AIはインフラ先行型から統合プラットフォームへ
デジタル競争軸が劇的に進化するなか、アジア太平洋地域(中国・日本を含む)ではAIと生成AIへの投資が過去に例を見ないスピードで拡大しています。
IDCの最新調査によると、同地域のAI関連支出は2028年に1,750億ドルへ到達し、2023~2028年の年平均成長率(CAGR)は33.6%に達する見込みです。中でも生成AIは59.2%という驚異的なCAGRで伸び、2028年に545億ドルへ拡大、AI全体の約3割を占めると予測しています。
実証段階を超えた企業は、顧客接点から業務自動化、サイバーセキュリティに至るまでAIを本格実装し、収益モデルそのものを再設計しつつあります。
今回はIDCが2025年4月24日に発表した「Worldwide AI and Generative AI Spending Guide」をもとに、同地域におけるAI投資の背景、産業別動向、主要ユースケース、今後の展望について取り上げたいと思います。
インフラ先行型から統合プラットフォームへ
2024年はAIインフラへの投資が顕著でした。クラウドGPUや専用データセンターを整備し、モデル開発に備える"土台づくり"が優先されたためといいます。IDCは2025年を「統合AIプラットフォーム元年」と位置付けています。
開発・推論・ガバナンスを一気通貫で管理するフレームワークが普及し、予測・生成・最適化モデルを横串で制御することで、運用コストを抑えつつ、AIエージェントを迅速に商用化できる環境が整いつつあるといいます。つまり、ハード偏重からソフトウェア主導へ軸足が移り、企業価値の源泉は「モデルの質と統合度」に収斂していくといいます。
ソフトウェア産業が市場牽引
2025年の産業別支出トップは「ソフトウェア・情報サービス」で368億ドル、全体の4割強を占めます。AI開発基盤やデータパイプライン整備が急務となり、クラウド事業者とSaaSベンダーが巨大な商機を握ります。
金融業は67億ドルで2位にランクイン。取引モニタリングや不正検知、パーソナライズド・バンキングがROIをけん引し、CAGRは34.2%と堅調です。
通信(60億ドル)や小売(43億ドル)も、ネットワーク最適化や需要予測を武器に伸長。プロフェッショナル&パーソナルサービス(38億ドル)は高度分析をコンサルに組み込み、付加価値を高めます。いずれの業界も30%台の高成長を維持しており、投資余地はまだ大きいといえます。
出典:IDC 2025.4
ユースケース別視点:顧客体験と業務自動化が成長エンジン
IDCが抽出したユースケース上位10件の平均CAGRは33.6%ですが、生成AIを核にした顧客接点領域が抜きん出ています。バブルチャートで最大規模を示すAIインフラプロビジョニング(市場シェア約37%)は、ハード・クラウド投資の要として依然重要です。
一方、最も高い成長率を示すのが「拡張型コンタクトセンター&フィールドサービス」「ガイド付きセリング」「IT最適化」など、顧客対応と運用効率を両立させる分野です。
生成AIによる自然言語応答やコード自動生成が、従来のRPAを凌駕する効果をもたらし、人手不足解消にも寄与。また、防衛・公共安全分野ではリアルタイム解析と脅威予測が採用を押し上げ、ガバメントテックの推進力となっていくと予測しています。
出典:IDC 2025.4
課題:データ品質と責任あるAIガバナンス
急速な投資拡大の裏側で、データ品質と説明責任を確保するガバナンス体制が追い付いていない現実があります。企業は大量データの取得・統合に注力するあまり、権利処理やバイアス検証が後回しになりがちです。
さらに、生成AIモデルは"幻覚"リスクを抱え、誤情報が顧客体験や意思決定を損なう恐れもあります。
各国当局もAI規制を整備中であり、コンプライアンス違反は事業継続に直結するリスクとなります。そのため、モデルのライフサイクル全体を監査し、透明性を担保する統合プラットフォームが不可欠となります。企業は「ガバナンス・レディ」を標準要件として投資計画を立案し、戦略的パートナー選定を進める必要があります。
今後の展望
2026年以降、アジア太平洋のAI市場は"エコシステム競争"に移行していくと予測しています。単独企業ではなく、業界横断でデータとモデルを共有し、ユースケースを共同開発する動きが活発化していくとの予測しています。
生成AIは単なる文章生成を超え、設計・試験・保守を一気通貫で自動化する「AIエンジニアリング」領域を切り拓いていく可能性を秘めています同時に、地域発電・ネットワーク最適化といった社会インフラへの応用も進み、サステナブル開発目標と企業の成長を両立させる枠組みも整備されていくでしょう。
鍵となるのは、データ連携を支える信頼基盤と標準化された統合プラットフォームの早期整備です。投資の主戦場は技術そのものではなく、アライアンスとガバナンスを制する企業が市場をリードしていくのかもしれません。