読後メモ:「富裕層の財布」
「富裕層の財布」
三浦 展/プレジデント社
少し前に目を通しました。言うまでもなく「下流社会」の著者による富裕層マーケティング本です。富裕層マーケティング本も、オリジナルな統計調査を行って、その結果を元に書かれているものと、自分の経験や見解を元に書いているものの2つに大別できますが、本書は前者。富裕層関連のマーケティングデータが入手しにくい現況にあって、かなり便利な本です。お得。
ここでは最後の第三章「富裕層攻略のためのマーケティングコンセプト」から少しだけメモ。
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二章で見てきたように、現代の富裕層は有閑階級ではない。忙しく働いていて、暇がない。だから、年収や資産は多いが、消費するための時間的ゆとりがない。
しかも、働く女性の増加により、女性の富裕層が増えている。結果、夫婦共働きの富裕層も増えている。共働きは家事に手が回らない。時間的ゆとりがないのである。
中略
だから、彼らにもっと消費をしてもらうためには、手間暇かからないことが必須である。じっくり時間を掛けて選ぶ暇は彼らにはない。
よって、「御用聞き」的なサービスが必要になる。
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富裕層マーケティング本複数に目を通すと、富裕層は大きく、既存のタイプの富裕層(真性富裕層と呼ばれることが多い)と、新しいタイプの富裕層(新富裕層、新世代富裕層などと呼ばれる)の2つに分かれるようです。時間がないというのは、特に後者ですね。
時間マーケティング的な文脈で役に立つ最近の情報には、「日経ビジネス」2007年11月19日号特集「医療、IT、百貨店…緩急で生む消費 狙え!時間賢者」があります。
以下はインターネットにおける情報提供に関する三浦氏の提言。
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もちろん、インターネット時代であるから、インターネットによる情報提供も必要である。
しかし、忙しい富裕層はインターネットで情報を検索したり、情報を比較したりする暇もないと考えるべきである。ただ情報を垂れ流すだけでは意味がない。富裕層独自のポータルサイトが必要である。
中略
しかし、富裕層の場合、価格を比較する必要はあまりない。また、高額商品なのだから、機能、性能もよくて当たり前である。とすれば、デザインが気に入るとか、すでに使っている人の使い心地の評価とか、資産価値としての評価がはっきりわかればよいだろう。
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前投稿でひろやすさんからいただいたコメントに、世の中の情報は当てにしていないのに、インターネットをよく使うというのは矛盾ではないかとありましたが、新しいタイプの富裕層の人たちが実際インターネットでどのページを見ているのかは謎です。そこまで突っ込んだリサーチは、色々見渡しましたが、ありません。
従って、三浦氏の記述も推測によっていますが、
>忙しい富裕層はインターネットで情報を検索したり、情報を比較したりする暇もないと考えるべきである。
これは、あるセグメントでは当たっているとしても、別なセグメントではぜんぜんはずれている可能性があります。30代~50代前半の新しいタイプの富裕層の人たちは、検索巧者である可能性がすごく高い。特に現役ばりばりでいい仕事をしている人たちはそうだと思います。
検索によって、非常に特殊な情報源にたどりついて、そこだけは参考にしている、という情報活用スタイルを持っているのではないか?
だから、富裕層向けポータルが構築された際に、それが相応ににぎわって商売として成り立つかどうかは疑問。もっともポータル形態でなく、ロングテールを広く深く束ねるようなサイトならば成立すると思います。
>また、高額商品なのだから、機能、性能もよくて当たり前である。
これは、機能、性能をネットでじっくり比較するようなことはしない、と言っているわけですが、自分としてはこれも少し違うのではないかと思っています。
むしろ、製品のディテール情報にすごーくこだわる。カタログスペックの細かいところまでじーっとにらんで、あちらにすべきか、こちらにすべきか、あるいはこの際両方買って試そう、とか考えている気がします。後者の新しいタイプの富裕層の人たちですが。
ディテール情報にすごーくこだわるのは、やはり買った後で話がわかる知人なんかに自慢したいからです。うんちくを垂れたいわけです。
従って、富裕層を対象にした高額商品の情報提供は微に入り細にわたっていればいるほどよい。もっとも事実を脚色するような情報はダメです。