人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素
経済産業省は2020年9月30日、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~」を公表しました。
今回はこの中から、「人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素」についてとりあげたいと思います。
本報告書のポイントは以下のところです。
まず何よりも、各企業の経営陣が率先して、企業理念や存在意義(パーパス)に立ち戻り、目指すべき将来のビジネスモデルや経営戦略からバックキャストして、保有する経営資源との適合性を問う必要がある。とりわけ、人的資本の観点から、そうしたビジネスモデルとのギャップを見える化し、それを埋めていくことが求められる。人材戦略を経営戦略に適合させるという一方向の見方だけでなく、人材や人材戦略自体が、経営戦略自体の可能性を広げることにも注目すべきである。こうした人材戦略と経営戦略を同期させるプロセスを通して、中長期的な企業価値の向上に努める必要がある。
本報告書では、これからのあるべき人材戦略を特徴づけるものとして「3P・5F モデル」を提唱している。3 つの視点(Perspectives)と 5 つの共通要素(Factors)に着目して、企業価値の持続的向上につながる人材戦略を策定・実行することを経営陣に求めている。
「人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素」は以下のとおりです。
3つの視点
視点①:経営戦略と人材戦略の連動
視点②:As is‐To be ギャップの定量把握
視点③:企業文化への定着
5つの共通要素
要素①:動的な人材ポートフォリオ
要素②:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
要素③:リスキル・学び直し
要素④:従業員エンゲージメント
要素⑤:時間や場所にとらわれない働き方
「人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素」について、要約すると以下のとおりとなります。
人材戦略は経営戦略やビジネスモデルに応じて個社性がある一方で、①経営戦略と人材戦略の連動、②As is‐To be ギャップの定量把握、③人材戦略の実行プロセスを通じた企業文化への定着、といった 3 つの視点から俯瞰することが可能である。
人材戦略については、①動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化(②知・経験のダイバーシティ&インクルージョン、③リスキル・学び直し、④従業員エンゲージメント)、⑤時間や場所にとらわれない働き方といった、5 つの共通要素も存在。こうした、3 つの視点(Perspectives)、5 つの共通要素(Common Factors)は、3P・5F モデルとして整理できる。
企業においては、こうした共通の要素に加え、自社の経営戦略上重要な人材アジェンダについて、経営戦略とのつながりを意識しながら、具体の戦略・アクション・KPI を考えることが有効である。
出所:経済産業省 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 2020.9.30
新型ウイルスの影響により、注目度が高まっているのが、「④従業員エンゲージメント」と「⑤時間や場所にとらわれない働き方」と考えています。
④従業員エンゲージメント
現在の経営戦略の実現、新たなビジネスモデルへの対応に必要な人材が自身の能力・スキルを発揮してもらうためにも、従業員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことができる環境を創りあげることが必要となる。
このためには、企業と個人が対等な関係の下で、一体となって、企業の成長の方向性や組織目標の達成と多様な個人の成長のベクトルを一致させていくことが重要である。これは、持続的な企業価値の向上という経営の好循環の観点からも不可欠な要素である。
企業においては、企業理念や存在意義(パーパス)、経営戦略やビジネスモデルを含めて従業員に積極的に発信・対話し、共感や納得感を得ていく取り組みを進め、定期的に状況を把握していく必要がある。特に企業と個人との間の情報の非対称性をなくし、情報をオープンにしていくことが、個の自発性を後押しすることにつながることになる。
また、出社を基本とする就業条件や画一的なキャリアパス、年次別の研修ではなく、兼業・副業、在宅勤務などの多様で柔軟な就業環境の整備、社内外を含めた多様なキャリアパス等の魅力的な就業経験や機会(EX)の提供、意欲ある個人に対する幅広い教育訓練コンテンツの提供等、多様な個人一人ひとりに向き合い、価値創造を最大化することが求められる。
となっています。
社員一人ひとりの価値創造を最大化をし、企業の成長につなげていくためには、従業員のエンゲージメントはますます重要となっていくでしょう。
⑤時間や場所にとらわれない働き方
新型コロナウイルス感染症への対応の中でも顕在化したように、いつでも、どこでも、安全かつ安心して働くことができる環境を平時から整えることが事業継続やレジリエンスの観点からも必要となる。
一方で、同じ時間や空間で働いていない多様な個人を束ねていくためには、これまで以上に、マネージャー層のリーダーシップ、マネジメントスキルが、不可欠な要素となる。特に、業務プロセス自体が見えにくくなる中で、タスクのアサインの仕方や育成・評価なども適合させていく必要があり、こうしたマネジメントに対応できるマネージャーの育成や支援が鍵となる。
また、単に在宅勤務やリモートワークを制度上可能とするだけではなく、リモートワークでも業務が完結できるよう業務プロセスの見直しや、コミュニケーションの在り方への対応が求められる。
同時に、国民生活の安定確保に不可欠な業務に従事するエッセンシャルワーカーの方への対応についても対応が求められる。このように、リモートワークを実際に行う中で顕在化してきた課題を把握し、試行錯誤しながら、課題に対応していくことが重要である。
この、「時間や場所にとらわれない働き方」はいろいろと考えるテーマとなってくるでしょう。私自身は、勤務地は東京の大手町ですが、現在は、ほぼ群馬でリモートワークをしています。チームを担当していますが、なかなか個人の顔色まで伺うのは難しいのですが、One on Oneの実施や顔をみせたチームミーティング、日々のチャットでのやりとりで、工夫をしていければ、マネジメント業務もやっていけるのではないかという感覚を持っています。
むしろ、企業の事業継続やレジリエンスの観点から、多拠点のリモート環境で働くことは、重要ではないかと考えています。まだ、リモートワークが中心となったのが、半年程度ですが、個人一人ひとりが中長期的に実践していけるものなのかは、これからの判断となるでしょう。