半導体Foundry 2.0市場、AI需要が牽引し2025年に11%成長へ
世界経済が徐々に回復基調にあるなか、半導体市場も大きな転換期を迎えようとしています。2024年に底を打つとみられていた需要が、AI関連の拡大や消費者向け製品の復調によって新たな成長路線へ移行しつつあります。
生産能力の拡張に加え、地政学リスクや各国の政策対応が市場動向を左右する要因として注目されています。さらに、自動車や産業機器など幅広い分野で半導体の需要が高まり、デジタル社会を支える基盤としての重要性が一段と増しています。
これらの動向は企業経営にも直結し、新しい投資機会や技術革新の波をもたらす一方、競争激化による価格プレッシャーや供給制約といった課題も顕在化しています。IDCの最新レポートをもとに、今回は半導体Foundry 2.0市場の成長動向について取り上げたいと思います。
IDC: Semiconductor Foundry 2.0 Market is Entering the Growth Phase from Recovery with 11% YoY Growth in 2025 (2025.3.24)
世界の半導体市場が迎える回復と成長
世界的な半導体需要は、2024年に一度の底を打った後、2025年には力強い成長へと移行するとIDCは予測しています。Foundry 2.0市場とは、ファウンドリ、ノンメモリIDM、OSAT、フォトマスクなどを含む広義の製造セクターを指し、その市場規模は2025年に2,980億ドルへ達し、前年比11%の成長が見込まれています。
出典:IDC 2025.3
これはAI需要の継続的な伸びに加え、スマートフォンやPCなどの従来型製品需要が徐々に回復しはじめていることが背景にあります。また、2024年から2029年にかけての年平均成長率(CAGR)は10%に達するとされ、長期的にも拡大が期待されます。
こうした回復と成長の動きは、投資家や企業の戦略に大きな影響を与え、サプライチェーン全体で新たなビジネスチャンスが生まれつつあるのが現状です。一方で、景気の不透明感や地域間の政策競争などリスク要因も依然として存在し、企業は柔軟かつ迅速な対応が求められています。
ファウンドリが主導する半導体製造の潮流
ファウンドリ分野は、半導体製造の中心的な存在として高い注目を集めています。TSMCを筆頭に、先端ノードである5nm以下のプロセス技術や、高度なパッケージング手法であるCoWoSなどを活用することで、AIアクセラレータ向けの受注を堅調に獲得しています。
その中でもTSMCは常に高水準の稼働率を維持しており、2025年にはFoundry 2.0市場におけるシェアを37%に拡大する見通しです。また、スマートフォンやテレビなどの民生向け製品が回復することで、成熟ノードを扱うファウンドリ各社にも生産量の増加が波及し、2025年のファウンドリ分野全体としては前年比18%の成長が見込まれています。
先端ノードでの価格競争力と設備投資の継続的な確保が各社の収益性を左右するため、技術開発や設備投資において大きな資本が必要です。ファウンドリ業界の優勝劣敗はますます鮮明になり、競争力の維持には絶え間ないイノベーションが求めれています。
ノンメモリIDMが直面する課題と展望
ノンメモリIDMは、自社で設計から製造までを手がける統合型のプレイヤーとしての強みを持ちながら、AIアクセラレータ向けの技術投資が十分でないことから、2025年の成長は限定的と見込まれています。
Intelは18AやIntel 3、Intel 4など先進的なプロセスを積極的に推進することでFoundry 2.0市場でおよそ6%のシェアを維持するとされていますが、依然としてファウンドリ勢の先行を許す構図が鮮明です。
一方、自動車や産業機器向けを得意とするInfineonやTexas Instruments、STMicroelectronics、NXPなどは在庫調整を終えたものの、2025年前半は需要が弱含む見通しで、後半にかけて緩やかな回復が期待される段階にあります。
こうした状況から、ノンメモリIDM全体の2025年の成長率は前年比2%にとどまると予測されており、製品ポートフォリオや新技術への対応力が今後の競争力のカギとなるでしょう。
OSATに訪れる新たなビジネスチャンス
OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)は、パッケージングやテスト工程を外部受託する事業領域として、半導体サプライチェーンを支える重要な役割を担っています。従来のパッケージングやテスト需要は鈍化傾向にありましたが、AIアクセラレータ向けの先進的なパッケージング需要が大幅に増加しつつあります。
CoWoSのような高度な技術を要するパッケージは、SPIL(ASE傘下)やAmkor、KYECなどが積極的に受注を獲得しており、業界全体の成長を後押ししています。IDCの推計では、2025年のOSAT市場は前年比8%の拡大が見込まれ、ファウンドリとの連携強化がさらに重要になっていくと考えられます。一方で、新規参入や価格競争が激化するリスクもあり、技術革新や差別化戦略をどのように進めるかが各社にとっての課題です。
半導体産業を左右するリスク
半導体産業は、世界各国の政策や地政学リスクの影響を受けやすい構造にあります。中国国内の消費喚起策や、米国の工場建設補助金、さらに米中間の貿易摩擦がもたらす追加関税などは、市場に大きな波紋を広げる要因となっています。
これらの政策は生産拠点の最適化や設備投資計画に直結し、企業のサプライチェーン戦略にも影響を与えます。また、新規生産能力の立ち上げによる供給過多リスクも顕在化しつつあり、特定の分野では需要と供給のミスマッチが生じる可能性があります。
一方で、AIやIoTなどの新技術が生み出す需要増によって、全体としては拡大傾向が続く見通しです。こうした複雑な環境下で、企業は柔軟なリスク管理と戦略的な投資が求められています。
今後の展望
2025年以降、Foundry 2.0市場はAI需要のさらなる拡大とともに高度化が進むと予測されます。先端ノードや先進パッケージングへの投資は、より多くの企業や国が参入を試みることで一段と激化する可能性があります。
IDCの分析によれば、2024年から2029年の年平均成長率は10%に達すると見込まれ、AIや自動車分野をはじめとする幅広い用途が市場を牽引することが想定されます。
さらに、クリーンエネルギーやスマートシティなど新たな応用分野が拡大することで、半導体の需要は多層的に増大する見通しです。
一方で、地政学リスクや技術競争の激化、環境への配慮といった課題も山積していいます。長期的な成長を実現するには各プレイヤーが協調と競争による自社ならではの戦略を展開し、成長機会をつかんでいくことが求められています。