混乱するクラウドの定義
クラウド関連の記事はほぼ毎日チェックを心がけているのですが、ここ数ヶ月はあまりにも「クラウド」のキーワードが乱発しており、特にベンダが提供するクラウドサービスに少々追いつけていない状況となっています。
各社のクラウドの定義も多種多用で、ITpro「「クラウドは何が違うのか」有力8社に聞く」を読むと、それぞれ異なることが理解できます。各社の定義を少しご紹介しましょう。
- NEC: 標準化されたアウトソーシングの形態。
- NTTデータ: 米NISTの定義に準じる。仮想化・柔軟性などがポイント。
- グーグル: インターネットを経由して受けるサービス全般。
- セールスフォース・ドットコム: 一般消費者向けのウェブ技術を、法人向けに価格と品質を明示して提供すること。
- 日本IBM: 「自動化・標準化」によって実現するITサービス提供の工業化。
- 日立: 大幅に拡張可能なコンピュータ環境をネットワーク経由でサービスとして利用するスタイル。
- 富士通: システム運用のリソースを集約して効率を上げること。
- マイクロソフト: インターネットの向こう側にあるものを活用してメリットを享受すること。
各社いろいろな定義があることがわかります。
日経産業新聞(2010.4.2)に「クラウド、定義で混乱も」の記事が記載されていました。その中でまず、米国立標準技術研究所(NIST)の定義が照会されています。以下5つの特徴です。
- オンデマンドのセルフサービス
ユーザはプロバイダと直接やりとりしないでも、必要なときに必要なだけのコンピューティング能力を利用できる - ビキタスなネットワークアクセス
モバイル端末を含む様々なクライアントからサービスにアクセスできる - ロケーションに依存しないリソースプール
プロバイダのコンピューティングリソースはマルチテナントモデルで運用され、ユーザはそれがどこにあるのか意識しない - 迅速な拡張性
必要に応じて、コンピューティング能力のスケールアップやスケールダウンを迅速に処理できる - 従量制サービス
クラウドシステムはサービスの種類や利用状況を自動的に監視・管理し、従量制で課金を行う
IDCジャパンのマネージャーは、
現時点で5つの特徴をすべて満たすのは、グーグル、アマゾン・ドットコム、セールスフォース・ドットコムの米国の3社だけだ。(中略)日本勢はまだ面談が前提で、オンデマンドセルフサービスの実現が遅れている
と指摘しています。従来のサービスに「クラウド」と名付けて売り込む例もあるということで、私もニュースサイトのチェックで特に感じるようになりました。また、「従量課金」を実現できる事業者も多くはないでしょう。
ガートナージャパンの最上級アナリストは、
過度のピーク期にある。クラウドをセールスに使いたいIT企業の勇み足が原因だ。
と指摘し、このままでは、幻滅が広がりかねないと危惧しています。
ガードナーが昨年9月に発表した「ハイプ・サイクル・スペシャル・レポート」によると、9月時点で「過度のピーク期」に入っており、ハイプ・サイクル・レポート」を見る限り「幻滅期」に入ってもおかしくない状況にあるのかもしれません。
(出所:ガードナー ハイプ・サイクル・スペシャル・レポート 2009.9)
日経産業新聞では最後に
IT関連企業はやみくもにクラウド関連を売り込む姿勢を改め、適切な分野を見極めて顧客に提案していくべきだ。2009年半ばから高まったクラウドへの関心を一過性に終わらせないためには、提供者側と利用者側の相互理解が欠かせない。
と書かれています。提案手法だけでなく、クラウド技術の開発やサービス企画などについても検証していく必要があるでしょう。クラウドのブームに乗り、各社がクラウド戦略を掲げ、ユーザ側が少々混乱しているようにも見受けられます。各社改めてクラウドの定義を整理していく時期がきているのかもしれません。