社会保障・税番号大綱(案)について
政府の「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」は2011年6月28日、「社会保障・税番号大綱(案) 」をまとめました。国民一人ひとりに年金、医療、介護保険、福祉、労働保険、税務などの情報を一元管理する共通番号を割り振るとしています。
6月30日に政府・与党の「社会保障改革検討本部」で正式決定し、今秋にも関連法案を国会に提出する方針で、番号は2014年6月に交付し、15年1月の利用開始を目指しています。
基本的な考え方をまとめた資料が以下の「社会保障・税番号大綱(案)(PDF) 」です。
以下、内容を整理させていただきます。
番号制度導入の背景には、
少子高齢化(高齢者の増加と労働力人口の減少)
格差拡大への不安
情報通信技術の進歩
制度・運営の効率性、透明性の向上への要請
負担や給付の公平性確保への要
課題には、
複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤がないため、
税務署に提出される法定調書のうち、名寄せが困難なものについては活用に限界
より正確な所得・資産の把握に基づく柔軟できめ細やかな社会保障制度・税額控除制度の導入が難しい
長期間にわたって個人を特定する必要がある制度の適正な運営が難しい(年金記録の管理等)
医療保険などにおいて関係機関同士の連携が非効率
養子縁組による氏名変更を濫用された場合に個人の特定が難しい
などがあげられています。
番号導入の理念としては、
より公平・公正な社会の実現
社会保障がきめ細やかかつ的確に行われる社会の実現
行政に過誤や無駄のない社会の実現
国民にとって利便性の高い社会の実現
国民の権利を守り、自己情報をコントロールできる社会の実現
導入の効果としては、
番号を用いて所得等の情報の把握とその社会保障や税への活用を効率的に実施
真に手を差し伸べるべき人に対しての社会保障の充実
負担・分担の公正性、各種行政事務の効率化が実現
IT化を通じ効率的かつ安全に情報連携を行える仕組みを国・地方で連携協力しながら整備し、国民生活を支える社会的基盤を構築
ITを活用した国民の利便性の更なる向上も期待
となっています。
番号制度で何ができるのか
番号制度の導入によって、以下の6つのことが実現できるとしています。
(1)よりきめ細やかな社会保障給付の実現
「総合合算制度(仮称)」の導入
高額医療・高額合算制度の現物給付化
給付過誤や給付漏れ、二重給付等の防止
(2)所得把握の精度の向上等の実現
(3)災害時における活用
災害時要援護者リストの作成及び更新
災害時の本人確認
医療情報の活用
生活再建への効果的な支援
(4)自己の情報や必要なお知らせ等の情報を自宅のパソコン等から入手できる
各種社会保険料の支払や、サービスを受けた際に支払った費用(医療保険・介護保険等の費用、保
育料等)の確認
制度改正等のお知らせ
確定申告等を行う際に参考となる情報の確
(5)事務・手続の簡素化、負担軽減
所得証明書や住民票の添付省略
医療機関における保険資格の確認
法定調書の提出に係る事業者負担の軽減
(6)医療・介護等のサービスの質の向上等
継続的な健康情報・予防接種履歴の確認
乳幼児健診履歴等の継続的把握による児童虐待等の早期発見
難病等への医学研究等において、継続的で正しいデータの蓄積が可能となる
地域がん登録等における患者の予後の追跡が容易となる
介護保険被保険者が異動した際、異動元での認定状況、介護情報の閲覧が可能となる
各種行政手続における診断書添付の省略
年金手帳、医療保険証、介護保険証等の機能の一元化
特に、近々の議論の焦点となるのは、災害時における活用でしょう。日本経団連では7月1日、共通番号制度を被災地で前倒し導入し、データベースを整備したうえで「電子被災者カード」を配布するよう提案をしています(関連記事)。
本大綱の本部においても、今後の被災者の生活再建には、中長期的な取組が必要であり、番号制度の迅速な導入は、これに資するものと考えられるとしています。今後起こり得る大災害にあらかじめ備え、実際の災害発生時に即応でき、復興再建の局面でも効力を発揮するよう、防災福祉の観点からも、番号制度の在り方を考える必要がある。 としています。
番号制度に必要な3つの仕組み
番号制度に必要な3つの仕組みには「付番」「情報連携」「本人確認」の3つがあげられています。
付番
新たに国民一人ひとりに、唯一無二の、民‐民‐官で利用可能な、見える「番号」を最新の住所情報と関連づけて付番する仕組み
情報連携
複数の機関において、それぞれの機関ごとに「番号」やそれ以外の番号を付して管理している同一人の情報を紐付し、紐付けられた情報を活用する仕組み
本人確認
個人や法人が「番号」を利用する際、利用者が「番号」の持ち主であることを証明するための本人確認(公的認証)の仕組み
本人確認については、ICカードを利用し、ICカードの券面に基本4情報と呼ぶ氏名、生年月日、性別、住所と顔写真を記載し、ICチップに番号を記録するとしています(関連記事)。
安心できる番号制度の構築
安心できる番号制度の構築にあたっては、
国家管理(一元管理)への懸念
名寄せ・突合により集積・集約された個人情報の漏えい等の危険性への懸念
不正利用による財産的被害発生への懸念
などの懸念に対しての解決をしていく必要があります。
制度上の保護措置としては、
• 第三者機関の監視
• 法令上の規制等措置(目的外利用の制限、閲覧・複写の制限、告知要求の制限、守秘義務等)
• 罰則強化 等
システム上の安全措置としては、
• 「番号」に係る個人情報の分散管理
• 「番号」を用いない情報連携
•個人情報及び通信の暗号化
•アクセス制御 等
などがあげられています。
住民基本台帳ネットワークシステム最高裁合憲判決(最判平成20年3月6日)を踏まえた制度設計も必要となってきます。
今後のスケジュール
番号制度の導入時期については、制度設計や法案の成立時期により変わりうるものであるが、以下を目途としています。
H23年秋以降 可能な限り早期に番号法案及び関係法案の国会提出
法案成立後、可能な限り早期に第三者機関を設置
H26年6月 個人に「番号」、法人等に「法人番号」を交付
H27年1月以降 社会保障分野、税務分野のうち可能な範囲で「番号」の利用開始
H30年を目途に利用範囲の拡大を含めた番号法の見直しを引き続き検討
以上が大綱案の概要となりますが、災害対応に関しては、重要な位置づけとなると考えていますので、本文からも引用をしてみたいと思います。
① 災害時要援護者リストの作成及び更新
要介護認定や障害等級等の情報等、分野横断的に要援護者の情報を集約できるとともに、各種個人情報に変更等が生じた場合にも迅速なリストの更新が可能となる。また、他市町村からの転入者が要援護者であった場合、市町村を越えての情報のやり取りが容易になる。さらに本人同意の下、服薬情報等もリストに掲載し、医療機関等とも連携を図ることができれば、仮に震災等の災害が起きたときにも、避難所等への効率的な医薬品配給や医療の提供に寄与する。
② 災害時の本人確認
被災住民が避難所等で自己の4情報(氏名、住所、生年月日及び性別をいう。以下「基本4情報」という。)及び「番号」を告知することにより、迅速に避難者リストの作成が可能になる。さらに、地方公共団体の独自の取組として、本人の同意を前提に、顔写真データを地方公共団体が保有する仕組みを設けることも考えられる。
③ 医療情報の活用
災害に伴いかかりつけの病院が被災し、個々人の医療情報が滅失する可能性がある。このため災害時における特段の措置として、保険者が保有するレセプト情報を医療機関等が「番号」を基に確
認できるようにすれば、継続的、効果的な医療支援を行うことができる。
④ 生活再建への効果的な支援
被災者生活再建支援金等の申請に当たって、必要な証明書等の添付書類が不要になるなど支援金等の迅速・適正な支給が可能になる。また、援助対象者を長期にわたって把握することが可能になることから、被災地市町村から転出した場合にも、必要な支援を継続して行うことが可能になる。さらに、震災等の異常事態発生時には、金融機関から被災者への預金の払戻し等を「番号」を活用してスムースに行うことも可能とする。
以上のように、災害時の対応においては、要支援者リストの作成や災害時の本人確認、医療情報の活用、そして、生活再建への効果的な支援といったように、非常にメリットの高いものになると考えられます。そのため、まず被災地を中心に前倒しで導入検討を進めていくというのも選択肢の一つとして考えられるでしょう。
税と社会保証に関する取り組みは、今回の震災により、その重要性が再認識されたところもあり、ICTの活用も大きなポイントになってきます。予定どおり2014年6月から番号が付与され、活用されていくのか、残された時間は多くはなく、今後の具体的な導入に向けた取り組みの行方が注目されるところです。
※「わんとぴ」キュレーター担当しています
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