クラウドでギャップが生じる「ユーザ視点」と「提供事業者視点」
クラウドコンピューティングを議論する上で、よくギャップを感じるのが、「ユーザ視点」と「提供事業者」視点です。いくつかの視点を少しとりあげてみたいと思います。
ロケーションの視点
ユーザ視点で見ると、クラウドは場所を気にすることなく、コンピューティングリソースにアクセスできることが特徴の一つです(もちろん、場所を気にするユーザもいらっしゃいます)。一方、提供事業者は、クラウドをどの場所(国)から提供するかというのは、非常に重点を置いています。アジアのハブはシンガポールや香港になりつつあり、事業者側にとっては、グローバル市場を視野にいれた電力コストや立地条件を考慮したロケーション戦略は重要な位置づけとなっていくでしょう。
「保有」と「利用」の視点
クラウドの場合は、ユーザは「保有」から「使用」に変わり、コンピューティングリソースを柔軟に利用できるというのが特徴の一つです。一方、提供事業者はクラウドサービスを提供していくにあたって、データセンターなどへの投資が必要となり、市場の成長とともに設備を「保有」していくことになります。大手IT各社の事業計画を見てみると、データセンターへの投資比率は高まっています。設備を多く持つ比率が高まれば規模の経済(スケールメリット)においてビジネスを有利に進めていくことができる反面、技術の進化とともに不良債権化してしまう可能性も否定できません。
「パブリッククラウド」と「プライベートクラウド」の視点
クラウドコンピューティングの由来は2006年にグーグルのエリック・シュミットCEOが使ったのが初めてと言われ、グーグルなどが提供するサービスがクラウドコンピューティングという認識が広まっていました。その後、NISTの定義や大手SI事業者が「プライベートクラウド」というキーワードを使いはじめ、クラウドの定義は大きく広がりました。調査会社の予測では、「パブリッククラウド」よりも「プライベートクラウド」の市場規模のほうが大きくなっています。「プライベートクラウド」は、どちらかというとユーザを囲い込むための提供事業者の視点にたったキーワードと言えるでしょう。
慎重派のユーザと推進派の提供事業者
クラウドの導入事例も増えつつありますが、セキュリティや信頼性に不安を感じているユーザが多いのも現状です。また、情報システム担当者の視点で考えると、クラウド側に移行することになれば、担当自身の仕事がなくなってしまうのではないかという不安もあり、導入の慎重派も少なくありません。一方、提供事業者は、これがクラウドかというのも時々感じることもあるのですが、クラウドというキーワードを積極的に使い、ユーザ側への提案を強化しています。提供事業者は、これまでの窓口の情報システム部門だけでなく、経営陣や経費でクラウドを導入できる業務部門にも提案範囲を広げているケースも見受けられます。
その他にも、サービスの視点などいくつか考えられますが、クラウドコンピューティングの市場成長において、いかに利用者側と提供者側の視点のギャップを埋めていくかが、一つの鍵となるのかもしれません。