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CDAOはAI戦略を担う経営の中枢へ

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生成AIの導入が加速する現在、データの価値を最大化する組織設計が経営課題として浮上しています。CDAO(Chief Data & Analytics Officer)の役割は「データを守る」から「AI戦略を牽引する」へと転換し、経営者や事業部を横断してAI価値を引き出す存在へ進化しています。

ガートナーの調査では、CDAOの70%がAI戦略とオペレーティングモデルの策定を担い、36%がCEO直下に位置づけられるなど、その影響力は年々高まっています。

今回はGartnerが2025年5月12日に発表した「Gartner Survey Finds 70% of CDAOs Are Responsible for AI Strategy and Operating Model」の資料をもとに、CDAOの背景や概要、役割進化と今後の展望などについて取り上げたいと思います。

AI戦略の中核へ――CDAOの存在感

ガートナーのCDAOアジェンダ調査(2024年9〜11月、世界504名対象)によると、CDAOの70%が自社のAI戦略と運用モデルを主導しています。データ品質やガバナンスを熟知するCDAOは、「AIの基盤」を構築・維持できる唯一の経営層として期待されています。

生成AIブームで多くの企業がPoCを量産する一方、価値創出の鍵を握るのはデータ流通とモデル運用の整合性です。CDAOは部門横断でデータを"AI Ready"に整え、アルゴリズムと事業目標を結び付ける「翻訳者」としてAI投資のリスクを低減し、投資対効果を高める役割を担います。

CEO直下へ――組織図が示す経営優先度

2025年調査ではCDAOがCEO直轄となった比率が36%へ上昇し、前年の21%から大幅に伸長しました。

背景には、AIを成長戦略の中心に据える企業が増え、CDAOが経営意思決定の初期段階から関与する必要性が高まったことがあります。CEO直下へ配置することで、データ統合予算やプラットフォーム選定に裁量を与え、組織横断の調整コストを圧縮できる効果が確認されています。

経営トップとの距離が縮まることで、AI倫理やガバナンスに関する迅速な意思決定が可能になり、規制対応や社会的信頼の向上にもつながる動きが出ています。

CDAOの将来像は3つの進化パス

ガートナーはCDAOのキャリアが「Expert D&A Leader」「Connector CDAO」「Pioneer CDAx」の三方向で進化すると予測しています。

ExpertはIT部門にルーツを持ち、企業全体のデータ基盤やBI、MDMなどを統括し、堅牢なデータエコシステムを確立します。

ConnectorはCxOと現場を橋渡しし、D&AとAIを製品・サービスに組み込みながら事業価値を拡大します。

PioneerはCDAOとCDAIOを束ねる変革リーダーとして、テクノロジーと組織変革を統合しつつ、AI倫理やセキュリティを俯瞰的に統治します。

企業は自社文化や成長ビジョンに応じて、どのモデルを中核に据えるかを見極める段階に差し掛かっています。

AI時代のCDAOに求められる資質はスキル再設計

AI戦略の推進役としてCDAOに求められるのは、データマネジメントに加え、事業モデル理解、変革リーダーシップ、ステークホルダー調整力です。

特に生成AIは分散型チームや外部API、クラウドサービスを縦横に組み合わせるため、技術選定とリスクガバナンスを同時に設計する能力が欠かせません。

また、AI倫理や透明性を巡る社会的議論が活発化する中、CDAOは説明責任を果たす"信頼の番人"として、モデル監査や責任追跡の仕組みを経営会議へ提案する姿勢が求められています。

今後の展望

ガートナーは「2027年までにAI成功に不可欠と見なされないCDAOの75%がCレベルの座を失う」と予測しています。

CDAOの役割は、AI価値創出に貢献し、経営中枢で存在感をさらに強めていくことが求められています。

国内外でAI規制や業界標準の策定が進むほど、データ起点の戦略とガバナンスの重要度が増し、CDAOが牽引するAIオペレーティングモデルが競争優位の源泉になります。

今後は、

①ビジネス成果と生成AI活用の因果関係を定量化する指標設計
②AI倫理フレームワークを組織文化に根付かせる教育体系
③AIサプライチェーン可視化

といった領域でCDAOへの期待が高まるでしょう。

変革の主戦場は「技術」から「統治」へ移る中、CDAOはAI時代の新たな座標軸を描く舵取り役として、経営と社会を結ぶ触媒となることが求められています。

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