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マーケティング予算はなぜ増えないのか?

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生成AIの急拡大とデータドリブン経営の浸透で、マーケティング部門には売上成長をけん引する役割が求められています。しかし、企業財務は楽観できません。

Gartnerの最新調査によると、2025年の平均マーケティング予算は売上高比で7.7%と前年と同率にとどまりました。インフレと金利高によるコスト上昇に直面し、CFOは慎重な支出管理を優先しています。かつて10%台だった水準は回復の兆しを見せず、CMOは「同じ予算でより多くの成果」を迫られています。

今回はGartnerが2025年5月12日に発表した「Gartner 2025 CMO Spend Survey Reveals Marketing Budgets Have Flatlined at 7.7% of Overall Company Revenue」の資料をもとに、予算が増えない背景、AI時代の生産性向上策、そして今後の展望を解説します。

停滞するマーケティング予算の実像(約370字)

Gartnerのデータによると、売上高比のマーケティング予算は2019年の10.5%から2021年には6.4%へ急落。その後に小幅回復したものの、2024年と2025年は7.7%で足踏みしています。

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出典:Gartner 2025.5

業績不確実性と資本コスト上昇を背景に、財務部門は販売費の伸長に慎重姿勢を崩していません。株主還元圧力の強い北米企業では、減価償却やR&Dに優先順位が置かれ、ブランド投資の拡大は後回しになる傾向があります。結果としてCMOは、投資対効果(ROI)の即時可視化を求められ、短期成果が出にくいブランド構築活動を提案しづらい構造が続いています。

投資配分の変化とペイドメディアの重み

調査では予算の30.6%がペイドメディアに充てられています。しかし広告単価の上昇が進み、同一費用あたりのインプレッションは年々縮小しています。MarTech投資や自社人件費は、生成AIを活用した業務効率化によって比率が低下しています。短期指標で成果を示しやすい運用型広告への依存は高まる一方で、顧客体験全体を俯瞰した戦略的投資は後手に回る傾向が強まっています。

AIとデータ分析で生産性を引き上げる

CMOの41%が「データ・アナリティクスによるパフォーマンス最適化」を、40%が「AIによる主要タスクの自動化」を上位施策に選択しました。

生成AIはコンテンツ生成やキャンペーン設計を短時間で実現し、49%が時間効率、40%がコスト効率の向上を実感しています。さらに27%が「処理可能な案件量の増加」を挙げており、定常業務の自動化によって人員は戦略立案や顧客理解へシフトしているといいます。

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エージェンシーと人員コストの見直し

生成AIの導入に伴い、39%のCMOがエージェンシー費を削減する計画です。不採算契約の打ち切りやスコープ再交渉により、外部委託コストを圧縮する一方、クリエイティブや戦略系の内製化を進めています。同様に39%が人件費削減を検討するとの回答で、重複するポジションの統合や役割再設計が進行中といいます。

日本企業への示唆とリスク

円安に伴う広告費高騰と労務費上昇により、国内企業は世界平均以上のコスト圧力にさらされています。実際には売上高比5%未満にとどまる中堅企業も多く、リーチ不足が成長の制約となっています。

その一方で生成AIでコンテンツ制作と分析を高速化し、海外展開を加速する企業も登場しました。これからのマーケティングには、①顧客ジャーニーに沿ったパーソナライズ施策の高速実装、②統合データ基盤によるインサイト獲得、③社外パートナーシップなどの再構築が求められています。また、ROIを定量的に可視化し、経営層へ示すストーリーテリング力がCMOに求められています。

今後の展望

マーケティング予算が再び二桁に戻る兆しは薄いものの、AI活用による生産性向上は指数関数的に進むと見込まれます。生成AIのマルチモーダル化と低コスト化が進めば、顧客体験向上のための施策をこれまで以上に少ないコストで実現できる可能性があります。一方で、AIの透明性確保やデータプライバシーへの対応は規制強化の動きを受けて重要性が増すでしょう。

今後、CMOの使命は"リーン・マーケティング"モデルを確立し、財務健全性と顧客価値を両立させることにあります。生成AIとデータ分析を核に、競争優位へ転換できるか、次世代CMOの役割は大きく変化していくかもしれません。

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