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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

スマートシティの方向性とクラウドの役割

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2010年はクラウドコンピューティングが注目され、今年は実際に導入・検討する企業ユーザも増えていくことが予想されます。ITベンダ各社は「クラウドビジネスモデルの選択肢」でご紹介させていただきましたが、どのようなビジネスモデルで収益をあげていくかが大きなポイントとなるでしょう。

社会インフラを支えるクラウド基盤

クラウドコンピューティングの流れは、大きな社会のIT基盤としての役割も担っていくことが期待されています。例えば、電子政府や電子行政、教育、医療など、ITの活用が他の先進国と比べている分野においては、クラウド基盤を活用することによって、コスト削減とともに効率的に運営をすることが可能となるでしょう。いわゆる、コミュニティ・クラウドが構築運用できるようになれば、利用するユーザにとっての利便性向上も期待されます。

クラウドは、以前から電気や水などの社会インフラに例えられるケースが多く見受けられます。社会インフラに位置づけられるためには、セキュリティや法律や標準化など、解決や整理していかなければならないテーマも多々あることでしょう。

現在、スマートシティやスマートコミュニティ、そして、スマートグリッドやスマートハウスなどのキーワードが注目されています。いずれも定義の範囲は異なりますが、いずれも環境に優しい街づくりに欠かせない重要なキーワードと考えられます。

一番大きな定義となるのが「スマートシティ」だと考えていますが、スマートシティの実現には、HEMSやBEMS、スマートハウス、電気自動車(EV)、蓄電池、再生可能エネルギーなど技術や仕組みづくりなど様々な要素が関係してきます。個々の技術というよりは、むしろそれらを組み合わせた仕組みづくりが重要となります。

これからの仕組みを支えるのがクラウド基盤になると考えられます。例えば、全世帯がスマートハウスでのスマートメーターで電力管理をするようになれば、電力会社や第三者への情報提供など様々なデータが飛び交うことになります。「 「HEMS」の進化が止まらない激化するスマートハウス開発競争」の記事にもあるように、スマートハウス分野での覇権争いは激しさを増しています。

また、電気自動車(EV)の場合も、ITS、そして、各家庭や充電スタンドでの充電履歴や、ワイパーなどによるプローブ情報のアーカイブすることによって地域ごとの雨量を確認するなど大量にデータを扱うことが想定されます。これらのデータを元に、充電スタンドのリコメンドビジネスなども考えられます。「EV(電気自動車)から生まれる新市場」でご紹介しましたが、電気自動車によって、自動車のアーキテクチャーそのものが大きく変わり、クラウド側と連携した新しいビジネスも生まれてくることでしょう。

「電気マネー」の流通

さらには、1年以上前の「スマートグリッド普及期の「電気マネー」の可能性について」でご紹介させていただきましたが、各家庭で発電した太陽光発電などの余剰電力を売電してポイントに還元するいわゆる「電気マネー」という考え方があります。売電対価や企業ポイントを合算したもので、「用途限定型電子マネー・ポイント」として捉えることができるでしょう。「電気マネー」を充電スタンドで利用するといったように、スマートグリッドによる電力の双方向の流れが進めば、同様にデータの流れも大量に発生する可能性が考えられます。

スマートシティを支えるクラウド基盤とデータセンター需要

これらの大量データを扱うためには、先述したように大量のデータを扱うことになり、これまで以上にデータセンターを用意する必要が出てきます。東京一極集中というのはなく、データの最適流通を考えた場合、地域ごとにクラウド型のデータセンターを建設するニーズも出てきます。大規模なデータセンターの場合は、サーバーなどの冷却など大量の電力を消費するために、原子力発電や太陽光発電、そして風力発電などの再生可能エネルギーの活用もポイントとなります。

現在、IIJが島根県松江市に、日本ユニシスが福井県小浜市にデータセンターを建設することを明らかにしましたが、いずれも原子力発電所からの利用を想定しており、電源立地の優遇策を適用すると考えられます。今後は、クラウドの流れ、そして、スマートシティの動きが進めば、これらの郊外型データセンタービジネスも進んでいく可能性が考えられます。内閣府が進めている総合特区でもいくつかの自治体において、データセンター誘致のための特区の提案も見られます。

政府が推進するスマート関連事業

スマートシティ関連事業は政府も重要な政策として位置づけています。1月20日のITProの記事「スマートスティ実証事業に150億円」によると、環境や社会インフラ関連への手厚い配分が目立っていることが書かれています。

「国際エネルギー消費効率化等技術・システム実証事業」:190億円

他国の政府や企業と協力して、スマートグリッドなど省エネルギーや再生可能エネルギーに関する技術やシステムの実証事業に取り組むというもの。海外に省エネ関連の技術やシステムを展開し、2020年に約1兆 3000億円の経済効果を上げることを目標に掲げている。2010年度は「国際エネルギー消費効率化等システム共同実証事業」として取り組んでいた。

「次世代エネルギー・社会システム実証事業」:149億2000万円

エネルギー制御管理システムを活用したスマートシティの構築と実証を横浜市など4地域で展開する。同事業を通じて、スマートシティ関連の技術の国際標準化や産業競争力強化を図ることを目的とする。2010年度は「スマートコミュニティ関連システム開発事業」として、エネルギー需要制御システムの開発を推進してきた。

経済産業省のスマートシティ関連ではこのほかにも、「次世代エネルギー技術実証事業」と「スマートコミュニティ構想普及支援事業」がそれぞれ32億円、2億8000万円を計上されているということです。

総務省においても「グリーンICTの推進」に28億2000万円を計上し、グリーンクラウド基盤構築に向けた研究開発のために約 14億円を計上しています。総務省の最近のスマートシティ関連の実証実験としては、総務省が公募した「環境負荷軽減型地域ICTシステム基盤確立事業」の「NTT西日本が北九州市でスマートネットワークの実証実験」があげられます。

スマートシティと社会インフラの海外展開

そして、スマートシティは、社会インフラの海外展開においても重要な位置づけとなっています。経済産業省が1月5日に公表した「新成長戦略の実現に向けた経済産業省の取組(進捗と今後の課題) 」によると、「インフラ関連産業・システム輸出の推進」では、インフラ・システム輸出促進支援(372.6億円)、スマートコミュニティ、水処理、リサイクル、宇宙等における事業実施可能性調査、研究開発・実証事業、人材育成等があげられています。

また、総務省では、「「次世代社会インフラシステム」の国際展開について(国際競争力強化検討部会 最終報告書より)」のブログでご紹介しましたが、パッケージでのアジア展開において、

我が国全体の成長戦略の観点からは、我が国が強みをもつインフラをパッケージとして、アジア地域に展開・浸透させることが重要。我が国の最先端のICTシステムをインフラに組み込むことにより、ICTシステム自体の国際展開に資することに加えて、社会インフラの飛躍的な効率化・高度化が達成されることによるインフラの国際競争力向上といった効果も期待される。このため、次世代社会インフラシステムに関する総合的なプロジェクト組成を関係府省と連携しつつ進めることが必要。

としています。

「環境都市」輸出、革新機構が1300億円の出資枠 日本勢支援、まずインドで三菱重工参画事業に100億円」の記事にもあるように政府の予算枠も大規模になっています。

国内外で進むスマートシティ案件

スマートシティで、海外で積極的な取り組みを見せている例としては、「天津エコシティ」があげられます。日立など日系企業も積極的に本プロジェクトに参画しています。また、「 [NRI]スマートシティ「物聯網」関連ビジネスで先手を打つ」の記事にもあるように、中国版スマートシティ計画「物聯網(ウーレンワン)」関連の事業強化を進めています。富士通も「 [富士通]大規模インフラ案件に照準、垂直統合型の強み生かす」に書かれているように中国版スマートシティ計画「物聯網(ウーレンワン)」 への対応を強化しています。「中国版スマートシティの商談が活発に」では、これまでの受注案件が紹介されています。

中国だけでなく、「三菱重工、インドの次世代都市インフラ構築プロジェクトに参画」のように、インドも大きな市場と言えるでしょう。「東芝、フランスでのNEDOのスマートコミュニティ実証事業に参画へ」など世界にも展開を見せています。

そして、「藤沢と青森でスマートシティ開発、インフラ輸出のひな型競争が始まる」の記事にもあるように、日本としてどのようなパッケージを海外に展開していくかも大きなテーマとなるでしょう。

まとめ

最後にスマートシティについてまとめられた記事を紹介します。「2011年の「スマートシティ」を読み解くキーワード」では、2010年のスマートシティに関する世界10大トピックなどの取り組みがまとめられています。

スマートシティの実現には、電気や水道や電気自動車、そして鉄道など様々な要素が絡んできますが、いずれの実現にも欠かせないのが情報システムであり、大規模なデータの処理を支え、街全体を横断的にデータの管理運用するためには、クラウド基盤が重要となります。

クラウドの流れは、これまで企業での導入などへの関心が高かったのですが、スマートシティやスマートグリッドへの動きが進むにつれて、社会インフラを支える基盤としてのクラウドが益々注目されるようになるのではないかと考えています。

 

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