生成AIおよび半導体支援策の概要と狙い
国際的な競争が激化する中で、日本の潜在成長率が他国に比べて低い水準に留まっています。経済の成長に寄与する資本の不足が顕著であり、国内投資による成長基盤の強化が急務です。中でも、生成AIおよび先端半導体技術への支援が今後の産業競争力や社会課題の解決に向けて欠かせないとされています。
内閣府は2024年11月1日、「令和6年第13回経済財政諮問会議」を開催しました。今回はこの中からAIと半導体政策に焦点をあてて、政府の支援策の概要とその重要性について取り上げていきたいと思います。
生成AIおよび半導体支援策の概要と狙い
政府は、生成AIおよび半導体技術を、次世代の経済成長を牽引する基盤技術と位置づけ、今後数年間にわたって大規模で戦略的な投資支援を行う方針です。
2030年までにAIおよび半導体産業全体の売上高を15兆円以上に引き上げる目標を掲げており、これにより官民合わせて約50兆円の設備投資が誘発されると期待されています。
さらに、生成AIと半導体技術の普及に伴い、約160兆円に及ぶ経済波及効果が見込まれており、日本の産業全体の競争力強化や、持続的な経済成長につながるものと見込まれています。
生成AIや半導体技術は、GX(グリーントランスフォーメーション)を含むさまざまな社会課題の解決に寄与するとされ、他産業においても広く波及効果が期待されています。
具体的には、生成AIは労働生産性の向上に貢献し、化学分子の構造最適化による新薬や新素材の開発、24時間対応のカスタマーサポート、自動コード生成など、革新的な技術活用が想定されています。高齢化に伴う人手不足が深刻化する日本においては、生成AIを活用した業務効率化が産業全体の生産性向上に不可欠な要素となっています。
国内供給力の強化とエコシステム構築の必要性
生成AIの本格的な導入には、膨大な計算資源が不可欠であり、これに対応するためには国内における半導体技術の革新と供給力強化が必要です。生成AIの競争力向上には、計算能力だけでなく消費電力の抑制も重要となっています。高性能な半導体技術が、効率的なAIエコシステムの構築に寄与し、国内外での競争力を支える鍵となります。そのため、AI専用のデータセンターや最先端の半導体製造技術を整備し、デジタル技術基盤の充実を図ることが急務とされています。
また、AI・半導体技術の供給力強化を通じ、国際的に競争力を保つためのエコシステムの構築も不可欠です。エコシステムは、AIのソフトウェアと、AI処理に特化したハードウェアが相互に円滑に機能する環境であり、産業の競争力にもつながるでしょう。例えば、医療や製造、物流、バイオテクノロジーなど、各業界でのAIの利用が加速し、安全保障や防災分野においても生成AIと半導体技術が果たす役割が高まっています。
先端的な半導体製造で大きく出遅れる日本
ロジックI.C.のノード別生産能力比率は、先端的な半導体製造における各国・地域の競争力を示しています。全体として台湾が最先端から中堅ノードまで強い存在感を示し、競争力の高さが際立っています。
40nm〜90nmの領域では、中国が27%、台湾が28%を占め、日本も18%と一定のシェアを持っています。10nm〜32nmの領域では、台湾が31%、米国が25%、中国が19%を占めており、幅広い国で競争が進んでいます。
今後の競争が加速する10nm未満の最先端プロセスでは、台湾が全体の60%を占め、次いで韓国が24%と続き、米国は16%となっています。残念ながら、先端半導体の分野では日本では大きく出遅れているのが現状です。
地域経済への波及効果と半導体産業の成長
半導体産業は、今後10年間で世界的に需要が3倍に増加すると予測されており、供給力の強化は日本経済全体の安定に直結します。この需要増に対応するため、日本政府は大規模な産業政策を推進し、地域経済における雇用創出や所得向上の面でも重要な影響を与えています。
九州地域ではTSMCの工場誘致を契機に、多くの中小企業が新工場の建設や既存設備の拡張を進めており、九州フィナンシャルグループの試算では、この投資が地域経済に与える波及効果は約11.2兆円に達するとされています。さらに、TSMCの投資を受け、同地域で68社が新たに工場を設立、または設備の増強を発表するなど、産業クラスターが形成されています。これにより、地域の平均賃金も引き上げられ、例えば熊本県では中小学校の給食費無償化など、地域の生活水準向上にもつながっています。
今後の展望と課題
半導体は、産業活動および日常生活に不可欠な基盤技術であり、デジタル社会の進展とともにその重要性は増しています。しかし、日本は半導体供給において台湾など海外に依存しており、供給が途絶した場合のGDP損失は甚大です。
こうした状況に対処するため、アメリカや欧州、中国など各国は大規模な産業政策を展開し、国内生産体制の強化に努めています。日本も同様に、半導体製造の国内回帰を推進し、供給網の強靭化を図る必要があり、これは経済安全保障の観点からも重要な課題とされています。
生成AIと先端半導体技術の発展が産業の枠を越えて社会全体に波及し、労働生産性の向上や社会課題の解決に貢献する可能性が期待されています。一方で、必要な投資を円滑に実行するための財源確保や、効果的な政策実施に向けた官民の連携が不可欠となります。
生成AIと半導体技術は、デジタル技術基盤としての役割を果たし、日本の競争力を高めるのみならず、未来の社会を支える基盤ともなり得ます。そのため、供給力強化に向けた長期的な視点での支援策が求められており、これらの先端技術分野への投資が日本経済と社会の持続的な成長に向けた確固たる基盤を築くための重要な位置づけとなるでしょう。