『オープンクラウド』の潮流
クラウドコンピューティングが本格的な普及期を向かえ、各事業者から様々なサービスが提供され、市場は急速に拡大しています。
調査会社のIDC Japanが2011年11月9日に発表した「国内クラウドサービス市場予測」によると、2010年~2015年の年間平均成長率は 41.2%、2015年の市場規模は2010年比5.6倍の2,550億円と予測しています(報道発表資料)。
本調査にでは、PaaS/IaaS上で、業務アプリケーションを稼働させるユーザーが増加傾向と予測しています。IaaSは「さくらのクラウド」に代表されるように低価格化が進み、一つの装置産業となっていくと考えられます。そのため、差別化による競争優位を確保するためには、クラウド管理レイヤPaaSレイヤに軸足が移し、クラウドエコシステムを形成していくことが重要になってくと予想されます。
また、IDC Japanでは、ユーザー企業はベンダーロックインに対して、過剰に反応する必要はないとも指摘し、以下のとおりコメントしています。
徹底した情報の開示や業界標準アーキテクチャの採用は、ロックインに対するユーザー企業の懸念を緩和し、ベンダーの競争力強化に有効である。また、ロックインの懸念を上回る圧倒的な優位性、たとえば経済性や革新的なサービスの提供も、クラウドサービスの事業拡大には求められる
情報開示の徹底や業界標準の流れが加速化していくことが予想されますが、その中で、「デファクト標準」、「デジュール標準」、そして「オープンソース」の三つも動きが、クラウド業界標準の覇権争いをしていくと考えられます。
「デファクト標準」の動きとしては、
- OGF(Open Grid Forum)
- SNIA(Storage Networking Industry Association)
- DMTF(Distributed Management Task Force)
- CCIF(Cloud Computing Interoperability Forum)
- OCC(Open Cloud Consortium)
- CSA(Cloud Security Alliance)
- GICTF(Global Inter-Cloud Technology Forum)
など、サービス監視やリソース管理、相互運用アーキテクチャやセキュリティなどにおいてデファクト標準の取り組みかが進められています。
「デジュール標準」については、
- ITU-T FG Cloud(Focus Group on Cloud Computing)
- IEEE CCSSG (Cloud Computing Standards Study Group)
- ISO/IEC JTC1 SC38 (Distributed application platforms and services)
などが活動を推進しています。
一方、Amazonなどのクラウドネイティブの事業者は、これらの標準化の活動や策定には参加せず、独自APIを展開しています。AmazonはクラウドのIaaS市場において圧倒的なシェアを誇っており、実質のデファクト化が進んでいます。クラウド事業者の多くは、Amazonの互換APIや管理レイヤでマルチクラウドに対応するサービスやソリューションを提供することで、Amazonとの共存を模索しています。
「オープンソース」については、
オープンソースの流れも進んでいます。代表的な取り組みはクラウドプラットフォームのオープンソースプロジェクト「OpenStack」です。「OpenStack」は、「Nova」を公開し、開発コミュニティでの議論や検討が進められています。
IaaSではその他に「CloudStack」があげられます。 「CloudStack」は、操作性の良いGUI(Graphical User Interface)が標準装備されているのが特徴で、GUIのカスタマイズも可能です。また、XenServerやVMwareやKVMなどのマルチハイパーバイザーにも対応しています。「CloudStack」はCommunity Edition を中心にオープンソースコミュニティでも活動が活発です。
すでに日本国内ではIDCフロンティアなどがCloudStackを採用したパブリッククラウドを提供し、プライベートクラウドを構築するソリューションベンダなども増加傾向にあります。OpenStackやCloudStackを採用したIaaSレイヤにおけるデファクト化の流れも十分に考えられるでしょう。
PaaSレイヤにおいては「CloudFoundry」や「OpenShift(今後オープンソース化を計画)」などがあげられます。PaaSレイヤではRubyやJavaなどのプログラム言語も重要になってきます。「CloudFoundry」に関しては、すでに楽天が既にCloudFoundryをベースにPaaSクラウドを構築中であることを「vForum2011」で明らかにするなど、採用も始まりつつあります。11月17日には「第2回 CloudFoundry輪読会」が開催される予定で「CloudFoundry」のコミュニティも活発化しています。
その他、ソフトウエアでネットワークの集中制御を可能にするネットワークの仮想化の「OpenFlow」も注目を集めています。先日、オープンクラウドキャンパスクラウドネットワーク研究会にて「OpenFlow」をテーマに勉強会が開催され、活発な情報交換が行われています。クラウド市場成長が進む中で、クラウド時代に対応したネットワークのあり方も今後さらに議論や検討が進んでいくことでしょう。
『オープンクラウド』の潮流
クラウドコンピューティングの市場成長に伴い、クラウドを複数に連携させるマルチクラウドやハイブリッドクラウドへのニーズが高まり、情報の開示や標準化の流れが加速化していくことが予想されます。クラウドの進化が急速に進む中で、デジュール標準などの対応では市場スピードに追いついていくことが難しい可能性もあり、コミュニティをベースとしたオープンソースのクラウドが存在感を高め、デジュール標準やデファクト標準の動きと連携しながら『オープンクラウド』の潮流が一気に進んでいく可能性があるでしょう。
※担当キュレーター「わんとぴ」
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