オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

地域公共交通の「リ・デザイン」 ~「交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会」最終とりまとめ

»

国土交通省は2023年6月30日、「地域公共交通の「リ・デザイン」~「交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会」最終とりまとめ~」を公表しました。

地域公共交通の「リ・デザイン」の実現に向けた新たな制度的枠組み等に関する基本的な考え方をまとめています。

ここでいう「リ・デザイン」とは、地域の関係者間の共創を促進することにより、地域公共交通の利便性・持続可能性・生産性を向上する取組みを指すものです。

地域公共交通は、国民生活や社会経済活動を支える社会基盤である。一方で、人口減少や少子化、マイカー利用の普及やライフスタイルの変化等による地方部を中心とした長期的な需要減に加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、多くの事業者が深刻な経営状況に陥ったこともあり、その持続可能性と利便性の回復が課題となっています。

国土交通省に設けられた「アフターコロナに向けた地域交通の「リ・デザイン」有識者検討会」(令和4年8月 26 日 取りまとめ)では、地域公共交通ネットワーク全体について、自動運転や MaaS などの「交通 DX」、車両の電動化や再エネ地産地消などの「交通 GX」、官と民の共創、交通事業者間の共創、他分野を含めた共創の「3つの共創(連携・協働)」により再構築(リ・デザイン)する必要性が示されました。

2023(令和5)年2月には「中間とりまとめ」を公表し、の「中間とりまとめ」において示した方向性や、さらなる課題の論点整理などについて、より詳細にまとめています。

これまでの交通政策の変遷

戦後の高度経済成長期、日本は鉄道、バス、タクシー、旅客船、航空などの交通分野で需給調整規制を用いて、輸送需要の増加に対応し、交通サービスの安定供給を確保していました。

しかし、自家用車の普及と交通需要の拡大により、これらの規制の有効性が低下し、新しい運輸サービスの参入が制限され、消費者の多様なニーズに対応するのが困難になりました。

この問題に対処するため、交通分野の規制が緩和され、新しいサービスや効率化が推進されました。また、バス専用レーンやノンステップバス、ICカードなどの新しいシステムの導入を支援するための政策が進みました。

2000年代以降、地域公共交通の利用が減少し、路線廃止が増えたため、地域公共交通の活性化と再生を目的とした地域交通法が制定され、地域公共交通の維持と利便性向上が推進されました。しかし、公共交通の収益性は依然として厳しく、運転手不足などの課題が浮上しています。

2020年の地域交通法改正では、自治体が主体的に公共交通の計画を策定し、交通事業者間の協調を通じて利用者の利便性を向上させる枠組みが強化された。これにより、地域公共交通は競争から協調の時代へと移行しています。

地域公共交通の現状

1990年から2020年の30年間で、地域鉄道の利用者数は39%減少し、三大都市圏以外の路線バスは64%減少しています。

この減少の一部は2020年の新型コロナウイルスの影響によるものである。コロナウイルスは、テレワークの普及など、交通の利用パターンを変え、交通事業者の経営をさらに悪化させています。

事業者の赤字が拡大し、サービスが低下する「負のスパイラル」が加速しています。また、75歳以上の高齢運転者の死亡事故率は高く、運転免許の自主返納が増えています。タクシー運転手の数も減少しており、平均年齢は上昇しています。さらに、公共交通は自家用車に比べてCO2排出量が少ないが、利用者が少ない区間ではその利点が発揮されていません。

公共交通の利用減少と事業者の経営悪化は地域社会に大きな影響を及ぼし、対策が急務であるとしています。

対応の方向性<基本的考え方>

地域公共交通は、生活の質を向上させ、安全で魅力的なコミュニティを創り出す基盤的サービスです。これは高齢者の健康や外出機会を増やし、医療費の削減、観光振興、交通事故の減少など多くの側面で社会にプラスの効果をもたらします。

また、環境にやさしいカーボンニュートラルを目指すうえでも、公共交通は重要な役割を果たします。

しかしながら、多くの交通事業者は経営が厳しく、これに対処するためには、地域全体で協力し、新技術を活用しながら地域公共交通を再設計する必要があります。

そのため、関係者の理解を深め、交通以外の分野からの投資を促すことが重要です。これは「新しい資本主義」の考え方と一致しており、官民連携を強化し、持続可能な経済社会システムの構築を目指すべきとしています。

国は、地域公共交通が解決する多様な社会的課題を考慮し、成果を評価するための指標を設定する必要があるとしています。

対応の方向性<各論>

当部会では、議論を通じて、課題と対応方向性をまとめています。

①交通政策の強化:
・地域交通法を活用し、自治体を中心に地域の交通ネットワークを検討し、実施できる枠組みを強化する必要がある。
・鉄道の役割を評価する際に、利用状況や収支だけでなく、地域経済への影響も考慮するべきである。
・バス等の運行支援制度を見直し、サービス水準の向上や効率化を促すインセンティブを含め、長期的な支援制度を検討する必要がある。
・社会資本整備、関係者との協議などを通じて、効果的な運用ができる支援制度を構築する必要がある。

②地域経営と交通の連携強化:
・地域の交通と経済活動は密接に関連しており、交通の改善が地域の活性化に必要である。
・交通ネットワークの改善と地域経営を一体として、地域の移動需要を創出するために連携を強化する必要がある。
・交通をコーディネートできる人材の育成、デジタル技術の活用など、交通サービスの持続性を確保するための取り組みが重要である。
・交通と他のセクター(医療、福祉、教育など)との連携を強化し、地域の持続可能性を高めるための取り組みが必要である。
・地域全体の持続可能性を確保するため、公共交通がもたらす外部効果を金融機関や投資家に説明し、多様な資金調達手法を開拓する必要がある。

③ 新技術による高付加価値化
新技術、特にデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)は、交通分野における便益と経営の強化に大きく寄与する可能性がある。DXの中でも自動運転技術は、人件費の削減と労働力不足の解消を通じて、交通産業に革命をもたらすかもしれない。さらに、AIによるオンデマンド交通は、少ないリソースで多くのニーズに応えるため、地域公共交通の再設計に役立つ。GXも、脱炭素化やエネルギー効率の向上を通じて、多くの利点をもたらす。しかし、自動運転の実装には、技術的課題や社会的受け入れ、インフラの整備など多くの課題がある。データの活用や新技術の導入も十分ではない。地域の課題を明確にし、新技術との適合を促進するために、データを活用した政策や、国の支援を含む積極的な取り組みが必要である。また、新技術の導入は手段であって目的ではないことを理解し、それを地域のニーズ解決に活かすべきである。

(3)政府の対応
政府は地域交通に対する緊急の対応として、地域交通法を改正し、2022年と2023年の予算で質と量の両面で大幅な支援を強化しています。

今後は、地域公共交通の「リ・デザイン」を推進するために、地方運輸局と地方整備局の連携を強化し、国土交通省の実施体制を強化するとともに、関係省庁間の協力を構築する必要があるとしています。

さらに、効果的な実施のために、施策の効果を定期的に検証し、必要に応じて見直すことが重要であり、中長期的な視点で、必要な予算を確保し、支援策を継続的に実施することが求められているとしています。

スクリーンショット 2023-07-02 17.31.00.png

対応の方向性
出典:地域公共交通の「リ・デザイン」~「交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会」最終とりまとめ~ 2023.6

ここまで、「リ・デザイン」のため、特に緊急性の高い課題について整理してましたが、地域公共交通の利便性・持続可能性・生産性をさらに高めるためには、中 長期的観点から、なお検討を続けるべき課題がある。政府は、これらについても 解決に向けた議論と努力を続けるべきであるとしています。

スクリーンショット 2023-07-02 17.32.38.png

対応の方向性
出典:地域公共交通の「リ・デザイン」~「交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会」最終とりまとめ~ 2023.6

Comment(0)