5兆円突破へ:国内データセンターサービス市場拡大
近年、AIやビッグデータなどへの注目度が高まるに従い、国内外でデータセンター需要が拡大しています。IaaS/PaaSといったクラウドサービスを中心に、さまざまな企業が自社のIT基盤を大規模データセンターへ移行しはじめました。
背景には、生成AIの登場による並列計算処理ニーズの急拡大もあり、高性能GPUサーバーをはじめとするハードウェア投資が急増しています。一方で、大規模化に伴う運営コスト上昇や電力確保、冷却対策といった課題も顕在化しつつあります。
富士キメラ総研が2025年3月24日に公表した『データセンタービジネス市場調査総覧 2025年版 市場編』をもとに今回はデータセンターサービスの国内市場動向について、取り上げたいと思います。
クラウド需要がのデータセンター市場拡大をけん引
国内のデータセンター市場は、企業や公共団体のクラウド活用が広がるにつれて拡大傾向にあります。IaaS/PaaSを活用したシステム構築が一般化したことで、IT基盤を自前で保有せず、必要なときに必要なだけリソースを利用するスタイルが主流となりました。これにより物理的なサーバーを置く代わりにクラウドサービスを使う企業が増え、結果としてデータセンター全体の需要も増大しています。
日本独自の法規制やデータ主権への配慮が求められる場面では、国内事業者が運営するデータセンターが選ばれやすい傾向があります。ガバメントクラウドなど公的機関での利用も拡大しており、信頼性やセキュリティを強みにした国内データセンターへの需要は今後も伸び続ける見通しです。
GPUホスティングとハウジングの変化
一時低調だったホスティングサービスは、GPUホスティングという新しい需要を取り込むことで盛り返しています。生成AIなどの大規模な並列計算を要する開発においては、クラウド型でGPUリソースを利用できる大きなメリットがあります。今後はPoC(概念実証)での活用や、大手企業がトライアル的にAIソリューションを検証する段階でも需要が期待されます。
一方、独自のAIシステムを構築したい企業がハウジングを選ぶケースも増えています。セキュリティ面やレイテンシ低減を重視した閉域接続が主流となり、大容量回線でオンプレミス環境を運用しつつ、クラウドと連動させるハイブリッド戦略を採用する動きが進んでいるためです。
ハイパースケールDCの進展と地域分散
ハイパースケールDCの新設は国内のデータセンター市場の拡大に大きなインパクトをもたらしています。メガクラウドベンダーの投資によって関東や関西の大都市圏が中心となりつつも、地方への分散も少しずつ進んでいます。災害リスクの分散や土地コスト・電力コストの最適化を狙い、北海道や広島県、和歌山県などに新たなデータセンターが計画される事例も出てきました。
一方、地方展開には、電力供給や通信インフラの整備が重要となります。地価が安い場所であっても高圧電力設備が整備されていなければ、十分なサービス提供が難しくなります。
GPUサーバーの需要と冷却技術の進展
生成AIを支えるために必要なGPUサーバーは、AI研究機関やIT企業だけでなく、多種多様な分野で引き合いが強まっています。GPUは高い並列演算能力を備えているため、数十台以上のスケールで導入すれば膨大な処理を一気にこなせます。しかし同時に高発熱であることから、大規模化するほどデータセンターの冷却課題が深刻化します。
この課題の解決策として注目されているのが液冷技術です。従来は空冷方式が主流でしたが、GPUの発熱量増大に伴い、液冷による効率的な温度管理が必要とされるようになりました。冷却塔やリアドア型空調機、InRow型空調機など、次世代冷却システムの市場も拡大しており、性能・コスト・環境負荷のバランスをどう最適化するかが各社の競争ポイントとなっています。
今後の展望
クラウドやAIの普及にともない、国内のデータセンター市場は成長を続ける見込みです。市場規模は2029年に5兆4,036億円に達すると予測されており、ハイパースケールDCの増設やGPUサーバーの急速な需要増など、新たな要因が市場を押し上げています。一方で、建設費や電力、冷却コストの負担増は避けられず、環境負荷や地域インフラとの調整をめぐる課題が顕在化しはじめています。
今後は政府の支援策や電力会社、自治体との連携がさらに進む可能性があります。ガバメントクラウドへの移行やソブリンクラウドの利用が広がることで、大企業や公共団体がIT基盤を国内のデータセンターに置く動きも加速するでしょう。
そして、生成AI分野の成長や電力供給、冷却技術の革新などが複雑に絡み合いながら、さらなる市場成長が見込まれるところです。
出典:富士キメラ総研 『データセンタービジネス市場調査総覧 2025年版 市場編』2025.3