヒューマノイドロボットによる"前方宙返り"の成功を発表しました。これは世界初の快挙です。

動画では、ロボットが優雅で安定した歩行を見せたあと、一連の流れるような動きで見事に前宙を決めています。その爆発的な力と着地の安定性はSNSでも話題になり、「これぞサイバー功夫!」「人型ロボットがついにここまで来た!」と絶賛の声が相次ぎました。

前方宙返りが"すごい"理由

ロボットの宙返りと言えば、真っ先に思い浮かぶのはボストン・ダイナミクスの「Atlas」。2017年に後方宙返りを披露し、世界中を驚かせました。最近では、中国の「宇树科技(Unitree)」も後方宙返りが可能なH1を発表しています。

ですが、"前方宙返り"は後方宙返りよりも難易度が高く、ロボット業界でも初めての成功事例です。

なぜ難しいのか?
前宙は、ジャンプと空中での回転の精密な制御が必要です。特に着地の瞬間には高いバランス能力が求められ、人間でさえ難易度が高い動作です。ロボットにとっては、さらに高い制御精度と爆発力が不可欠です。

EngineAIの技術的ブレイクスルー:「軽・強・安・精」

衆擎の開発責任者・李海雷氏によれば、この難題を解決するカギは以下の4つの要素にあります。

1. 軽量化(軽)

ロボットの重量を極限まで削減。特に全体重量の50〜60%を占める関節部を自社開発し、軽量かつ高出力化に成功。新素材も導入することで、動作の俊敏性を確保。

2. 爆発力(強)

関節の瞬発的な出力(トルク)を強化し、跳躍に必要な力を生み出します。

3. 安定性(安)

空中での姿勢制御と、着地後に即座に歩行モードに切り替えるために、動的運動制御システムと歩行アルゴリズムを統合。落下時の衝撃を分散させ、倒れない着地を実現。

4. 精密制御(精)

高精度センサー(IMU、力覚センサーなど)とスマート制御アルゴリズムを連携させ、関節トルクや加速度、地面からの反力などをミリ秒単位で調整。


上の記事を読むと非常に戦略的に前方宙返りを実現していることがわかります。それもこれも動画でプレゼンする際に「前方宙返りが世界で初めてできた!ボストンダイナミクスを抜いた!」とやれることで、EngineAIを見る目が変わるからです。つまり、それによって投資が集まってくるからです。別投稿でもお伝えしている通り、すでに中国のヒューマノイド企業には膨大な投資資金が集まっています。EngineAIもその仲間入りをすることでしょう。

中国ヒューマノイド企業:時価総額ランキング5社/欧米VC投資4社/売上高ランキング5社

EngineAIは2023年10月の創業で、従業員50名のスタートアップ。こういう企業が高度な動作をするヒューマノイドを開発できる背景には、中国、特に深圳のヒューマノイド部品製造エコシステムの広さ、そして奥深さがあります。

午前中にこれこれこういう部品が欲しいと言うと、午後には手元に届いていると言う記述を読んだことがあります。これがあるため試作の繰り返しで完成度を上げていく際のスピードが非常に速くなるそうです。

中国のヒューマノイド企業や部品企業も、前身は日本のガストなどでお馴染みの配膳ロボット(サービスロボット)の関連企業だったりします。数年前から商用化されている配膳ロボットの世界が現在はヒューマノイドに行き着いています。

技術革新はまだ始まったばかりなので、これからどこまで伸びるのか想像もつかないぐらいです。

日本企業は中国のヒューマノイド企業に積極的に出資するなり提携するなりして、キャッチアップを急ぐべきだと考えています。

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