AI新時代を前提とした新たなAI国家戦略策定の必要性 -AIホワイトペーパー「~AI 新時代における日本の国家戦略~」から
自民党デジタル社会推進本部は2023年4月、『AIホワイトペーパー「~AI 新時代における日本の国家戦略~」』を公表しました。
本ホワイトペーパーは以下の3つから構成されています。
1.AI 新時代 を 前提とした新たな AI 国家 戦略の 策定の必要性
2.国内における AI 開発基盤 の育成 ・強化
3.行政における徹底した AI 利活用の推進
今回はこの中から、AI新時代における日本の国家戦略について焦点をあてて、まとめたいと思います。
2022年11月にOpenAI社が提供開始したChatGPTは、大規模言語モデル(LLM)の社会実装により、私たちの日常生活やビジネスにおけるAIの使用場面が爆発的に増えており、経済成長の起爆剤となる可能性があるとしています。
その一方で、強力なAIは大きな社会的リスクももたらすため、欧米諸国ではAIの開発促進と並行して、社会受容に向けた規制論議が加速しています。例えば、EUではリスクの程度に応じて規制内容を変える基本線に基づき法案作成が進められており、米国でも超党派で法案検討が行われています。一方で、日本ではAI開発・利用には法規制を課さず、ソフトローによって官民共同で政策ツールを策定していく方向で議論が重ねられています。
基盤モデルの開発が進展し、AIの社会実装が想定外の速度で進む現在、日本のAI市場の孤立化を招く可能性が高く、国際的な規制論議との乖離を問い直すべき時期に来ていると指摘されています。新たな国家戦略が求められるAI新時代において、日本はどのように対応していくべきかが重要な課題となっています。
本ホワイトペーパーでは、AI新時代に即した新たなAI国家戦略の策定の必要性を示しています。
日本のAI開発と利用における遅れが指摘されており、国際的なAI関連の論文数や企業でのAI導入比率でも、米中欧に後れを取っている状況が続いていると指摘しています。また、世界デジタル競争力ランキングで日本は29位に留まっており、データの利活用などの項目で最下位となっていることが懸念されています。
世界的には、AI分野への大規模な投資が加速しており、ChatGPTのような基盤モデルを活用したAI開発では、計算資源やデータの規模が性能を左右する度合いが大きくなっています。
各国政府の動きは早く、米国はAIの計算資源やデータを提供するプラットフォーム整備に26億ドルを投じる方針を表明し、英国は次世代スーパーコンピューターの開発・整備に9億ポンドを投資することを発表しています。
日本では、2019年に「AI戦略2019」が策定され、人材育成や研究開発、分野ごとの社会実装、ベンチャー支援など多岐にわたる政策が国家戦略としてパッケージ化されました。しかし、現状では新たな「AI戦略2023」の策定は予定されておらず、政府のAIに関する政策的取り組みの進捗は「統合イノベーション戦略」の一部として紹介される程度となっています。
先端技術の将来を正確に見通すことは難しいですが、新たな技術環境に適した政府の目的と目標を明確にし、柔軟かつ戦略的に国家資源を投下することが求められています。
日本は、新たなテクノロジーの潜在力を成長と社会課題解決につなげていく必要があります。
そこで、以下提言しています。
〇大規模言語モデルなど基盤モデルの AI の進化と社会実装の急速な 進展に照らし、本ホワイトペーパー記載の各種提言を踏まえ、 AI 新時代にふさわしい新たな国の基本戦略を 策定し、新た な政策の立案とこれまでの取り組みの見直しを早急に行うこと。
〇新たな国家戦略の策定にあたっては、 諸外国に比して国際的な競争優位を図る内容と規模での取り組みが必要である。 A I 政策に関する司令塔を定め、その体制拡充を図りつつ、国内外の有識者や民間事業者の知見も積極的に取り込み、研究開発、 経済構造、社会基盤、人材育成、 安全保障など幅広い観点から早急かつ総合的に施策を検討すること
本提言は、上述の問題意識を踏まえ、自由民主党デジタル社会推進本部の下に本年 2 月 3 日に設立された 「 AI の進化と実装に関するプロジェクトチーム 」(座長:平将明氏)がAI分野を牽引する有識者からヒアリング作成したものです。