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Gartnerが示すクラウドの6つのトレンド

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クラウドはこれまで「コスト効率の高い IT 手段」として導入が進んできましたが、2025 年に入り、その役割は企業戦略を左右する「事業変革のトリガー」へと昇華しつつあります。

経営層は、拡大する AI 需要や地政学リスクへの備え、脱炭素経営への適合など、従来のクラウド戦略では想定しきれなかった課題に直面しています。こうした環境下で、Gartner はクラウドの未来を形づくる 6 つのトレンドを示しています。

今回は Gartner が 2025 年 5 月 13 日に発表した「Top Trends Shaping the Future of Cloud」の資料をもとに、その背景や概要、動向や今後の展望などについて、取り上げたいと思います。

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出典:Gartner 2025.5

1.クラウド「不満」の顕在化

これまでのクラウドへの導入の期待が高すぎた反動で、コスト肥大や運用複雑化に悩む企業が増えています。

Gartner は 2028 年までに 4 社に 1 社が「クラウド導入に大きな不満」を抱えると予測し、失敗の主因を「戦略なき移行」と「費用の管理不足」に求めています。企業は、クラウドを単なるインフラではなく「事業成果を生むプラットフォーム」と再定義し、実装段階からファイナンス部門を巻き込みながら、持続可能なコスト構造を設計することが求められています。

2.AI/ML 需要の爆発

生成 AI ブームが引き金となり、計算資源の争奪戦は激化しています。Gartner は 2029 年にクラウド計算資源の 50%が AI ワークロードに充当されると見込みます。オンプレミスの GPU サーバーを増設する判断もありますが、データの所在を考慮し「データがある場所へ AI を持ち込む」設計が重要となっています。

ハイパースケーラーは自社チップやデータセットを武器に AI 基盤を標準化し、ISV やユーザー企業との共創で付加価値を拡げています。

3.マルチクラウド疲れとクロスクラウド連携

可用性向上やベンダーロックイン回避のために複数クラウドを採用したものの、運用統合の壁に突き当たる事例が顕著になってきます。Gartner は 2029 年までに過半の企業がマルチクラウドから期待通りの成果を得られないと警告しています。鍵を握るのは「分散アプリとデータの設計思想」です。ネットワークレイヤーでの相互接続やガバナンス統一を前提に、クロスクラウド基盤を採用すると、アプリはクラウド間で協調しながら処理を分担できるといいます。

4.業界特化型クラウドへの対応

金融、製造、ヘルスケアなどの産業ドメインでは、規制や業務プロセスが複雑で、汎用クラウドでは差別化が難しい局面が増えています。Gartner によると、2029 年には半数以上の企業が業界クラウドプラットフォームでデジタル施策を加速させると予測しています。

導入効果を高めるには、既存システムを一気に置き換えるのではなく、特定業務に足りないケイパビリティをプラグインする発想が有効となります。SaaS のような利用モデルで短期に価値を確認できれば、追加投資への社内合意も得やすくなります。業界共通のデータモデルが整備されつつある今こそ、先行投資に踏み切る好機といえるのかもしれません。

5.デジタルソブリン戦略の台頭

AI モデルの学習データや機密情報を国外の法域に委ねることへの懸念が高まり、ソブリンクラウドが脚光を浴びています。Gartner は 2029 年に多国籍企業の半数超が「デジタルソブリン戦略」を策定すると予想します。求められるのは、データの所在や暗号化レベルを可視化し、規制別にアクセス権を細分化するガバナンスへの対応です。

そのうえで、リージョン限定サービスやパートナーシップ型主権クラウドを組み合わせ、業務ごとに最適配置を行う設計が求められています。国内外のリーガルリスクを踏まえ、クラウドポリシーを定義し直す動きが加速しています。

6.サステナビリティが求める投資規律

COP28 以降、テクノロジー投資と環境目標の整合性は企業評価の重要指標となりました。AI ワークロードの電力消費増が指摘される中、クラウドベンダーと利用企業の双方に説明責任が及びます。Gartner は 2029 年に調達プロセスでサステナビリティを優先する企業が 50%を超えると推測しています。

脱炭素電力調達、冷却技術イノベーション、ワークロード最適化などの打ち手を総合的に評価し、クラウド選定に「炭素 ROI」という新たな指標を組み込むことが求められています。

今後の展望

クラウドは単なる IT の選択肢ではなく、企業価値を左右する経営の"重心"へと変貌しつつあります。

今後 4 年で、AI 集約型ワークロードの急拡大がクラウド基盤を再編し、クロスクラウド連携と業界プラットフォームが「データとアプリの最適配置」を標準化すると見込まれます。

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