デジタルガバナンス・コード3.0
経済産業省は2024年9月19日、「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」を策定しました。
今回の改訂版では、2020年に発表された初代デジタルガバナンス・コード、および2022年の2.0バージョンの発展させています。企業のデジタル変革(DX)推進による企業価値向上に焦点が当てられ、データ活用、デジタル人材の育成、サイバーセキュリティの強化など、現代企業が直面する課題への対応が示されています。
本稿では、主な改訂ポイントとデジタルガバナンス・コード3.0の全体像とそのポイントについて、取り上げたいと思います。
主な改訂のポイント
今回の改訂における最も重要な点は、企業価値向上を目的とした「DX経営」を強調するため、名称に副題が追加されています。
「デジタルガバナンス・コード3.0」という名称自体が、デジタル技術を経営の中心に据えた新たな経営指針を示すものとなりました。この他、コードの内容にも大幅な改訂が加えられており、経営者が理解しやすく、実践的な内容に仕上がっています。
名称と構成の見直し
「DX経営による企業価値向上」を強調する副題が新たに追加され、企業のDX推進がもたらすメリットを明確に示すために、序文や本文の構成を整理しています。経営者がDXの重要性をより直感的に理解し、企業価値向上に向けた具体的な行動に展開できるようまとめています。
DX推進によるデータ活用とデジタル人材の強化
データは現代企業の成長において不可欠な要素となっており、企業内でのデータ活用の推進が重要視されています。また、DXの成否はデジタル人材の確保に大きく依存しており、経営層を含めたデジタルリテラシーの向上やデジタルスキル標準の導入が求められています。
サイバーセキュリティリスクへの対応強化
企業のDX推進に伴い、サイバーセキュリティリスクの高度化・複雑化が懸念されています。これに対応するため、第三者監査やサプライチェーン全体でのセキュリティ強化を求める対策が盛り込まれています。
デジタルガバナンス・コード3.0の全体像
デジタルガバナンス・コード3.0は、企業がデジタル技術を活用して社会的価値と経済的価値を同時に追求するための道筋を示す枠組みです。企業はデジタル技術の進展に対応し、データを活用することでビジネスモデルを再構築し、組織の変革を進めていく必要があります。
デジタルガバナンス・コード3.0には、DX推進が企業の価値創造にどのように寄与するかが強調され、経営者に向けた強いメッセージが含まれています。中でも「DX経営に求められる3つの視点」と「5つの柱」が新たに整理され、企業価値を高めるための具体的な道筋が示されています。
上場企業だけでなく、あらゆる規模の企業が、DXを経営戦略に組み込むための実践的な手法が盛り込まれています。
デジタルガバナンス・コードの柱立ての見直し
デジタルガバナンス・コード3.0では、従来の柱立てが大幅に見直されています。従来の「取組例」を「望ましい方向性」に統合し、経営者が理解しやすい形でコードを簡素化しています。
経営者はDXをどのように進めれば良いか、より直感的に把握できるようになっています。また、経営者は、DX戦略の策定と実行において、次の3つの視点を持つことが推奨されています。
経営ビジョンとDX戦略の連動
経営ビジョンとDX戦略が緊密に連携することで、経営環境の急速な変化に対応し、持続的な企業価値の向上を図る
As is - To be ギャップの定量把握と見直し
経営ビジョン実現の障害となるデジタル面の課題を特定し、KPIを用いて現状(As is)と目指すべき姿(To be)のギャップを把握し、DX戦略が経営ビジョンと合致しているかを継続的に確認し、適宜見直す
企業文化への定着
DX戦略は企業文化の一部として浸透する必要があり、持続的な企業価値向上とともに、経営者は、DX推進により変革をリードし、目指すべき企業文化を形成することが重要
デジタルガバナンス・コードの構成の見直し
今回、「DX経営に求められる3つの視点・5つの柱」に基づき、企業がDX推進に取り組むための具体的なフレームワークを提供しています。
企業はDXを戦略的に進め、効果的に企業価値を高めるための5つの柱は、以下の通りです。
1.経営ビジョン・ビジネスモデルの策定
企業がDXを進めるために、経営ビジョンやビジネスモデルを策定し、データ活用やデジタル技術の進化による社会や競争環境の変化に対応する
2.DX戦略の策定
経営者自らが率先してDX戦略を策定し、企業全体の組織文化やプロセスを変革するための具体的なシナリオを描く
3.DX戦略の推進
DX戦略を実行に移すため、デジタル人材の育成・確保、ITシステムの整備、サイバーセキュリティ対策などを含む全社的な取り組みが必要
4.成果指標の設定とDX戦略の見直し
企業は、DXの成果を測定するためにKPIを設定し、これを基に自己評価を行い、必要に応じてDX戦略を見直すことが重要
5.ステークホルダーとの対話
経営者が自らDXの進捗や企業価値向上に関するメッセージを発信し、ステークホルダーと積極的に対話を行う
今後の展望
デジタルガバナンス・コード3.0は、企業がデジタル変革を通じて市場での競争力を維持・向上させるための重要な参照資料となるでしょう。
中でも、生成AIの急速な進展やデータ活用の進化により、今後より高度なDX推進により、企業の競争優位性を高めていくことが求められています。
デジタルガバナンス・コード3.0で示す「5つの柱」の中で重要と考えるのは、「成果指標の設定とDX戦略の見直し」です。
・DX戦略・施策の達成度は、実施している全ての取組に定量・定性問わず、KPI(重要な成果指標)を設定し、評価されている。
・KPIとKGI(最終財務成果指標)を連携させており、実際に財務成果をあげている。・経営・事業レベルのDX戦略の進捗や成果把握を即座に行うことができる。
・経営者が事業部門やITシステム部門等と協力しながら、デジタル技術に係る動向や自社のITシステムの現状を踏まえた課題を把握・分析し、DX戦略の見直しに活用している。
・企業価値向上のためのDX推進に関して、取締役会・経営会議で報告・議論されている。
・取締役会設置会社の場合は、取締役に対してDXに関する研修等の教育機会を提供し、取締役のモニタリング能力の向上を図っている。
・取締役会設置会社の場合は、取締役会が経営陣によるDX施策の執行に対して定期的にモニタリングを行うとともに、取締役会の意見を踏まえて経営陣がDX戦略の見直しを行っている。
企業は、デジタル技術を単なるツールとして捉えるのではなく、経営の中心に据えた戦略的な取り組みを行うとともに、絶えずDX戦略の見直しを行う必要があります。経営者のリーダーシップと柔軟なデジタル対応が、市場での競争優位を維持するためのカギとなるでしょう。